理解を諦める
1週間お休みしててすみませんでした!!
短距離だけど『ワープ』して、フローネの頭を触りそうだった東雲さんの手首を右手で掴み、捻り上げる。
そんで左手でアイアンクローをかます。
「いでででででででぇ?!?!?!?!?!」
「…うちの可愛い可愛い可愛い自慢の可愛い妹に、何してんの?死にたいの?あぁ、自殺願望あったのか、叶えてあげようか?」
「お兄様?!ちょっと落ち着いて下さいな?!」
「やだなぁ、フローネ。僕、超冷静。超平静。超沈着。こういう状態を冷静沈着と言います」
「嘘ですね?!口が笑ってても目が笑ってないの!ジーン!ジーン?!セリスでもいいから、だーれーかぁー!!」
「フローネったら、淑女がそんな大声出したらダメだよー?ふふふふふー」
「ユージェ様?!」
「「ユージェリス様?!」」
「東雲?!ユージェリス君?!」
おや、ジーンにセリスにレリック、それと神楽さんじゃまいか。
ジーンは『あーあ、やっちゃったー』みたいな顔してて、セリスは涙目で顔面真っ青、レリックは状況が理解出来ないらしくて僕達の顔を慌てたように見比べていた。
ちなみに神楽さんは早々に土下座してる。
いくら毎日掃除してるからって、土足の世界だし廊下の床は汚いですよ?
「ユージェ様、とりあえず離してあげたらいいのでは?もう痛みの声すら出てませんけど?」
「こ、声にならない声になってますぅ…!」
「ユージェリス様、とりあえずその手を離していただいてから状況をご説明していただけると助かるのですが…」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
神楽さんが廊下の床に向かってひたすら謝ってる。
なんか悪い事してる気分になったわ。
とりあえずアイアンクローと捻ってる手を離す。
東雲さんはべしゃりと音を立てて崩れ落ちた。
「さて、ユージェリス様、何があったのですか?」
「だってぇ…この人がフローネに向かって手を伸ばして『俺のになれ』って言ってるのが見えたから、処さないといけないかと…」
「「「それは…」」」
「本当にごめんなさい…!!」
『あぁー…』みたいな反応する3人と、より深く床に頭を減り込ませる神楽さん。
うん、まぁ僕がシスコンという事を抜かしても、侯爵令嬢への対応としては大問題だもんね。
少なくともうちの国では、人を物扱いする事が禁止されている。
だから奴隷ってのもない。
例外としては犯罪奴隷とかかな?
でも基本的に罪を犯した人は鉱山送りとかでも労働者として扱われるから、犯罪奴隷とは呼ばない。
一応人権はある。
言葉として他国への説明とかで使われる程度か。
つまり『人は人、物じゃない』という認識が普通なんです。
あ、でも家族関係とか恋人関係なら話は別です。
『彼は私のなの』とか『うちのが世話になって』みたいな言い方も全然オッケー。
…まぁ僕に至ってはある意味人扱いされてない時もあるんだけどね。
神格化は人扱いじゃありません。
あと、たまーにいるのが某ピンクモンスターみたいなアクセサリー扱いする人か。
自分を引き立てる付属品とする人。
ジャルネまでの道のりで、そういうお姉さんが何人かいたよなぁ。
全て笑顔でお断りしたけども。
閑話休題。
とにかく、さっきの発言は女性に対しての口説き文句としては0点だし、対貴族令嬢へは侮辱と取られてもおかしくはないんだよね。
「…っんだよ!!何しやがる!!」
「ねぇ、東雲さんさぁ、ちゃんと礼儀作法って習いました?または常識」
「はぁ?!んなもん日本じゃ習う機会なんて…!!」
「昔の話じゃねぇんだよ、僕は今の事を言ってんだ。それに虎徹さんからその話を他国ですんなって言われてないの?」
「あ…それ、は…」
東雲さんは僕の言葉で漸くわかったらしく、顔色を悪くする。
うーん、虎徹さんの名前出すと効果抜群だなぁ。
「…うちの国だけじゃなく、高位貴族の令嬢に対して言っていい言葉ではないよ。東雲さんが高位貴族ならばともかくね」
「…な、なんでだよ…いいと思った女に声かけちゃいけないって法律でもあんのかよ…」
「えぇー…そこからぁ…?」
チラリと神楽さんを横目で見ると、レリック達に促されたのか土下座をやめて立ち上がってはいた。
でもどうやら恥ずかしいらしく、真っ赤にした顔を両手で覆ってるわ。
「…一応、普通の一般常識や勉強は殿が教えてる…んだけども…東雲は勉強苦手で、基本的には逃げ回ってて…」
「そ、そっか…」
「あと、多分、貴族は『自分は偉いと威張り腐ってるだけの奴ら』みたいな認識なんだと思うの…うちの国には貴族制度ないし、旅の途中で会うのは基本的に平民だけだし、貴族と応対するのは私だったし…前も本とか読んでないから、貴族がどれだけ凄い存在なのかわからないんだと思うの。自分が強いって過信してるし、何かあれば力で解決しようとするのよ」
…多分、前世で何かしらの小説や、普通の勉強をしていれば、貴族ってものがどんなものかと知ってるはずだ。
僕だってこの世界に来て、父様が侯爵だと知った時は本当に驚いたもん。
それすらも学べる環境にいなかったのは、同情出来るかもしれないけど…
「…東雲さん、貴方は、今、ここで生きているんだ。それなら、貴方は、学ばなければいけない。貴方だけが嫌な思いをするんじゃないんですよ?貴方の保護者の立場にある、虎徹さんだって悲しくて辛い思いをするかもしれないんです。学ぶ事を放棄しないで下さい」
「…わか、った…」
「まぁなんで今のがダメだったのかはもう少し考えてみて下さい。今回は僕の権限で不問とさせていただきます。フローネもそれでいいね?」
「あ、はい、私は全然構いません」
「というかなんで2人が一緒だったの?」
「お兄様のお部屋に向かう途中で声をかけられましたの。迷われたようでしたので屋敷の説明をしていました。きっとお兄様からお聞きしていたお客様だと思いましたので、少し世間話をしていたら突然あんな感じでして…把握する前にお兄様によって余計にわからなくなりましたわ」
「…それは、その…ごめんね?」
一体何を話したらそんなに興味を持たれるようになったんだろう。
こればかりはわからんな。
とりあえず東雲さんは神楽さんが引きずって客室に戻っていった。
どうやらレリックも付いてってくれるみたいなので一安心。
うちの家族は比較的大らかだからタメ語で話されても怒ったりはしないだろうけど、出来るだけ会わせない方が良さそうだな。
明日の出発まで客室にいてもらおう。
そして次の日、朝食の後に客室を訪ねてみた。
ノックをして扉を開けると…
「…失礼シマシタ」
見ちゃいけないものを見て、そっと扉を閉めた。
え?何を見たかって?それは…
「やだぁ、ユージェリス君、おはよう!入って入って〜」
閉めた扉が再び開いた。
その隙間からいい笑顔の神楽さんが僕を手招きする。
覚悟を決めて中に入ると、さっき目を逸らした現実が視界に飛び込んできた。
「…どうして、東雲さんは縛られてひっくり返ってお空に浮いてるんですかねぇ…?」
そう、ロープで体がグルグル巻きにされて、逆さに宙吊りになっていた東雲さん。
どこかの柱に括られているわけではなく、本当に浮いていた。
多分浮遊系の魔法だな…
ちなみに東雲さんは完全に白目を向いて気絶している。
「あ、大丈夫よ?つい数分前くらいから吊ってるだけだし、まだ頭に血は上ってないと思うの!」
「いや、そういう事じゃなく…」
「そうそう、お夕飯も朝ご飯もとっても美味しかった!ここのお屋敷の料理はレベルが高いのね!この世界って全体的に料理の水準低めだし、黒鉄のご飯に慣れてる私達的には辛い時もあったんだけど、ここのは違ったわ!」
「あぁ、僕がちょっとお手本見せたりしてるからか、結構いい料理作れるようになったんだ。うちの料理人達はこの国でも中々有名なんですよ」
「そうなのね!いい事だわ!」
「…んで、こうなった経緯を教えていただけると…」
「あー、えっと。昨日の妹さんへの対応について、全然答えに辿り着かなくて…途中で逆ギレされる度にこうやって吊るしてたの」
「…え、それ、大丈夫?虐待だと思って心の傷に響きません?」
「んー、解いた時には素直にごめんなさい出来るし、多分大丈夫じゃないかな?」
本当か…?
まぁあんまり神経質になっちゃいけない事もあるよね、東雲さんのためにも。
「じゃあ何回か縛られてるわけか。今縛られてるわけだけど、その前に出た答えはなんだったんです?」
「えっとねぇ、『俺が歳上だからか?!ろりこんとかって言うんだろ?!』だったかな?」
「そういうこっちゃねぇ」
どうしよう、虎徹さんにぶん投げようかな。
体調が微妙です。
先週は熱中症になりかけました。
なんで冷たい飲み物飲んだ直後なのに太陽の下で目眩がすんのよ…
冷たいタオルって偉大ですね。




