国を越える噂
どうしてこうなった。
「君、どこから来たの?名前は?」
「大人っぽいよねぇ、何歳?」
「というかスタイル抜群!可愛い〜!」
「ねぇねぇ、今1人なんでしょ?彼氏いる?」
「お願いだから声聞かせてぇー?」
…絶賛5人の男に囲まれてます。
そして僕はジェリスちゃん。
魔導具で体ごと変身してたので幻影とは違い、触られても問題なし。
だがしかし、肩を触られて不快に思わないわけではなく。
宿を出て、僕は思ったわけですよ。
別にジェリス、イコール、僕だとバレてないなら、とりあえずジェリスちゃん仕様でいいんじゃね?と。
シャーロットさんのお兄さんであるヘイゼートさんとは会ったら多少は気まずいけども、と。
そして今に至る。
そうだね、ジェリスちゃんって母様やフローネに似て、美人だよね…!!
とりあえずガン無視してたら、5人のうちの1人に肩を抱かれて横を歩かれた。
ふ・か・い!!!!!
貴様、◯ームの餌にしてくれようか!!!!
森へお帰り!!!!
…あ、そっちの『ふかい』じゃないって?
うふふふふ、あらやだ失礼。
とりあえず、心底蔑んだ目で見てやったら手は離れた。
「で、でさ?俺ら今から美味しい酒が飲める所に行くつもりなんだよねぇ!君もどうかな?」
「勿論俺らが奢るよ!好きなだけ飲んでくれていいから!」
「…大事な用がありますので」
「うっわ、声も可愛いね!ますますタイプ!」
「用事なんて後でもいいでしょー?まだ昼間なんだし、後でまた済ませばいいじゃーん」
「てか、もしかしてどこかのお嬢様?なんか品があるよねぇ!」
…話を聞かねぇ奴らだな。
こうなったら見えない所に2〜3発魔法かまして気絶させるか…
「…ジェリスさん?」
「え?」
呼ばれた声に振り返ると、まさかのヘイゼートさんががががが。
「あぁん?ヘイゼート、お前の知り合いかよ!」
「ジェリスちゃんって言うんだぁ、名前も可愛いー!」
「つーかヘイゼート、こんな可愛い子と知り合いならさっさと紹介しろよな!」
「本当だよ、自分だけさっさと結婚しやがってよぉ!」
「美人の嫁さんからも可愛い子紹介しろぉ!」
…あ、結婚したんだ、おめでとうございます。
「バカ言え、お前らなんかに紹介出来るわけないだろ。その子は妹の友人で、私も1回しかお会いした事がないんだから」
「シャーロットちゃんのお友達かぁ!やべぇな、美少女の組み合わせ!」
「見てみたかったわぁ!ヘイゼート、シャーロットちゃん呼んできてよ。そしたら俺らみんなで飲みに行くから」
「馬鹿野郎、誰が大事な妹をお前らに渡すか。それに今うちの妹は出かけていていない」
「「「「「残念すぎるぅー!!」」」」」
あら、シャーロットさんいないのね。
もしかして本当にうちの国に向かった…?
いや、まさかね。
「お前ら、それ以上彼女にちょっかい出すようなら、うちの製品をうちの言い値で卸してやるからな?」
「「「「「ひぃ!!それは勘弁!!」」」」」
ヘイゼートさんの言葉に、顔色を変えて逃げていく5人。
どゆこと?
「…あの5人の実家は、うちと取引のある商家だったり工房だったりするんだ。なので昔から歳が近いのもあって顔見知りではあって…不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「あぁ、いえ、お気になさらず」
というか、ヘイゼートさんにもびっくりしてる。
なんか随分落ち着かれた?
前は僕の顔見るなり暴走してたような気がするんだけど…
「あぁ、えっと、実は結婚しまして。その女性が僕の趣味にも父の趣味にも理解があるというか、凄く協力してくれるというか。だからかな、最近結構心穏やかなんだ」
にっこりと嬉しそうに微笑むヘイゼートさん。
どうやら日々が満たされてるみたい。
あの時は結構ストレス爆発末期だったのかもな。
「ご結婚おめでとうございます。楽しそうで良かったです」
「ありがとう。それにしても、ジェリスさんも雰囲気変わった?前はもっと…いや、なんというか、大人っぽくなったように見えたんだけど」
…そういや、初対面の時はキャピキャピさせてたな、可愛こぶってたというか。
あのキャラ疲れるし、さっきの人達にやったら勘違いさせるだけだろうし。
「実はあの時は諸事情で少し作ってたんです。すみません」
「いえ!今のジェリスさんも素敵ですから!私の理想のままだしね!」
あ、ちょっと戻った。
「それで、今日はここへ何しに?この辺の子じゃないんだよね?」
「あぁ、ちょっと知り合いのところへ行く事になって、その道中なんです。それで友人達にお土産を探してまして…」
「そうなんだ。良ければ相談に乗ろうか?うちの店にあるものなら、多少は金額も勉強させてもらうよ?」
「まぁ、嬉しい。では、お願いしても?あぁ、そう言えばシャーロットさんがいらっしゃらないってさっき…」
「あぁ、母のところへ行ってるんだよ。最近では良く行っててね。来月になったら遠出するからか、今回は長めの滞在で父は毎日のように泣いてて…」
「…遠出?」
「あぁ、リリエンハイド王国に行くらしい」
マジか。
シャーロットさん、ジーンの事、本気なのかな?
ジーンは…初対面の時は比較的好意的だったような気もするけど…
「お1人でそんな遠くまで行かれるんですか?」
「いや、うちの下請けの商会がリリエンハイド王国まで仕入れに護衛雇って馬車で行くから、それに乗っていくんだ。歳の近い女の子もいるし、それならまだ安心していけるから父もやっと許可を出してね」
「成る程…それにしても、そんなに遠い国のものを仕入れに行ったりするんですね。商人さん達には頭が上がりません」
「ははは、今回は特別なんだよ。面白い噂を聞いたから、ついでに足を伸ばす感じなんだ」
「噂ですか?」
「なんでもリリエンハイド王国の貴族女性を中心に話題になっている、謎の魔導具があるそうでね」
「…ほう?」
「中々数が出回ってないそうで、それを持っている女性はグループの中で優位に立てるらしい。貴族女性にも人気で、近隣諸国の貴族女性も噂を聞いたり実物を見たりして、手に入れようと躍起になってるそうだよ」
…まさか…?
「…それは、とても凄いものなんですね…というか、そんな遠い国の情報までご存知とは…」
「あぁ、だからそれなりに高くても1つは手に入れてみたくてね。可能であれば製作者と直接交渉して、定期的な仕入れをお願いしてみようかな、と。商人にとって情報は宝だからね、遠い国の流行も押さえておかないと。まぁこれだけ離れてると情報もどこまで正確か定かじゃないから、リリエンハイド王国に向かいながら正しい情報を仕入れていくのさ」
…気のせいかな?
僕が作った美顔器なんじゃあるまいか…
つまり製作者とは僕なわけで…
…いやぁ、気をつけないと店から弾き出されるぞ…?
「…あまり、無理に交渉はしない方がよろしいでしょうね。貴族女性で持ってる方と持っていない方がいるのであれば、何かしらの規制をされてるのかもしれませんし」
「あー、確かにそうだね。製作者は金と権力じゃ動かない頑固職人タイプかもな…」
いや、ただめんどくさくて丸投げしてる適当男ですけども?
言わないけど。
美顔器はまだ基本的に国内の人にしか売ってないと思うけど、他国へ広まり過ぎても困るから規制かけておこうかな。
うーん、ティッキーさん達に要相談だ。
別にジーンとかを養える程度に儲かればいいなと思ってただけだから、こんなに人気になるとは思ってなかったんだよねぇ…
月の10セットが月内に売り切れたら嬉しいなぁくらいだったのに。
女性の美への追及って凄いわ。