食べ物の恨み
昨日更新出来なくてすみませんでした!
そっと扉を閉めて出直そうと思ったら、トンッと背中を押された勢いで執務室の中に入っちゃった。
振り返ると、それはそれはいい笑顔のジーンが扉を勢いよく閉めてくのが見えた。
…あの野郎、またやりやがったな…?!
そしてその扉が閉まる音で僕が来たのがバレたっていうね。
全員こっち見てるんだけど、僕にどうしろと?
「えっと…お邪魔します?」
やめて、みんなこっち見ないで。
特に陛下と宰相様と父様は縋るような目をしないで。
逆にエドワーズ様と兄様は『あーあ』みたいな目してる。
何、どういう状況なの?!
するとゆらりと動いたベティ様が、真顔で僕を見据えた。
超怖い。
「…ユージェ」
「は、はい?ベティ様?」
「貴方、私の命令なら、聞けるわよね?」
「え?あ、まぁ、同じ愛し子として、侯爵子息と王妃様の関係で言えば、聞けますけど…」
「ユージェリス!よせ!聞くな!」
「ユージェは貴方の命令を聞く筋合いはなくてよ?」
「うぐぅっ…!!」
あ、陛下が崩れ落ちた。
「ユージェリス=アイゼンファルド」
「は、はい!ベアトリス王妃様!」
「…I want to go somewhere far away from here」
…えっと、英語は苦手なんだけど…
望む、行く、どこか、ここから…?
あー、えっと、つまりどっか行きたい、と。
そういう場合の返しは確か…
「…As you wish」
「Thanks!My knight♡」
「「ユージェリス?!何を話してる?!」」
「ユージェリス殿?!」
「「あーあ…」」
父様達が僕を掴む前に、ベティ様が短距離で『ワープ』して僕を抱きしめつつまた距離を取る。
ベティ様、後頭部が柔らかいです。
「ベティ!!」
「家出します」
「「「「「は?」」」」」
「ユージェに精霊界連れてってもらうんだからぁ!!《ワープ》!!」
「ベティ!!」「「王妃様!!」」
「…ユージェリス、後で『レター』頼む」
「王妃様をよろしくね、ユージェ」
「はぁーい」
焦ってるのは大人だけで、エドワーズ様は呆れたように、兄様は諦めたように手を振ってくれた。
とりあえず返事をしてその場から去った、というか拉致られた。
そして拉致られた場所はうちの屋敷。
拉致じゃなかったわ、送ってもらっただけだわ。
「…あ、ジーン置いてきちゃった」
「いいわよ、代わりにユージェが来た理由とか説明してくれてるでしょ。それで、元々なんの理由であそこに来たの?」
「ジャルネの人をジャルネに送ってくるから、ちょっと国外出てきますねって言いたくて…」
「ジャルネ!!!!!」
「ふぇっ?!?!?!」
突然ベティ様に肩を掴まれてガクガク揺さぶられる。
うーあー、気持ち悪くなりゅぅ〜!!
「行きたい!!」
「はぁっ?!?!」
「ジャルネに家出しましょう!!!」
「どゆこと?!ってかなんで喧嘩してたの?!」
「…それは…」
「それは…?」
「…ユージェに貰ってた、お菓子、食べられて…」
「…は?」
…お菓子?
「結構前に、ユージェが大福とかお煎餅とか、和菓子作ってくれたでしょう?最近忙しくて全然ゆっくり味わって食べてる暇なくって、状態保存かけてずっと楽しみに取っておいたのよ。それでやっと今日時間が取れて、貰ってた緑茶も煎れて、食べる前にお手洗いに行ってたら…」
…ベティ様の顔が、真顔になる。
超怖い。
「…あの男、私に断りなく、勝手に食べてたのよ…」
「…おぅ…」
「戻った私が固まってたら、口一杯に大福詰め込みながら『ベティ!これ美味いな!茶会用の新しい菓子か?!もっと食べたいなぁ!!フェルナンドに言ってもっと用意してもらおう!!』ですって…」
「…あぁ…」
「私が…あたしが、何十年切望していたと…!!」
…それは、うん、陛下が悪いね…
確かにジャルネから戻ってきて、黒鉄さんから色々レシピとかコツとか教えてもらって、国内周りの途中で王都に戻った時に作ったんだよね。
んで、まとめてベティ様だけに献上した。
だって作った量少なかったし、和菓子の良さって万人受けするかわかんなかったし。
「せめて…せめて全種類1つずつ残してくれてさえいれば…!!」
「え、全部食べちゃったの?!」
半泣きで頷くベティ様。
もう救いようがないな、陛下。
「というわけで、行きましょう、ジャルネ」
「…その格好じゃ動きにくいと思うんで、着替えて貰ってもいいですか?洋服用意します?」
「大丈夫よ、持ってるから」
そう言ってベティ様は指を鳴らし、アイテムボックスから紺色のワンピースを取り出した。
うん、普通のワンピースだわ。
「化粧落としたり色々用意するわ。この部屋貸してくれる?」
「じゃあジャルネの人達呼んできますよ。多分僕とベティ様の魔力合わせれば2回くらい『ワープ』すればいけそうだし、準備出来たら行きましょうか」
「そうね、よろしく」
話が纏まったので、自室を出る。
一応誰か開けないように『ロック』かけとくかね。
後はエドワーズ様宛で『レター』も送って…
…とりあえず、ジャルネで美味しいもの食べてもらって、機嫌が治ったら帰ってこよう。