愛とは
夏季休暇なうです。
今回は毎日更新は難しいかなぁ…
出来そうならやろうかな、程度です。
あと、少し重い話になります。
まぁちょっとだけですけど。
「ユージェ様…手加減されたらよろしかったのでは?」
「いやぁ、こうなったら完膚なきまで叩き潰す方がいいのかと…」
ジーンから差し出されたタオルを受け取り、顔を拭く僕。
足元にあるのは、すっかりズタボロになって気絶した東雲さん。
あ、ちなみに神楽さんは諦めたのか、僕が出しておいたスイーツを幸せそうに食べてます。
ここはうちの鍛錬場。
私兵や父様達が剣を振るったりしてる場所だね。
謎の決闘を申し込まれたので、とりあえずここまでやってきたんだけど…
なんか良くわかんないけど、木刀とか刃を潰した剣じゃなく、紛れもない真剣で飛びかかられたので、それなりに真面目に応戦してフルボッコにした。
まぁ確かに強かったけど、ジーンといい勝負出来るくらいの腕前だったかなー?
一般的な力で言えば、勿論上位に入る力量だけども。
それでも僕に挑んでくるのは間違いだったね、というレベルでした。
ジーンは涙目でアワアワする神楽さんのために椅子やらテーブルやらを用意して、おもてなしに徹してくれた。
最初は攻撃避けながら会話を試みてみたんだけど、全く聞き入れてくれなくてさぁ。
例の特殊能力の『透過』ってのも使われたけど、僕にはあんまり効かないねぇ。
文字通り僕の普通の攻撃を透明化されて、当たっても怪我しない状態に変えられた。
後は東雲さん本人も透けて姿を眩ませたりとか。
でも僕には危機察知スキルや危機回避スキルなんかがあるから、姿眩ませた攻撃は簡単に避けられる。
僕の攻撃を透明化させられるのは、暫く見てて気づいたけど、攻撃が来ると視認したら発動出来るらしくて、東雲さんの死角から攻撃すれば入っちゃうんだよね。
それに気付きつつも半刻くらいいなしてたら、仕舞いにゃ『避けてばっかいねぇで戦え!!腰抜けがぁ!!』と叫ばれて、しょうがなく『はいはい、やりますよー』と声をかけてから剣技だけで瞬殺。
非番で自主訓練中だった私兵の何人かが大きな歓声を上げてくれた。
「…これ、生きてます?」
「流石に僕だって殺人はしないけども。ほら、ピクピクしてるでしょ?」
「…辛うじて、ですかね」
しょうがないので『ヒール』しといた。
非番の私兵に声かけて、鍛錬場の休憩室のベッドに運んどくように指示をする。
お休みにも関わらず快く引き受けてくれたので、お礼がてらクッキーあげといた。
これを懐柔と言います。
「神楽さん、お待たせしました」
「あ、うぅん、本当に東雲がごめんねっ?それとこのお菓子すっごい美味しいわ!」
「喜んでもらえて良かった。僕が作ったんだ、良ければ日持ちする焼き菓子はおやつに持って帰って」
「うわぁ、とっても嬉しいわ!ありがとう!」
「さて…とりあえずあの人どうしましょうね?全く話聞いてくれないんだけども」
「あ…あの、ね?擁護するわけじゃないんだけど、東雲の話、聞いてくれるかな?」
「なんですか?」
「…ジーン君、も、知ってるんだよね?私達の過去について…」
「ユージェ様から皆さんの転生についてはお聞きしております」
「そうよね。あのね、東雲は、その…親兄弟に虐待されて、それで自殺しちゃったそうなの…」
「「虐待…」」
「どんな虐待だったかまでは教えては貰えなかったんだけど、殿曰く中々酷かったみたいで…教育も、前世でまともに受けてなかったみたいなんだ。だから、この世界に魂が定着しても、中々普通の生活とか出来なかったみたいで、殿は本当に手を焼いたみたいなの。身近な血縁者に酷い扱いを受けた東雲は、血縁関係なんてなんにもない赤の他人である殿が優しくしてくれて、それで今では殿に凄い懐いてるの。まぁ口調とか攻撃的だから、酷いツンデレみたいになっちゃってるけどね」
あはは、と少し呆れたように笑う神楽さん。
「殿が他国の情報収集に誰か行ってくれないかってなった時、真っ先に手を挙げたのが東雲なの。口では『もっと強い相手と戦ってみたい』なんて言ってたけど、ただ殿の役に立ちたかったの。殿もその気持ちがわかってるから、私にサポートを依頼してきて一緒に旅をしてるのよ」
「…そんなに大事な方から突然他人を褒めた手紙なんてきたから、俺のが盗られた…みたいな感情になったんですかね?」
「かもねぇ…まぁだからと言って僕に攻撃していいわけじゃないけども。ちなみにさっき十六夜さんが好きとか言ってたけど、よくそんな人間が人を好きになれましたね?人間不信そうなのに」
「まぁ元々ジャルネの人達については基本的に好意的なのよ?みんな仲間だしね。十六夜に関しては…殿曰く、唯一生前優しくしてくれた叔母に似ていたのと、焔を溺愛するあの感情を無意識に欲したから…らしいわ」
「…あぁ、成る程、東雲さんは…愛されたいのか」
「あの焔さんに対する十六夜さんの愛情って、絶対になくならないものに見えますよね。絶対的な愛が欲しかったって事ですか…」
「だからこそ、十六夜が振り向く事もないんだけどね。どれだけ東雲なりのアプローチをしても振り向かない十六夜を見て、安心してたところもあると思うの。『絶対的に揺るがない、不変の愛』…それがある事に、安心してるのよ。そしていつか自分にもそういう人が現れるかもしれないって、気付かないうちに願ってるの」
「…いい歳して、自分の事がわかってないんですね、東雲さんは」
「あの人、おいくつなんです?」
「もう30歳になるわよ。いい加減外の世界も見てきたんだし、大人になってほしいんだけどねぇ」
「「30歳であれか…」」
うん、大人になってほしいわ。
だってさ…
「…もう持ってるじゃんねぇ、『絶対的に揺るがない、不変の愛』」
「「え?」」
「愛なんて、いろんな種類がある。東雲さんは多分、『恋愛』を欲してるんじゃないと思うんだ。元々が親兄弟から貰えなかった『家族愛』が欲しかったんだから。でも、もう今は家族、いるでしょ?東雲さんの体を産んでくれた母親や父親、虎徹さんという育ての親もいる…ジャルネの仲間もいる。『家族愛』や『親愛』…前世で言うところの、所謂『隣人愛』ってのは、彼の身の回りに溢れてたはずなんだ。別にジャルネで蔑ろにされてたわけじゃないでしょ?」
「う、うん。身の上は知ってるし、本当に小さい時くらいしか荒れてたわけじゃないし」
「んで、多分旅の途中で親しくなった人とかもいるでしょ?そこには『友愛』が含まれてたはずだ。『友愛』については不変じゃないかもしれないけど、それだけの沢山の愛に囲まれてたはずなのに…普通なら気付けるはずなのに、感じ取るメーターがぶっ壊れてるんだろうね。だから、体で焔への愛を表現する十六夜さんに惹かれるんだ」
「「成る程…」」
「ま、初対面の僕でもわかる事なんだから、後は自分で考えてほしいもんだね。今日は泊まってって構いませんよ、あの人いつ起きるかわかりませんし。客室を用意させますから、お好きに使って下さい」
「い、いいの?ありがとう!本当にごめんね!」
「ジーン、シャーリー達に客室を用意するように伝えてくれる?父様達には僕が連絡するから」
「承知しました」
「神楽さん、食事は時間になったらお部屋に持っていくので。何かあったら僕かジーンを呼んで下さい」
「うん、ありがとう!」
母様は領地に泊まるだろうし、とりあえず父様に詳しい説明をしておこう。
兄様には…父様から伝わるよね。
フローネにも連絡しておこう、帰ってきて知らない人いたら驚くだろうし。
ジーンに気絶した東雲さんを運んでもらったけど、全く起きる気配がなかった。
そして夕方、フローネが帰ってきたので玄関まで迎えに行く。
「フローネ、お帰り」
「お兄様!ただいま戻りました!まだいらっしゃったんですね!」
「うん、結局泊める事になったしね。彼らが帰る時にまた出発するよ」
「そうですか。でも私的にはまだ一緒にいれて嬉しいです!」
「ふふふ、僕も嬉しいよ」
「フローネ様?先程おっしゃってた小説なんですけど、とりあえず3冊ほどを…あ」
「あ」
…おや、フローネ、お友達が一緒だったのか。
お嬢さんが玄関の外からこっちを覗き込んだ時に目が合ってしまった。
お嬢さんは僕の顔を見てめちゃくちゃ驚いた顔をした後、頑張って笑顔を浮かべて礼を取ってくれた。
「フローネ、お友達かい?」
「えぇ、同じ教室のカンターボレ侯爵令嬢です。今日は小説をお貸しするお約束でしたので、寄っていただいたのよ」
「あぁ、カンターボレ侯爵家の…名産の鹿肉は臭みもなくて柔らかく、中々美味しかったな」
「すでに寄られたんですね」
「うん、侯爵領までは終わってる。いつもフローネと仲良くしてくれて、ありがとうね。これからも妹をよろしく」
「は、はいっ!」
「…お兄様、お義姉様がいるんですから、そういう落としにかかる笑顔はお控えになった方がよろしくてよ?」
え、何その落としにかかる笑顔って。
ただフローネを想って笑っただけだったのに。
あ、侯爵令嬢が真っ赤っか。
…はい、気をつけます。
とりあえず僕はその場から撤退しました。
暫く自室で本を読んでいると、なんだか少し廊下から声が聞こえた。
誰かいるのかな?
扉を開けて覗いてみると、何故かいつの間にか目を覚ました東雲さんと、フローネが廊下の真ん中で向かい合っていた。
ちょ、なんであの2人が一緒にいるの?!
フローネは僕の方に背を向けてるからどんな表情してるかわかんないし!!
東雲さんは瞳孔開いた状態でフローネを凝視してるし!!
慌てて部屋から飛び出ると、東雲さんが徐にフローネへと手を伸ばした。
「…お前…」
僕の大事な妹に何をー!!!
「…俺のになれ」
なんなんだぁー?!?!?!?!