ナタリーの母
その後、メロディさんに残っていた呪いのカケラを解呪した僕。
念には念を入れて、『イレイザー』も使っといた。
後は弱った筋力も治癒して、歩ける程度まで回復出来たよ。
そしてその日1日起きていたメロディさんは、夜寝る時までめちゃくちゃ元気だった。
なんでも今までは起きれても2時間くらいだったから、1日の時間の移りゆく様を見るだけで嬉しくなっちゃったらしい。
あ、ナタリーのお姉さん、フェアル様は仕事で屋敷にいなかったので、会えたのは夜になってからだった。
僕を見るなり硬直し、目を回していたけど。
そしてその後にメロディさんが起きている事に気付いて、驚いて倒れて。
…大丈夫かな、結局そのまま起きなかったけど。
ちなみにメロディさんとナタリーに許可を貰って、ナタリーとフェアル様を鑑定したけど裏メニューは出てこなかった。
…ナタリーに出てきたら、それを口実にキスしちゃおうかと思ったんだけどな…
いやいや、ファーストキスがそんな理由でお座なりになっちゃダメか。
そんなこんなで、屋敷にお泊まりした翌朝。
遠くから聞こえた悲鳴?で目が覚めた。
危機察知スキルは感知してないから、悪い事は起きてないと思うんだけど…
とりあえず着の身着のままで部屋を飛び出して声のした方へ走った。
ここ、誰の部屋だ?
とりあえずノックしよう。
「すみません、何かありましたか?」
「あら、ユージェリス君?おはよーう」
なんと、出てきたのはメロディさんだった。
「あれ?ここ、メロディさんのお部屋じゃないですよね?」
「えぇ、ここはフェアルの部屋よ。気分良く、問題なく起きれたから、フェアルはどうしてるかなぁと思って。昨日結局会話らしい会話が出来なかったものねぇ」
まぁすぐに倒れちゃったしね。
そしてなんで寝起きドッキリ仕掛けてんだか。
「ベッドに入り込んで、起きたフェアルに『おはよう、私の可愛い天使ちゃん♡』って言ったら悲鳴上げて2度寝しちゃったの。どうしようかしら?」
「フェアル様ならそうなるでしょうね」
「だってぇ、ここ最近ずぅーっとフェアルに会えてなかったんだもの。一昨日少しだけ起きた時もフェアルいなかったし…」
「あはは、寂しかったんですね。でももう少しやり方考えないと。フェアル様はびっくり系弱いんですから」
「ここまで弱くなってるとは思わなかったわ…昔の方がまだ耐えられた気がするもの」
「ユージェ君?!お母様?!」
隣の部屋が開くと、すでに着替えが終わったナタリーが出てきた。
うん、今日もうちの婚約者殿は可愛いねぇ。
「おはよう、僕の可愛い天使ちゃん♡」
「ファっ?!」
メロディさんの真似してみたら、一瞬で茹で蛸ナタリーの出来上がりです。
「あらあら、やっぱり男の子が言うと破壊力があるわねぇ!しかも寝巻きのままで胸元はだけてるし、色気も加味してるわね!うーん、確かにこう見ると攻めっぽいわぁ」
「まぁ受けと言われると複雑なんで、攻めであれば嬉しいですね」
「あら!ユージェ君、話がわかるのね!嬉しいわぁ、旦那様はこの趣味についてあんまりいい顔してくれないんだもの」
「複雑なんだと思いますよ…」
僕もナタリーにそういう目で見られると複雑だし。
とりあえず寝てる間に外しちゃってたらしい第2、第3ボタンを直す。
というかいっそ着替えるか。
指パッチンで瞬間お着替え完了!
「改めて、おはよ、ナタリー」
「…おはようございます、ユージェ君。さっきの悲鳴はお姉様ですよね?」
「そう、メロディさんが脅かしちゃって、まだ寝てらっしゃるらしいよ」
「はぁ、もう…では先に朝食をいただきましょう?」
「「はぁーい」」
少し呆れた様子のナタリーに続く僕達。食堂へ行くとジーンとセバスチャンやメイドさん達が揃っていた。
「おはようございます、ユージェ様。ユージェ様は先程の悲鳴に気付かれましたか?」
「おはよ、ジーン。勿論、なんなら向かってった」
「あぁ、やはり。俺は中庭を借りて日課の素振りをしてたんですけど、悲鳴が聞こえて。咄嗟に向かおうとしたらセバスチャン様にお会いして、『アレはきっとフェアル様ですから、大丈夫ですよ』と」
「うん、フェアル様だった。メロディさんが寝起きドッキリかましてまだベッドの上らしい」
僕の言葉を聞くと、数人のメイドさん達が食堂を出て行った。
多分フェアル様のところへ行くんだろうな。
説明も終わって、席について朝ご飯。
デザートのこの桃、うまー。
「ユージェリス君、今日はどうするの?」
「ここ最近ゆっくり観光も出来ずに回っていたので、フラフラさせてもらおうかなと」
「ならナタリー、案内してあげたらどう?」
「午後なら空いてるんですけど、午前はちょっと…」
「なら午前は私が案内してあげるわ!」
「お母様が?」「メロディさんが?」
「若い王子様みたいにカッコいい男の子とデートしてみたいもの♡屋敷の周りのお店なら私も知ってるし、ナタリーは後で少し離れたところを案内してあげなさいな」
「ユージェ君、それでいいですか?」
「勿論。メロディさん、よろしくお願いします」
「かしこまりました、愛し子様」
おぉ、そうやってちゃんと返されると伯爵夫人っぽい。
でもすぐにニヤニヤしちゃうのはあかんな。
なんかまた変な妄想してません?
そうして朝ご飯を食べ終わった後、ナタリーに見送られてメロディさんと屋敷を出た。
ちなみにジーンは屋敷にいた私兵にせがまれて稽古をつける事になった。
ジーンもかなり強くなったからねぇ、素振りしてるのを見られて是非と言われたそうだ。
まぁ僕はぶっちゃけ1人でもメロディさんを守る事は出来るし、ジーンは置いてきました。
「メロディさん、これからどちらへ?」
「商店街がすぐそばにあるのよ。昔は何回か行ったんだけど、ここ最近は行けてなくてねぇ。体も治ったし、久しぶりに行きたかったの。ユージェリス君がいれば安心だし、ちょうどよかったわ」
成る程、メロディさんも出かけたかったのか。
殆ど屋敷に篭って寝てたみたいだしね。
商店街に着くと、中々活気に満ちていた。
うーん、王都の大通りを思い出すね。
「奥様?!」
「え、奥様?奥様だ!」
「奥様!今日はお体大丈夫なんですか?!」
「皆さん、ご機嫌よう。実はあのやっかいな体質を治していただけてね。こうやって出かける事が出来るようになったのよ」
おぉ、多少猫被ってる。
まぁ普段からあのテンションとかじゃ伯爵夫人らしくはないか。
なんていうか、大人しい状態を見るとやっぱりナタリーに似てるな。
「え、あ…愛し子様…」
「愛し子様だ…」
「…奥様、まさか、愛し子様が…?」
「えぇ、ユージェリス君のおかげよ」
君付けに恐れ慄いたのか、領民達がちょっと後退る。
それを見たメロディさんは少しキョトンとしてから、いい笑顔を浮かべて僕の腕に抱きついた。
それによって騒然とする商店街。
「いい子なのよ?ユージェリス君。魔法の腕はいいし、美男子だし、ナタリーには溺愛してて優しいし、私にも義母として優しいし。理想の息子だわ〜!貴方のところも、こういう素敵なお婿さんが来てくれるといいわね?」
うふふー、と笑いながら僕の頭を撫でてくれる。
そして婿がどうと言われたおじさんは、少し苦い顔をしてから顔を背けた。
「…奥様がお眠りになっている間に、娘は婿をとりましたが…」
「あら、そうだったの?おめでとう。息子は可愛いでしょう?」
「そりゃ、愛し子様が息子なら、自慢出来る可愛い息子でしょうけど…」
「違うわよ?」
「え?」
「『愛し子様』じゃなくて、この子はうちのナタリーの旦那様になる『ユージェリス君』よ?」
何言ってるの?とばかりに不思議そうに小首を傾げるメロディさん。
…流石、ナタリーのお母様。
偶然なのかもしれないし、他国出身だからかもしれないけど、この人は僕を1人の人として見てくれている。
愛し子という偶像ではなく、僕自身を。
そして僕自身をいい子だと言ってくれている。
うーん…これは、慕わずにいられない。
「メロディさん、ありがとうございます」
「あら、何かお礼言われる事したかしら?私がお礼をしなきゃいけないくらいなのに」
「じゃあ、娘さんを下さい」
「やぁねぇ、私と引き換えなんてあげられないわ」
「ですよねー。じゃあナタリーは勝手にいただいていきます」
「それも困っちゃうけどねぇ、やっと一緒に過ごせると思ったのに」
「確かに。まぁ暫くは僕も仕事したり探したりしてますから、親子の時間をお楽しみ下さい。たまに混ぜていただけると嬉しいですね」
「勿論よ!沢山一緒に遊びましょうね」
僕とメロディさんのやりとりをポカーンと見つめる領民達。
もうなんだか付いていけないみたいだ。
まぁしょうがないよね。
メロディさんをエスコートしながら、その場を後にしようとすると…
「…ユズキ?」
「ん?」
おや?僕をそう呼ぶ人なんて…?
「…あ、ローグナー!」
「ユズキ!久しぶりだなぁ!」
なんと、約2年ぶりにローグナーと出会った。
ちょ、めっちゃガタイ良くなってるし!
てかなんでここにいるの?
明日お昼頃、番外編1話更新しまーす。