モテモテなベティ様
遅くなりましたー!
ちょっと書き進めていたら長くなり過ぎたので、2話分に分けて書き直してました(笑)
「でねぇ、焔のその時の顔ったらもう食べちゃいたいくらい可愛くってぇ…!!」
「…ソウデスカ…」
死んだ魚のような目で前を見つめながら早歩きするベティ様と、ぴったりと並走するように付いてテンション高く惚気る(?)十六夜さん。
すげぇ、ベティ様の王妃様フェイスを完璧に崩しにかかってる。
まぁ十六夜さんにはそんなつもりはなく、ただ聞いてほしいだけなんだろうけど。
一方の僕らは離れない距離感を保ちつつ、近寄ろうとはしなかった。
「十六夜、焔への愛が昔よりも爆発してるねぇ」
「楽しそうだな」
「昔はもっと落ち着いてたんですか?」
「というより、焔が思春期で惚気る十六夜に恥ずかしがってガチ切れしてたから。今は思春期が終わったのか、それとも諦めがついたのか…そこまで止めてないんじゃないかな?」
なんとなく、後者な気がする。
「十六夜?何してんだ?」
「あ♡ほ・む・らぁ〜♡」
ちょうどのタイミングで、焔が前から歩いてきた。
そして目にも止まらぬスピードで焔に抱き付くために突っ込んでいく十六夜さん。
手慣れたようにそれを避けて、首を傾げながらこっちを見た。
ちなみに十六夜さんは全くめげずに避けられた後に方向を変え、焔を背中側から抱きしめて幸せそうだ。
「あれ?ユージェやん、久しぶりだな!と言っても比較的来るの早かったな?」
「まぁちょっと用事があってね」
「ふーん。あ、てか東雲と神楽!お前らの方が久しぶりやんけ!」
「ただいま、焔!相変わらずみたいだね!」
「…おぅ」
「ユージェ、今日はジーンいないのか…あれ?その人は…?」
「あぁ、もう1人の転生者だよ」
「ベアトリス=リリエンハイドよ。ベティって呼んでちょうだいね」
軽く微笑むベティ様の表情には『貴方があの…』みたいな同情心が含まれていた。
さっきまで色々聞かされてたもんな。
対する焔は、何故かベティ様を見つめて顔を真っ赤にしていた。
「…だ」
「え?」
「めちゃくちゃ美人だ…フランス人形みたい…」
「「…おや?」」
僕と神楽さんの声がハモる。
なんか、気のせいかな?
恋に落ちる音が聞こえた気がした。
「…メールト?」
「溶けちゃったら困るんだけど?」
ですよね。
「…焔…?」
「「「はっ…?!」」」
ゴゴゴゴゴゴ…と、地響きが聞こえた。
あれ?十六夜さんってスタンド使いだったっけ?
背後に般若が見える。
そして神楽さんとベティ様、なんで僕の両腕にしがみ付いて震えてるのかな?
体がガクガクするじゃまいか。
…あれ?僕が震えてんのか?
「…焔ぁ?貴方の、最愛の、愛しい、愛すべき、1番大切な奥様は…だぁれ…?」
「最愛ってわけでも1番大切ってわけでもないけど、とりあえず奥さんは十六夜だな」
「…アタクシの事、愛してない、と…?」
「まぁ愛して結婚したわけじゃなくて、諦めて結婚しただけやしなぁ…お前もそれで納得して結婚したんじゃねぇか。俺が好きな人出来てもいいんだな?って聞いたら、相手を潰すからいいとかって言っとったし…」
うわぁ、本気で諦めて結婚しただけなのか…
前もそんな事言ってたけど。
顔が心底嫌そうな表情で、吐き捨てるように言う焔。
一方の十六夜さんは般若を消して、焔の肩に頭をグリグリ擦りつけるようにいじけていた。
「…これだけ好きだって言ってるのに、何が足りないのかしらぁ…どうしてアタクシを愛してくれないのぉ…?」
「俺の気持ちを察する気がないからじゃないか?」
やだ、この会話怖い。
ベティ様なんていつ矛先が自分に向くか気が気じゃないみたいで、ずーっとガクブルしてる。
「いやぁ、ベティさん、えらい別嬪さんだよなぁ…歳が近ければ本気でお相手願いたかったわ…」
「そ、そうね、親子ほど離れているものね、流石にそういう対象じゃないわよね…?!」
焦りすぎでしょ。
「まぁ俺と十六夜も親子に近い歳の差やけどなぁ…てかいつまでくっ付いてんだ、俺は殿に頼まれた仕事があるから先に帰るぞ」
「やぁん、アタクシも一緒に愛の巣に帰るわぁ〜!」
「じゃあな、ユージェ、ベティさん。また後で城に顔出すから、その時にな」
「あ、うん、またねー」
「ご、ご機嫌よう…」
「リアルご機嫌よう…!マジで素敵…!」
「ほぉむぅらぁ〜!!アタクシを見てぇ〜?!」
…台風一過の如く、急に静かになった。
やっと両腕から神楽さんとベティ様が離れてくれたよ。
そういえば東雲さんは?と思って振り返ると、完全に白目剥いて気絶してた。
いつからこの状態だったんだろう…
とりあえず神楽さんが東雲さんを運んでくれる事になりました。
そして虎徹さんの待つお城に到着。
勝手知ったるというか、特に入城の申請とかするわけでもなくズカズカと中を進む。
途中ですれ違ったお侍さん的な人達は少し驚いた表情をしつつ、神楽さんと東雲さんを見て納得したように通してくれた。
僕を覚えてた人もいたみたいで、会釈してくれたりもした。
虎徹さんの部屋の前に辿り着き、声をかける前に神楽さんが襖に手を添えて勢い良く引き開ける。
「とぉーのぉー!!たっだいまぁー!!!!」
「うぉうっ?!」
どうやら虎徹さん、うたた寝してた模様。
頬杖をついたままビクついて叫んでいた。
すみませんねぇ、お休みのところ。
「なんだぁ?!あ、神楽じゃねぇの!もう帰ってきたのか?!連絡来てから時間そんなに経ってねぇのに!まだ返事してねぇぞ?!」
「ユージェ君が凄くてさぁ、早く帰って来れたんだよー!」
「マジかよ、流石は乙女ゲーの攻略対象だな」
「まだそれ言ってるんですか。こんにちは、お邪魔してます」
「よく来たな、ユージェリス。まぁゆっくりしてけや…んんっ?そっちの…天使、いや、女神は?」
「天使…」「女神…」
「あらやだ、私の事かしら?お初にお目にかかります、リリエンハイド王国王妃ベアトリス=リリエンハイドと申します。前世の名は笹川愛梨、看護師をしておりましたの」
「おぉ、アンタがもう1人の!いやぁ、会えて嬉しいねぇ!にしてもこんなに別嬪さんの転生者だったなんて!いやぁ、俺がもうちっと若ければお宅の王様に喧嘩売って略奪したんだけどなぁ!」
「あらあら、まぁまぁ、お上手です事。オホホホ」
貴方もですか、虎徹さん。
そしてベティ様、ちょっと満更でもないって顔するのやめて下さいよ。
バレたら僕が陛下に怒られるじゃん。
多分虎徹さんの漢気ある感じがベティ様のトキメキポイントに加算されてるんだろうな。
見た目はふくふくエビス様だけども、虎徹さんってなんか雰囲気カッコいいもん。
「んんっ?なんだ、東雲寝てんのか?」
「ちょっとさっき通り魔に出会いまして、気絶してるんです」
「うちの国に通り魔ぁ?…十六夜か華とでもなんかあったか?」
「何故その2択」
「東雲が気絶するくらいなら、その2人しかいねぇからな。まぁ華は今この城の奥にいるだろうし、そうすっと十六夜辺りかねぇ」
「流石虎徹さん、だーいせーいかーい」
「当たっても嬉しくねぇ問題だなぁ」
苦笑いの虎徹さん。
正解にお土産のお酒でもあげようかしら。