草むらから偵察
休みだと曜日がよくわかりませんね…
前略、マックリー義兄さん
お元気ですか?
つい数刻前に別れたばかりだというのに、すでに義兄さんが恋しいです。
義兄さんの笑顔は胡散臭かったけど、僕に対する『欲』を感じないから嫌なものじゃなかった。
そんな義兄さんの助言を受けてマイカ伯爵領に向かいましたが…まさかこんな事になるとは。
「…ユージェ様、どうするんです?」
「…強行突破、は…あんまり外聞よくないよねぇ…」
「怪我させたら弱みになりますからね…」
In 草むら。
僕らの視線の先には、大軍。
どういう事かというと、マイカ伯爵領とウィンザー伯爵領の境の詰所前に、武装した兵士?私兵?達がぎゅうっぎゅうに立ってるの。
まるで人っ子1人通さないとでも言うかのように。
探査が得意な人がいるのかめっちゃ警戒されてるけど、僕が本気を出せば絶対に見つかりません、が…
「…例の通行証で音なっちゃうからなぁ…」
「いっそ変装しますか?狩人っぽくとか、気は進みませんが女装とか」
「ユージェリスの状態で通らないと寄ってない判定になるんじゃ?」
「あの状態を説明すれば陛下方もわかって下さるでしょう」
「確かにねぇ…」
写真撮って送りつけてやろうか。
おや?なんか向こうが騒がしくなってきたな?
さっきまでニマニマした気色悪い笑顔浮かべてたヨボヨボの爺さんが杖振り回してなんか叫んでる。
地獄耳スキル、いっきまーす!
「まだいらっしゃらんのか!今日辺りじゃなかったのか!」
「申し訳ありません!ウィンザー伯爵領には偵察に向かえず、細かい時間までは…」
「くそぅ、あの王家の犬め…!パウリーは昔から儂の邪魔ばかりしよってからに…!!貴様らも殺気立ってるからいけないのだ!!愛し子様に不快な思いをさせてしまうであろう!!」
「「「「申し訳ありません!!!!」」」」
…いやぁ、別に兵士さん?達の表情から察するに、あの1人で喚いてる爺さんの独断な感じが…
僕への殺気ってか、あの爺さんへの殺気に感じる。
あれがパウリー伯爵かなぁ…
足腰ガックガクじゃん、その杖なきゃ本当は立ってらんないっしょ?
早く引退しちまえよ…
「…なんか、気の毒ですね…」
「あれ?向こうの声聞こえた?」
「いえ、表情で察しました」
「まぁわかるよねぇ…」
さて、どうしようかなぁ…
「…ユージェ様、こういうのは如何ですか?」
「ん?」
ジーンが耳打ちしてくる。
ふむふむ、ふーん…
「まぁ、たまにはいいか」
「多分それくらいしないと、ああいう輩は自分への敵意とかは気付かないですよ。多分全て良い方向に捉えられる」
「それもそうかぁ…ガチで潰してもいいけど、それくらいでいいかぁ…」
「まぁユージェ様の匙加減次第では死にますけどね」
「うふふふふ♡」
というわけで、髪型もぴっちり決めて、笑顔を封印して、軽く目に力を入れて…目指すはブリザード纏った父様!
「…おぉ、こっわ」
「失礼ですね、処しますよ?」
「怖ぇぇぇぇ!!!!」
見下した表情しただけでそんな涙目にならなくても…
参考にしたのは、先日メロディさんが僕に似てると言ったルークスが出てくるベーコンレタスな小説のソシラスというキャラ。
そう、ルークスが横恋慕?してた主人公の恋敵ポジの彼です。
ルークスがキラキラ王子様受けキャラ(ちょっと女々しい)ならば、ソシラスは冷徹ドS宰相様攻めキャラ(但し好きな人にはベタ甘)。
ちなみに主人公のアルバートは王家直属の影部隊の頭領だけど、普段は冴えない子爵子息を演じてる攻めキャラで、ゴンザレスはゴリマッチョだけど実は可愛い物が大好きな乙女思考系騎士団長受けキャラ。
個人的には攻めと受け、逆じゃないか?と思った。
ゴリマッチョが受けなのはちょっと…
え?なんでこんなに詳しいかって?
最初に泊まった日の夜、実はメロディさんに本の一部を朗読するようにお願いされたので、とりあえずキャラの説明とか話のあらすじとかを聞いたんだよね。
まぁそこは置いといて。
そのソシラスは好きな人以外の前ではマジ冷徹で、口癖が『煩い小蝿ですね、処しますよ?』。
主人公アルバートはよく処されそうになってます。
蹴り飛ばされたり鞭で追い回されたりしてアルバートはボロボロになってるけど、実は全てギリギリのところで交わしてるのでダメージ0。
咄嗟に血糊とか砂埃纏ってやられた風にしてるという。
それに気付かない(影部隊だと知らない)ソシラスは『全く、貴方も懲りないですね。いつか死にますよ?』と少し引いた目で見てたり。
最後には影部隊頭領だとバレて、しかも命を助けられた事でゴンザレスとの仲を認める、みたいな…
ちなみにアルバートはゴンザレスに元々全く興味なし。
なんならノンケだし。
最後は外堀埋められて半分仕方なく恋仲になるんだけど…っと、また話が逸れたわ。
まぁとにかく、ちょうど最近知ったキャラがこの茶番に1番ぴったりそうだったので、参考にさせていただきました。
そうだ、眼鏡もかけておこうかな。
「ひぃぃぃ…心なしか気温が余計に下がった気がする…!!」
「余計な事は言わなくてよろしい。処されたくなければ貴方も少しは役立ちなさい」
「は、はいぃ!!」
ガッチガチに緊張しとるやないかーい。
にしても、こういう設定で過ごした事ないから気をつけないとなぁ…
ジーンが考えた案は、こうだ。
僕が殺気立って向かえば、多分普通の人なら失神するか動けなくなる。
その隙に堂々と間を通り過ぎればいいと。
あの大軍を抜ければ姿を眩まして駆け抜ければいいから。
ただ殺気立ってるだけなら、愛し子様の機嫌が悪い時だったと言い訳が立つ。
例えばだぁいすきな婚約者と離れたくなかった、とかさ。
そしたらついでに僕が婚約者溺愛してるって身を持って知るでしょ。
まぁ実際手は出してないわけだし?という事。
なので普段から機嫌悪くいれるわけじゃないし、キャラ付けして演じてみる事にしたわけで。
向こうがそれによって戦意喪失してくれないかなぁと思ったり。
「…ふぅ…よし、俺も行けます」
すぅ…っとジーンも強張った笑顔を消した。
元々ツリ目気味なジーンは無言になって真顔でいるだけで締まった顔になる。
「ユージェ様、出来れば殺気は進行方向のみにお願いします。俺もバレないように冷や汗かきたくないし、ノワールやブランが怖がって動かなくなっては困りますので」
「仕方がありませんね、善処します」
「…なりきったユージェ様には感服通り越して呆れが出ますよ」
酷いな、なんで感服の上が呆れなんだよぅ。