普通について《side ロジェス》
そしてそのまま何事もなかったかのように、同級生達へ声をかけるユズキ。
まぁ正体知っちゃった奴らは挙動不審になっとったけども、元のユズキを知っとるからか拒絶はしてないようやな。
もちろん他の奴らは知らんからか普通に談笑しとったわ。
「おぉ!ユズキじゃないか!」
「あ、セリウス先生!ご無沙汰してます!」
おやおや、先生方のご登場かい。
確かあの時、ユズキを見てた先生は1人もおらんかったんよな。
なんせ魔物に目がいってたわけやし。
笑いながらバシバシとユズキの背中を叩くセリウス先生。
うーん、あれ、大丈夫なん?
「久しぶりだなぁ!ユズキは狩人になったんだったな、王都にはいなかったのか?全く会わなかったな!」
「えぇ、まぁ、他国に行ったりしてましたね。最近は国内にいますよ」
「そうか、今度酒でも飲みに行こうなぁ!」
「はーい、お誘い楽しみにしてまーす。あ、シャルネ先生、もしかしてそのお腹…」
「ご無沙汰ですね、ユズキ君。えぇ、今6ヶ月なんです。仕事は抑えてますけど、続けてますよ。良ければ触ってみますか?」
「うわぁ、おめでとうございます!いいんですか?失礼しまーす」
「ふふ、今なら起きてると思うので、胎動がわかるかもしれませんね」
「…おっ、蹴られた!いいねぇ、元気ですねぇ。それじゃあ《無事に元気に生まれておいでー》」
…あれ、愛し子様の祝福なんじゃ?
なんか心なしがシャルネ先生の腹がキラキラしとったような。
いや、まぁわからんけど。
確かシャルネ先生は愛し子様の祝福を受けて結婚したから、周りに茶々入れられる事なく仕事続けられてるって聞いたような…
なんだかんだ知らないうちに王族並みの扱い受け取るなぁ、シャルネ先生。
普通祝福なんて、王太子継承の儀みたいな時やないと貰えないもんやと思うんやけど。
「ユズキ、何か食べる?」
「あ、取ってきてくれたの?ありがとー」
「これ、多分ユズキ好き」
「本当に?じゃあそれ貰おっかな」
お皿に料理を盛ったメイーナがユズキに近寄って話しかける。
普通に会話してる2人を見て、セリウス先生が少し驚いた顔をした。
「まさか、ユズキとメイーナは付き合ってるのか?!」
「ゴッフ!!」
あーあー、愛し子様ともあろうお方が食べ物噴き出すなや…
そしてメイーナは普通にユズキの口拭いてやってるし、確かにそういう関係に見えなくはないかもなぁ…
俺も一時期はユズキの好きな相手をメイーナだと思っとったし。
だから諦めたんやけどなぁ…
「けふっ、んんっ…残念ながら、僕は別の人と結婚を視野に入れてのお付き合い中ですよ。メイーナとは仲良しなだけなんです」
「そうか、それはちょっと残念だなぁ。教え子同士で結婚したら式に呼んで貰おうと…って、ユズキ、お前結婚するのか?!」
「まぁ、時期が来たら?」
「プロポーズはしたのか?!」
「え?あ、まぁ…一応?」
したんかい。
それは聞いとらんかったな、スタンリッジ伯爵令嬢だとは聞いたけども。
「…実は俺も、そろそろプロポーズしようと思っててだな…ど、どんなのが喜ばれるだろうか…」
…セリウス先生って、結構いい歳いってたよな?
ずっと独身だったのは知ってたけども、まさか付きおうとる人がいたとは。
「それは相手の性格次第じゃないですかね?サバサバ系にロマンチックメルヘンしたって引かれるかもですし」
「ユズキの相手はどんなタイプだ?」
「僕その話長いですけど、大丈夫ですか?聞いた大体の人に口から砂糖と練乳吐きそうって言われますけど」
「お前、そんなにベタ惚れなのか…」
うん、俺も少し聞いただけやけど吐きそうやったからな。
そうしてなんか恋話始めるユズキとセリウス先生。
シャルネ先生はメイーナ含め女子達に囲まれとった。
「なんか、意外と普通に楽しいな?」
「どういうこっちゃ、普通にって」
「ユズキが来た事で、もっと普通じゃなくなるかと思ってたんだよな、俺」
「…まぁ、正装で来とったら普通じゃなくなったかもしれんけど、あくまで今は平民のユズキやしな。それで3年間過ごしたんや、普通が当たり前やろ」
「そうだな…この前ユズキと会った時、結構周りの人達から距離取られたりしててさ。改めて、愛し子様ってのがどんな存在だったか見せつけられたっていうか。俺やお前は他国出身だから、わからない感覚ってのもあるんだろうけど」
…ローグナーの言いたい事は、よくわかる。
『愛し子』というイメージは、個を殺す事もある。
それがわからないんやろうな、ここの純正国民は。
だって、それが普通で当たり前やったから。
「まぁ、俺らだけでもユズキと普通に付き合ってけばいいかなと思ったりしてたけど、杞憂に終わったな!」
「まぁ、わかってくれる人もいるだろうからな。ユズキは周りに恵まれてる方なんやない?」
「かもなぁ、いつの間にか美人の嫁さん候補がいてさ。アイツ、レア中のレアな幸運スキルとか持ってんじゃね?」
「あー、絶対持ってそうやわぁ。しかもレベルも凄まじい」
「999レベルが最大って本当なのか?」
「聞いたら教えてくれそうやけどなぁ」
「普通の愛し子ならそれが最大だけど、僕は特殊だからちょっと違うよー」
「「ファっ?!?!」」
おっどろいたぁ!!
いつの間にか俺らの後ろに回り込んどったんや!!
「おま、先生と話してたんじゃなかったのかよ!」
「僕の相手については身バレしたら困るから話してないし、聞き役に徹してただけだよー」
「…そしてとんでもない事、さらっと言いよったな?それ、お偉い学者さん達が挙って知りたい内容やないの?」
「聞かれれば答えてあげるのにねぇ?」
「愛し子様に声かけられる奴なんて滅多にいないだろ…」
「ここにいるじゃない、ローグナーやロジェスが聞いてくる分には答えられる範囲で言えるよ?」
「…その特別待遇がおっそろしいわぁ」
「別に聞かねぇよ、俺らはそういうの興味ないしな」
「ふふふ、だからいいんだよ。みーんなだぁーいすき♡」
「はいはい、俺もだぁーいすきやでー」
「投げやりな告白だなぁ。ま、俺もだぁーいすきって事でいいよ」
「ローグナーの方が投げやりじゃん」
侯爵子息(しかも愛し子様)と、文官と、狩人。
そんな全然立場も違う俺達が、普通にバカな話して笑い合う。
身分の差や貧富の差が重要視されるこの世界で中々凄い事なんやけど、それを違和感なく受け入れられる。
これがユズキの力なんかなぁ。
「いたぁ!!ユズキ様ぁ!!」
…嵐の予感。
ユズキはスンッ…と真顔になった。
凄いな、ユズキ。
お前の真顔、師長様に似とるわ。
ローグナーは目が泳いじゃってるし。
まぁ、うん…予想の通り、アッシュが目をキラキラさせて手を振りながらこっちに小走りで向かってきていた。
とりあえず俺が応対するか…
「あー、アッシュ、久々やな?お前今日出勤じゃなかったん?」
「愛し子様が王都に戻ってきてると聞いてな!ならこの会に出席なさるだろうと思って休憩で抜けてきたんだ!読みは当たったな!」
チッ…ルーファス様に頼んで、コイツの事誰かに見張ってて貰えば良かったな。
ユズキが苦手にしてるって聞けば、あの人は簡単にやってのけそうやし。
というか、アッシュの発言に周りが少し騒ついてる。
このまま話し続ければ、ユズキ=愛し子様だと気付かれるかもしれない。
こういう場合、どうしたらいいんや…