お揃い
その後、最早諦めた表情をしたローグナーは仲間と一緒に報告しに行くと言って去っていった。
そしたら王都に向かって久々に帰るんだって。
なんでも仲間は今回限りのメンバーだったらしく、普段はソロで狩ってるそうだ。
雑用系の仕事してたりもするらしいから、こんなにムキムキになったんだとか。
『ワープ』で送るか聞いたら、知り合いに会ってからゆっくり帰るって言うので断られた。
王都ではロジェスの家に泊まるって言うし、今度遊びに行こう。
メロディさんとはその後ケーキを食べに行った、ジーン付きで。
商店街の人達も段々僕に慣れてきたようで、とりあえず話しかけられたりはしなかったけどおっかなびっくりではなくなった。
まぁメロディさんが楽しそうなら周りの空気なんてどっちでもいいんだけどね。
それから屋敷に戻って、お昼ご飯の時間。
用事が終わったらしいナタリーも交えて魔物討伐の話をした。
「まぁ…ではユージェ君が倒して下さったんですね」
「うん、そうなんだ。セバスチャンの方にも連絡入ってた?」
「魔物の目撃情報と討伐情報がほぼ同じタイミングで来ましたよ。まさかユージェリス様のお手を煩わせる事になるとは…大変申し訳ありませんでした」
「いいのいいの、ナタリーやメロディさんに何かあったら困るからね。基本的には僕が立ち寄ったところに魔物がいたら討伐する事にしてるんだ、だから気にしないで。それにこの後のデートでナタリーを不安がらせたくないしねぇ」
「ユージェリス君、本当に強いのねぇ。エスコートも上手だし、本当に出来た息子だわ」
「お母様ってば…まぁ、楽しかったようで何よりです。お父様に昨日お母様の件で『レター』を出しておきましたけど、随分驚かれたようですよ?これから休みを取って帰ってくるみたいです」
「あら、本当に?!」
おー、すっごい嬉しそう。
僕迎えに行こうかなぁ?
いや、恐縮して倒れられても困るか。
あれ?そういえば…
「お姉さん…フェアル様は?まさかまだ気絶してる?」
「いえ、姉は義兄を探しに行きましたよ。明日くらいには次のウィンザー伯爵領へ向かわれるんでしょう?義兄が案内するって言ってたんですけど、中々帰らないから…」
…マックリー様、何してんだろ。
真面目に諜報活動とかしてんのかな…
「まぁそれは置いといて、ナタリー、今日の夜何か食べたい物ある?」
「夜ですか?」
「昨日のお昼はナタリーに作って貰ったし、今日は僕がご飯作ろうかと思って。メロディさんも食べますか?」
「あら、いいの?というよりも、ユージェリス君って料理出来るのねぇ」
「凝った物は作れませんけどね」
「お母様!ユージェ君のご飯はとてもとても美味しいんですよ!お弁当は今まで食べた事ありましたけど、お夕飯となると初めてですから、今まで食べた事ない物がいいです!」
「うーん、じゃあ、クリームシチューとナタリーの好きなふわふわミルクパンでも作ろうかなぁ」
「クリームシチュー?普通のシチューではなく?」
「茶色いんじゃなくて、白いシチューなんだよ。厨房借りてもいいかな?」
「勿論です、お好きに使って下さいまし。セバスチャン、料理長にそう通達を」
「承知致しました」
「じゃあ食材はデートの帰り道で買ってこようか、楽しそうだし」
「はい!そういうお店で買い物した事ないから楽しみです!」
食材の買い出しに行くって、なんか新婚さんがスーパーに買い物行くみたいで心躍るな。
ニヤニヤしないようにしなきゃ。
デートはノワールに乗って行く事にした。
少し離れたところにも行くつもりだしね。
ナタリーを前に乗せて、少し駆けながら進む。
通り過ぎる領民達はみんな2度見してたな。
ちなみに地獄耳スキルで聞こえた囁き声は概ね好意的なものだった。
『ナタリー様と愛し子様、美男美女で素敵だわ』とか『愛し子様、本当にナタリー様がお好きなのね。さっきよりも優しそうな表情』とか。
一部、『俺達のナタリー様が取られた…』みたいな感じで落ち込む男達もいたけど、そこはスルー。
僕が嫉妬して突っかかったら、死刑宣告みたいな感じになるもんね。
「ナタリー、こっちで合ってる?」
「はい、あの小高い丘の上に行きたいのです。昔から私のお気に入りの場所があるので、是非ユージェ君に紹介したくて」
「そっか、楽しみだな」
僕も今度お気に入りの場所連れて行きたいなぁ。
旅してた途中の国々だと遠過ぎるから難しいかな…
そんな事を考えてるうちに、丘の上に到着。
小さな野花が咲き乱れた花畑になっていた。
綺麗だねぇ、領地が見渡せて景色もいいし。
「いかがです?」
「綺麗だね、風が吹くと気持ちいいし。これで天気良ければ寝ちゃいそうだよ」
「私が幼い頃、それこそデビュー前くらいの時は家族でピクニックしたりしてんですよ。お母様が途中で寝てしまってもここなら風邪引かないですし」
「ははは、確かに」
なんだか幸せな構図だな。
…うち、ピクニックした事ないんだよね。
父様が仕事忙しいってものあったけど、僕が愛し子だったからってのもある。
いや、待てよ?
もしかしたら僕がこの世界に来る前はしてたのかも?
『ユージェリス』の話はあんまり聞いた事ないからなぁ。
「ユージェ君?」
「ん?あ、いや、なんでもないよ。ナタリー、折角だしここでお茶にしない?セバスチャンから紅茶のセット渡されてるんだ」
「まぁ、いいですね」
同意を得られたので、アイテムボックスから紅茶セットを取り出す。
そこからはレジャーシートの上でゆっくりと雑談。
なんかこんなにナタリーとゆったり出来たのはいつぶりだろう。
…あんま記憶にないな。
まず2人きりって状態が両手で数えられそうなくらいだし。
というか、婚約してからは初めてだな、2人きり。
…ちょうど、いいかも?
「ねぇ、ナタリー」
「なぁに?ユージェ君」
「右手貸してくれる?」
「右手ですか?はい」
差し出された右手に、アイテムボックスから出した指輪をはめる。
薬指に嵌った指輪は自動的にサイズが合うようになってるから、勿論ぴったりだった。
僕のお手製だから、付与もバッチリです。
「…ユージェ君、これ…」
「右手の薬指で指輪お揃いにするの、流行ってるんだって。僕は兄様みたいに家を継ぐわけじゃないから後継者の指輪を持ってないし、ナタリーにあげる事は出来ないけど…こういう証があってもいいかなって。つけてからでなんだけど、貰ってくれる?」
「…はい、ありがとうございます…」
嬉しそうに微笑んでくれたナタリーに、僕まで嬉しくなっちゃったよ。
心がポカポカするねぇ。
「なんか、私ばっかり貰ってばかりですね…ちょっと心苦しいです」
…やべぇ、重いって思われてる…?!
またやり過ぎたか…!!
だってだって、前世では婚約指輪とか結婚指輪があったわけだし、リボン以外にもお揃いが欲しかったというか!!
…僕、前世でもお揃いせがむ女だったのかな…
や、やっぱり返して貰おうかなぁ…?!
「な、ナタリー…」
「…そんな情けない顔しないで下さいな。とっても嬉しいんですよ?返しませんからね?」
「あい…」
「お揃いなんでしょう?ユージェ君のは?」
「ここにあるけど…」
僕用の指輪を取り出すと、ナタリーはそれを摘んでから僕に手を差し出した。
「今度は私がつけますから、右手貸して下さいな?」
「うん!」
やった、つけてもらえた!
ふっふーん、お揃いお揃い♪
「ちょっとユージェ君の扱い方がわかった気がします」
「え、どういう事?」
「存外、ユージェ君って単純な方だな、と」
ふふふ、と笑うナタリーの背後に、なんとなくメロディさんが見えた気がした。
おやぁ…?