歌の力
〜〜〜〜♪〜〜〜♪
楽しみすぎて鼻歌歌っちゃうぜ。
てかこうやって周り気にせず素のままで寝っ転がってうだうだ出来るの、最高。
ユズキの時はあるけどね、メイーナやローグナー達と学院の中庭で寝っ転がった事。
「…ユージェ様」
「ん?なぁに?」
「ユージェ様って、歌えるんですか?」
「え?」
「あ、いえ、鼻歌でも歌ってるところ、初めて聞いたので」
「あー…昔は料理する時とかに歌いながらやってたけど、最近はしないしなぁ」
というか、歌うって事が特殊な事だと知ってから歌わなくなっちゃったんだよね。
この世界において、音楽の定義は大きく分けて3つ。
1つ目がメロディだけの『曲』。
2つ目が子守唄や手遊びなどの『童謡』。
3つ目が劇中歌などの『歌』。
前に見たサーカスの伴奏なんかは歌詞のない『曲』で、『歌』ってのは舞台上…ミュージカルみたいなやつとか、吟遊詩人が歌うやつくらいなんだよね。
台詞を曲に乗せて奏でる事、というか。
つまり前世で言うところのJ-POPみたいな、大衆が慣れ親しんで普段から口遊む音楽ってのはないわけで。
僕が料理中に口遊んでいたものは、どちらかというと『童謡』よりの『歌』の扱いだった。
料理の手順だったしね。
そして今、鼻歌で歌ってたのは前世の歌。
勿論台詞じゃない歌詞もある。
「じゃあ今はジーンしかいない事だし、1曲聞かせてあげよう!…あ、聞きたい?」
「めちゃくちゃ。俺、演劇とかあんま見た事ないんですよね」
「今から歌うのは、ジーンの知ってる『歌』じゃないよ?」
「え?」
「前世の歌を歌いましょうかねぇ」
指を鳴らして、喉の作りを一時的に変える。
イメージとしては、前世の声で。
その方が歌うのも慣れてる気がするしね!
そしてもう1度鳴らして、ジェリスちゃん幻影を纏う。
服装は勿論、フリフリなアイドル風。
1回くらいこういうの着てみたいよね!
ジェリスちゃんなら超似合います!
「私の歌を聞けーぃ!!」
It's show time♡
…そして歌い終わる。
あー、なんかスッキリしたぁ。
こうやって周り気にせず大声で歌うのってストレス解消になるねぇ!
たまにやろうかなぁ…おやぁ?
なんで、ジーン、泣いてんの?
そして、なんで、いつの間にかジーンの横に座ってたナタリーも泣いてんの?
それから、なんで、離れた場所にいるセバスチャンや他の使用人達もハンカチ目に当てて泣いてんの?
とりあえず魔法を解いて、小首を傾げる。
「…どしたの?」
僕の問いに答えてくれる人がいない。
「ジーンー?」
「…歌の意味は、わからないところもありましたけど…でも、それはちょっとないです…」
「え?何が?ナタリー?」
「…酷いです…」
「そんなに音痴だった?!セバスチャン?!」
「いえ!!とてもお上手でございました!!私は感激致しました!!」
「あ、え、そ、そう?」
なんだこの温度差。
ジーンとナタリーは同じ意味で泣いてる気がするけど、セバスチャン達は感動してる…?
よくわからなくて、とりあえずジーンとナタリーに近付く。
「何がいけなかったの…?」
「…『生き残りたい』とか、『生きていたくなる』とか、『何しにここにいる』とか…ユージェ様の境遇を考えると、泣かずにはいられないですよ…」
「…あ、そういう…いやいや、この歌選んだ理由なんて適当だからね?別に僕悲観してないからね?」
「ユージェ君…」
「ナタリーまで…そんなに真剣に聞かなくても良かったのに…」
…いや、待てよ?
もしかして、無意識に歌に魔力が篭っちゃったのかな?
『意味のある音』が魔法の起動条件だし、さっきまである意味心を込めて歌ってたわけで。
僕の過去を知らない人からすれば、ただの壮大なラブソングみたいなもので。
でも知ってる人からすると、色々と重ねちゃう事で意識下に入り込んで感情を揺さぶっちゃった…?
あ、もしかしてこの世界にそういう『歌』がないのって、これが答えか…
状況によっては、洗脳も可能ってね…
ほーんと、魔法って便利で怖いわ。
とりあえず袖で2人の頬を伝う涙を拭う。
「ごめんね、もう歌わないからさ。だから…」
「歌わないんですか?!」「歌わないんですの?!」
「うん?」
なんでそんなにショック受けた顔してるの?
「嫌だったんじゃないの?」
「ユージェ様の声は物凄く良かったです!」
「歌の意味とかを無視すれば、とっても良かったです!」
「なんていうかこう、ずっと聞いてたくなるというか!」
「素晴らしい演劇を見た後のような感動がありましたわ!」
「「だからまた歌ってほしいです!!」」
「お、おう…」
…そういや、僕、歌唱スキル持ちだったな…
歌唱スキルは主に演劇役者が持っていると重宝するスキルなんだけど、まさかそれが作用したか…
僕の歌唱力って、人並みだと思うんだけどなぁ…
「…今度ベティ様とカラオケ大会しようかな」
「「からおけ?」」
「えっと、歌って楽しむ会しようかなって。多分僕が歌う元ネタ、ベティ様なら知ってるし」
「…私も、参加したい、です…」
「…俺も、付いてっていいですか…?」
「…まぁ、いいけど」
パァっと嬉しそうに笑って喜ぶジーンとナタリー。
そんなに気に入ったのか。
でも大勢の前で歌うのはやめよう。
余計に愛し子信仰者が増えそうな気がする、洗脳するつもりなくても。
それは疲れるから、今度はちゃんと防音魔法かけるかなぁ。
そしてその後、持ち直したセバスチャン達が用意してくれて、3人でお昼にする事になった。
2つのバスケットに入った色とりどりのサンドウィッチに、サラダやピンチョスみたいなものなど、種類の多さにナタリーからの愛情をひしひしと感じる。
「美味しそう!」
「あ、あんまり見ないで下さいませ。見た目の体裁は整えましたけど、ユージェ君のお口に合うかどうか…」
「絶対合う、僕が保証する」
「信用出来ませんけど…」
「まぁまぁ、そんじゃあ、いっただっきまーす!」
話が長くなる前に、さっさと食べ始めてしまおう。
ブロッコリーとエビのサンドウィッチを手に取り、齧り付く。
…ヤバイな、彼女の手料理って、こんなにも美味しいのか。
「ナタリー、美味しいよ、ありがとう」
「お、お口に合って良かったです」
「くっそぅ、こんな美味しいもの、ジーンにも同じタイミングで食べられると思うとなんか悔しい」
「なんですか、それ」
「あ、あの…実は、ジーンさんの分は、うちの料理長が作った物でして…」
「「え?」」
「教えてもらいながら作ったので、お手本があって、その…だから、ユージェ君が食べてるものだけが、私が作ったもの、です…」
「はいっ、うちの奥さん超可愛いー!!!」
「おくっ…?!」
「間違えた、未来の奥さん超可愛いー!!!」
「はぅ…」
「どんだけ仲良いんですか、全く…いただきます」
いやぁ、もう手が止まらないね!
僕って大食いなわけじゃないけど、全部食べきれそうだわ!
ジーンが『このバカップルが』みたいな目で見てくるけど、もう気にしませーん。
可愛いは正義、ただそれだけだ。
異例のスピードでお昼食べ切っちゃったよ。
また作ってねって言ったら、頑張りますって返してくれた。
あぁもう、幸せ過ぎてストレスとかどっか吹っ飛んだわ。
その後は屋敷の中でお茶をいただいて、ここまでの道のりであった事を話したりした。
そういえばお姉さんまだ来ないな?
あの人って僕に対して恐縮するタイプだから…
あれ?そういえば…
「ナタリー、今更な事聞いていい?」
「はい?なんでしょう?」
「ナタリーのお母さんって、領地にいるって言ってなかった?」
「えぇ、いますよ」
「ここ、領地だよねぇ?」
「そうですねぇ」
「…未だに1回もご挨拶してないんだけど。婚約したのに不味くない?」
「大丈夫ですよ」
「いやいや、義理の母になる人なわけだし、挨拶くらいはさせてくれる?!」
「…うーん、どうしましょう…」
悩む素振りを見せるナタリー。
な、なんで紹介してくれないの…?!