親不孝な『私』
ちょっと短めです。
レターセットを見つけた。
あと、万年筆っぽいペン。
カートリッジ式のっぽくて、書き味は悪くなかった。
他にも羽ペン見つけたけど、絶対失敗するからやめておいた。
色鉛筆とか欲しいけど、ないなぁ…
似顔絵については、あんまり漫画っぽく描いても受け入れられるかわかんないから、模写に近い漫画絵にする事にした。
…意外と美男美女って描きにくいんだな。
ちょっと変な特徴あった方がわかりやすくて描きやすかったわ。
ハゲの社会教師とか、いつもツリ目で威張り散らしてた体育教師とか。
なんで試験用紙の裏とか授業用ノートの途中とかに描く絵って、すげぇ上手く描けるんだろ。
閑話休題。
めちゃくちゃ時間使って、しっかり描きましたよ!
服は覚えてないから、全体じゃなくて肩までだけどね!
中々上手く描けた気がする!
後は横にちょっとだけメッセージを添えて…
うーん、白黒で華がないなぁ。
陰影は付けてみたけど、もっとカラフルにしたかった。
色鉛筆がないか、今度聞いてみよう。
「ユージェリス様?起きてられますか?」
ノックの音と、シャーリーの声が聞こえた。
僕はさっさと手紙を封筒にしまい、上着の内ポケットに隠す。
「うん、起きてるよ。どうかした?」
「そろそろお誕生日会が始まりますので、食堂の方へどうぞ」
「はーい」
鏡で身嗜みを整えて、部屋を後にする。
食堂の前に着くと、扉は閉まっていた。
「それではユージェリス様、よろしいですか?」
「うん、いいよ」
「…ご覚悟下さいませ」
え、どういう事?!
シャーリーが勢いよく扉を開けて、僕を前に押し遣る。
中に一歩踏み入れると、突然、一陣の風と共に色とりどりの花びらが眼前に広がった。
咄嗟に両腕で防ぎ、風と花びらが通り過ぎるのを待つ。
2〜3秒だったかもしれない。
落ち着いたところで、僕は目を開いた。
「「「「お誕生日おめでとう、ユージェリス」」」」
そこにいたのは…大切な家族達だった。
みんな笑顔で祝福してくれる。
あぁ、心があったかい。
ポカポカして、フワフワして、ちょっと落ち着かない。
何故だか泣きそうになった。
「ユージェお兄様、おめでとうございます!」
「びっくりした?あの花びらね、さっき僕とフローネで集めたんだ!」
「それをお父様とお母様に魔法で舞ってもらったの!」
「廊下にまとめてあるから、後で部屋に持って帰って花風呂とかにしてみてよ!いい匂いだから!」
「あともう1つ、これも作ったんですの!どーぞっ!」
フローネとロイ兄様が僕に近寄って興奮冷めやらぬように説明してくれる。
そうか、つまりあれはクラッカー的な役割だったのか。
確かに綺麗で実用的で圧巻だった。
そしてフローネが背中に隠していたものを僕の頭に乗せる。
これは…
「…花冠?」
「えぇ、黄色のガーベラで作りましたの!ピンクと迷ったんですけど、お兄様の髪には黄色の方が似合いそうだったから!」
「それに黄色の方が王冠っぽいよね!あとで『キープ』しといてね、僕達まだ魔法使えないからさ」
「…ありがとう」
ポロリと、感謝の言葉が口から溢れた。
あぁ、顔が熱い。
きっと今、僕の顔は真っ赤だろう。
「ほら、ユージェリス、こちらへおいで」
(ほら、柚月、こっちきてみろ)
「ユージェちゃん、いらっしゃい」
(ゆーちゃん、おいで)
父様と母様の声に、お父さんとお母さんの声が重なる。
見た目なんて全く似てないのに、なんでだろう。
今まで忘れていた、2人の笑顔が浮かんできた。
僕は無意識に考えないようにしてたらしい。
ベティ様と話して、『私』が死んだ事を確信して、そして心の奥にしまい込んでた、この事実。
あぁ、そうだよ、もうあの2人には会えないんだ。
ごめんなさい、お父さん、お母さん。
2人を残して先に逝ってしまって。
親不孝な『私』でごめんなさい。
こうやって新たな両親や兄妹に囲まれて、幸せな日々を過ごそうとしている『僕』を、どうか許さないで。
でも次こそは父様と母様よりも長生きするから。
最期までちゃんと生きるから。
悲しませたりしないから。
…最期にはちゃんと、罰を受けるから。
「…うん、父様、母様!」
だから、この場所にいさせて下さい。