女性、凄い
すんなり宿も2部屋取れて、男部屋と定めた部屋のベッドの上でゴロゴロなう。
従者としては失格だと重々承知の上でふ。
やっぱり僕も観光しようかなぁ…
でもユズキスタイルもジェリススタイルも、どっちもストレイトさんには見られてるし…
商人さんって人の顔覚えるの得意らしいし、顔変えないとバレるよね。
ならいっそ柚月スタイル?
昔の姿で出歩いた事はないなぁ。
この辺の顔立ちからしたら浮くだろうし…
なーんてぼんやり考えてたら、普通に寝ちゃった☆
多分2刻くらいかな、体も結構回復してきてるね。
寝ると回復が早くて助かるわ。
まぁ出発は明日にするけどさ。
「たっだいまぁー!ユージェ!」
「お帰りなさいませ、奥様」
「あらやだ、ここでもその設定なの?ベッドの上で寝転んでるくせに。顔だけキリッとしても取り繕えてないわよ?」
「ふへへへへへ」
だって起きたばっかりなんだもぉーん。
そしてベティ様の後ろから入ってきた神楽さんはニッコニコで、そのまた後ろから入ってきた大量の荷物を持った東雲さんはゲッソリしていた。
…女性の買い物に付き合わされた感じか。
「アイテムボックスに入れてくれば良かったのに…」
「大量の荷物が急に消えたら、びっくりされちゃうでしょう?街中をうろうろしてたんだもの、買ったお店の前を何回か通ったりしたのよ」
「あー、確かに、不審がられるか」
「いーっぱい買い物しちゃったわ!ベアトリス様に買ってもらっちゃったの!流石王妃様、おっかねもちぃ〜!」
「あら、あれは国のお金じゃなくて、私が昔働いて稼いだお金よ?」
「え?そうなんですか?王族ってお金持ちのイメージ強かったです」
「結局は民からの税金ですから、私利私欲のために使えないんです。ベティ様の服とか揃えるためのお金として使われたりはしますけど、個人の資産はないんですよ。例えば王太子のエドワーズ様がお忍びで王都を散策されるってなった場合、手持ちのお金は『視察費』とかの名目で支給されるものなんです。で、何に使ったかとかいくら残ったかとか、そういう書類を後で提出して、残金も全部経理部門に返すと」
「うわぁ、全然知らなかった。自由に使えるお金がないって厳しい…あれ?さっきの働いたお金って?」
「前に家出した時、変装して王都とか他領とかを練り歩いてたのよ。その時日雇いとかでバイトしてて、そのお金ね。ずーっと使えなかったから、ちょうど良かったわ!」
「ベティ様が王妃様の状態で買い物したら、税金の無駄遣いかって変に勘繰られますからね…」
「そうなのよぅ、昔はそんな事考えてなかったから、何か好きなもの買おうってずぅっと考えてたんだけど…勝手にお城から抜け出す事すら出来なくて、いっそ匿名でどこかの領地の孤児院とかに寄付しようかと思ってたわ」
「うわぁ、本当に大変だぁ…」
「…よくわかんねぇけど、これ置いていいか…?」
あ、疲弊した東雲さんがやっと口を開いた。
「『怪力』あるんだからお前が持てよな…」
「ひっどい!見た目非力な女の子にこんな大荷物持たせたら、批判されるのは東雲なんだからね!」
「あぁん?誰が女の子だ、誰が。40のババアじゃねぇか」
「「…40…?」」
ベティ様と3〜4歳しか違わない、だと…?
どう高く見積もっても、20代前半なんだが…?
「やーだぁ!言わないでよぉ!!それにまだ40歳じゃないもの、38歳だもーん!!」
「変わんねぇだろうが!!」
「…神楽ちゃん、何か特別なお手入れしてるの…?是非その極意を私に教えてちょうだい…!!」
「ぴぇっ?!」
あーあ、捕まっちゃった。
ベティ様、目が血走ってます。
ベティ様も十分30代に見えるんだけどねぇ…
女性の美に対する探究心って、恐ろしい。
あ、ちなみに例の美顔器はめちゃくちゃ好調に売れてるそうです。
毎月魔法で10台ずつ送ってるけど、送った半刻後には売り切れる事もあるんだとか。
あれを持ってる貴族は、一種のステータスとなりうるらしい。
いっそ販売数減らして希少性高めようかと思って『レター』に認めたら、ティッキーさん達に本気で止められた。
あの時の手紙からは怨念のようなものが立ち込めてたな。
なんでも買い求めに来たご令嬢方の気迫がヤバいらしい。
金と力にものを言わせて買おうとする人がいたらしいけど、僕が前にお店に付与した『店主が不適切だと感じたら2度とその人が敷居を跨げないようにする』魔法のお陰で追い出す事が出来てるらしい。
店の外で号泣するご令嬢を何人も見た、と書いてあったな。
ちなみに付与者を聞かれたそうで、ちょうど化粧水の補充に来ていたベティ様の侍女であるリリーの母親のルリエルさんに相談したらしい。
そしたら僕が作成者だと知ってるルリエルさんからベティ様に話が行き、ベティ様が付与したという事になった。
ベティ様も美顔器の愛用者で、そのお店が困らないように陛下の許可を得て付与した、と。
ちなみに陛下の許可なんか取ってません、多分今も。
んでまぁ、それを怒ったお客さんに言ってみたら、追い出されて号泣するご令嬢は減ったそうな。
愛し子でもあるベティ様の恨みを買いたくはないだろうからねぇ。
貴族の女社会で1番偉いのはベティ様だし。
そんな人にバレたら1発で社交界に居れなくなる可能性もある。
そこから王室御用達扱いとなったティッキー&ディッキー装飾店は、今じゃ王都で大人気です。
美顔器だけじゃなく装飾品も良く売れるようになったんだって。
閑話休題。
「さて、まぁ楽しめたようで何よりですよ」
「ジャルネのお殿様って人用に、お酒買ったりしてたのよ。お土産は大事だしね」
「あぁ、そっか、向こうは物々交換だから、僕もやっぱりなんか仕入れていかないと…アイテムボックスになんか入ってたかなぁ…」
とりあえず花さんや十六夜さんには化粧水の追加をあげて、虎徹さんにはこの前渡したものとは別のお酒で…
焔や黒鉄さん、あと娘の月詠ちゃんへはどうしようかな…
牡丹ちゃんや葉桜ちゃんとはあんまり絡まなかったけど、必要かなぁ?
うぅん、難しい。
「僕も後で変装して買い物してこようかな。みんな、お昼は?」
「食べてきたわよ、ちょうどいい時間だったし」
「じゃあ僕も済ませてくる、行ってきまーす」
「「いってらっしゃーい」」
笑顔で見送ってくれたベティ様と神楽さん。
一瞬見えた東雲さんの『1人にすんじゃねぇ!』みたいな目線はスルーします。
さて、どんな変装しようかなぁ。