同窓会だよ!全員集合!《side ロジェス》
相変わらず言葉遣いは適当なのでお気になさらず。
「ロジェス…大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「…徹夜明けは辛いわぁ…」
王都の街並みを歩く俺とローグナー。
ただし俺は真っ直ぐ歩けてない気がする。
だってさっきからローグナーにちょいちょいぶつかってしもてるからなぁ。
「そんなに文官って忙しいのか?」
「俺が特殊な立ち位置だからやと思うわ…ルーファス様に目ぇつけられたんが運の尽きやな」
「いやぁ、聞いた時は驚いたぜ。まさかそんな出世街道まっしぐらだなんてさぁ」
「…俺的にはローグナーのガタイの方が驚きやけどな…」
なんでこんなにムキムキになっとるん?
俺かてたまには鍛えてるけど、こんなんならんわ。
「まぁ今回の事は予期されてたと言えばされてたけども、まさかアレックス様があそこまで徹底的に潰しにかかるとは思ってなかったんよ…」
「あー、第1師団長様か。学院時代にお会いしたけど、どちらかと言えばゆるーい感じのお人だったよな?」
「人って私怨が篭ると通常以上の仕事が出来るんやなぁ…」
山積みになった不正資料なんかを前に、あぁも晴れやかな笑顔を出せるとは。
昨日少しだけ会ったユズキの表情的に、多少引いてるところがあったな。
「全く、ユズキの起こす問題の大体がこっちに回ってくるん、なんとかならんかなぁ」
「そういや、ユズキと言えば、今日来るのか?」
「あー、昨日伝えといたけど、驚いて思案顔した後『考えとく』やと」
「へぇ、絶対行く!って言うかと思ってた」
「多分卒院式以来やから、気まずいところもあるんやない?あの時何人かユズキの正体見てた奴らもおったけど、大半が愛し子様の事やからか口噤んでたし」
「派手に探し回ってたのはアッシュくらいだったな。アッシュって今何してんの?」
「王城にはおるよ、下っ端文官しとる。普段いる場所が遠いから会わんけど、たまにすれ違うとめちゃくちゃ睨まれる」
「出世街道まっしぐらのロジェスが羨ましいからじゃね?」
「変わってくれるなら変わってほしいわ…いや、まぁ別に今の立ち位置が嫌なわけやないけど、仕事量がおかしい。でもそれをこなして平然としてるルーファス様もおかしかったんやけども」
「俺とは頭の出来が違そうだな」
「ローグナーはギリ月組だったし、ユズキやメイーナの教えがあったからこその頭やしな」
「それなー」
実は今日、卒院式以来に平民科の同級生が集まる事になっていた。
所謂、同窓会ってやつやな。
貴族科の奴らはなんだかんだ社交界で会えるけども、平民科は地方に散らばったりして会えない事が多い。
だからか先月くらいに企画してた奴らから『レター』で案内が届いたんよ。
んで折角やから俺も休暇申請して参加したってわけ。
まさかの偶然にローグナーが帰ってきたから誘った。
どうやら制限なしの『レター』にしとるからか、中々届かなかったりしてるみたいでなぁ。
ローグナーは一昨日王都に着いて、昨日『レター』が届いとったわ。
ユズキも昨日の時点で知らなかったみたいやし…
…いや?待てよ?
『レター』は本名がわかっていればあだ名や役職名なんかでも届くけども、ユズキの場合は偽名のみ。
計画した奴らはユズキが愛し子様だと知らなければ、届く事もないのか…
そりゃ知らんはずやな。
昨日会えて良かったわ。
ちなみに同窓会会場は学院の小ホールを借りれたそうで、何人か先生方も来るらしい。
今日は休みの日やのに、態々ご苦労なこって。
…そういや、俺かて学院に入るのも卒院式以来やなぁ。
ちょっと不思議な感じや。
「お、結構集まってんじゃん。意外とみんな出席率いいな?」
「ホンマやなぁ」
小ホールに着くと、意外に人がおった。
9割くらいいるんやないか?
「あ!ローグナー!ロジェス!」
「おー、メルヒーじゃん、久しぶりぃ」
「やっだ、ローグナームキムキ!きもっ!」
「あんだとー?!」
メルヒー、それは思ってても言ったらあかん。
ローグナーの顔立ちにそのガタイは違和感しかないけど、口に出したらあかん。
「…ロジェス」
「よぉ、メイーナ、元気かいな」
「元気」
「そら良かったわ」
メイーナはいつも通り表情が乏しいけど、昔よりかは笑うし喋るようになったな。
うん、今日は元気もありそうで良かったわ。
…多分、やけども…メイーナは、ユズキを好意的に想ってたと思う。
ユズキが婚約したと噂が平民にも回った時、そっと店に様子を見に行ったけど…まぁ、元気なさそうやったからな。
「あ、みんな、来てたんだねー」
「お、サナンじゃん、久しぶりー」
「え、ローグナー君?!すっごい、ムキムキになったね!カッコいい!」
「え、そ、そうか?」
「うん!ガッチリしてていいよ!」
…劇でお姫様やったサナンに、少し見惚れてたの知っとるで、ローグナー?
褒められちゃってまぁ嬉しそうに。
にしてもサナンはこういう奴がタイプやったんやなぁ、意外。
…まさかの姫と魔王がくっ付いたりしてな?
「あ、ねぇ、あの…ユズキ君、は…?」
声のトーンを落として、サナンが俺達に尋ねてくる。
あの時、サナンは舞台の上でユズキの正体を目視した1人や。
多分卒院後もユズキと関わりがあると知ってて聞いとるんやろうな。
「あたしは知らないなぁ、最後に会ったのも若旦那様の結婚式の時だし」
「俺は昨日会って、今日の事は伝えてあるで。知らんかったみたいやけども」
「あ、伝わってるんだ、良かったぁ。ロジェス君、文官だっけ?」
「おん、昨日王城に来とってな。来るかどうかは知らんけど」
「…あの時以来だから、なんか緊張しちゃって…あんなに劇の練習とか一緒にしてたのに、実は凄い人だったから…」
「まぁ、あんま身構えて対応せんでやってよ。アイツそういうの傷付くタイプやし」
「そうねぇ、あたし達にも今まで通り振舞ってって言うくらいだしねぇ」
「…ユズキは、ユズキ。本質は変わらない」
「俺もこの前他領で会ったけど、流石に馴れ馴れしく近づけなかったなぁ。マジで見た目王子様って感じだったし。俺の声に反応して、ユズキからこっちに来てくれてさ。内心バックバクでタメ語使ったぜ」
「俺は王城で会う事も多いから、結構慣れたわ」
「みんなすごーい!」
「まぁユズキってあの見た目であの中身だからねぇ。案外慣れると付き合いやすいわよ」
「意外とみんな最初は顔が強張ってても、段々慣れてくれるから嬉しくなるよねぇ」
「いやぁ、だっていつもと話し方とか全く変わんないんだぜ?」
「笑い方も、変わらない」
「あの見た目で腹抱えて笑うんやで?信じられへんわ」
「うっそぉ、あんなに素敵な王子様みたいなのに?」
「そうそう、もし愛し子様に幻想抱いてたら、アレ見ればちょっとショック受けるわよねぇ!」
「でもあんだけバカ笑いしても顔はいいんだよなぁ」
「そうなのよねぇ」
「えー?本当に?ありがとー」
「王城で王女様相手やともうちっと大人しいんやけどなぁ」
「え、誰か社交界でのユズキ君見た事ある人いるの?」
「あたし、この前結婚式の時見たわよ!めっちゃくちゃカッコよかったの!麗しの貴公子って感じの綺麗な笑みだったわ!もう次元が違うのよ!」
「あの時はメルヒーに集る虫を追っ払う事しか考えてなかったからなぁ」
「それでもすっごいカッコ良かったのよ!会場に登場した時とか凄くて…!…ん…?」
「…うん…?」
「…おぉ…?」
「…うぇ…?」
「…既視感?」
「みんな気付くの遅くなーい?」
いつの間にか会話に馴染んでた声の主に向かって、勢いよく顔を向ける。
そこにいたのは…
「…おぉ、ユズキや…」
もさっとした黒髪に、黒縁の眼鏡。
ゆったりとした綺麗目の平民服のユズキは、どっからどう見てもあの頃のユズキがそのまま成人した姿やったわ。
これにはサナンが目をぱちくりとしながら固まってた。
「ユズキ、久しぶりね!」
「やぁ、メルヒー、ダティスさんやデイジーは元気?」
「勿論、いつも仲良しで微笑ましいわよ!まぁあたしは王都のお屋敷にいるし、しょっちゅうお会いするわけじゃないけどね!」
「そっかそっか。メイーナは元気?最近買いに行ってないから、明日辺り買いに行ってもいいかな?」
「ん、待ってる。新作の桃が出た」
「絶対美味しいやつじゃん、多めに買おっと」
「よぉ、ユズキ、この間ぶり」
「ローグナー、結構早かったね?」
「お前と違って王都へ一直線で進んだからな。お前は王都の周りをぐるっとしながら進んでたんだろ?」
「まぁ満遍なく行かなきゃいけないからねぇ」
「…ユズキ、これ以上仕事増やさんといてな?」
「それは保証しない。というか、今回のは僕のせいじゃないから」
「そらまぁそうなんやけども」
「サナン、久しぶり。元気だった?」
ユズキがサナンの目の前で手を振りながら声をかける。
やっと意識が戻ったらしく、サナンは目に見えて動揺していた。
「あ、その、あの…ゆ、ユズキ君、も、お元気そうで何より、です…あぅ…」
「出来れば普通に接して欲しいなぁ」
「あ、はい、うん…頑張るね…?」
「こりゃダメだわ」
あひゃひゃひゃひゃ、と軽く笑うユズキ。
だからその笑い方やめぃ。
「来るか微妙な反応しとったくせに、意外と早く来たな?」
「折角の同窓会だし、まぁ仲間外れにされたくないなぁと思ってね。あの時見られたから来るか迷ってたけど…僕を見て固まってる何人かが僕の正体わかってる人でしょ?」
…確かに、めっちゃユズキをガン見して固まってる奴らが数人おるな。
うん、まぁそういう事やろ。
ここにアッシュおらんで良かったな、いたら絶対話しかけてきとったで。
ちなみにアッシュは今日不参加や。
休暇申請通らなかったらしいわ、アホやなあ。
「何も言って来ないのなら、僕はユズキとして普通に参加するさ」
「せやな、たまには羽伸ばしぃ?あ、いや、比較的いつも伸ばしとるか…」
「失礼な、僕はいつでも真面目に不真面目よ♡」
「真面目に真面目でおってくれや…!!」
だから俺の仕事が増えんねんっ…!!