カルデラ公爵領事変
ゾウニール様と別れた後、僕達はそっと人目のつかない所で転移した、オルテス公爵領に。
野宿するにもガラパゴルス公爵領じゃまだ地形わかんなくて難しいし。
昼間に休憩した湖の辺りで1泊させてもらいました。
そして翌日、そっとガラパゴルス公爵領に戻って駆け抜けて、次の領地に向かう事にした。
…このペースでいけば、1ヶ月くらいで回りきれそうだな。
2〜3ヶ月を目標にしてたけど、どこかに何日も泊まったりしなければ1ヶ月だわ。
大体の領地が1日あれば余裕で駆け抜けられそうじゃない?
うちのノワール達、超優秀。
ご飯に僕特製のポーション(にんじん味)混ぜてるからかなぁ…
「ユージェ様、そろそろ着きますよ」
「ん?あぁ、そっか。次は?」
「グラディウス公爵領ですね。当主はバウセント=グラディウス、大臣の1人です」
「…あぁ、あの卒院式でクッソ長い話してたオッサンか…」
「その通り。ちなみにここも駆け抜ける方向でいいかと」
「そうなの?」
「教育系の大臣なので美術館とかは見応えありそうですけど、元々グラディウス公爵家は反王政派でしたから、あまり関わらない方がいいと旦那様からもご忠告をいただいております」
「あぁ、ソフィア様の養子先のアロス公爵家と同じ…」
「アロス公爵家は自分が王になろうとしていた反王政派ですが、グラディウス公爵家は少し違います」
「ほう?そうなの?あんまりそこら辺詳しくないんだよねぇ」
「俺も今回の旅で改めて調べたのですか、グラディウス公爵家は簡単に言うと…『愛し子様が王になるべきだ!』という愛し子様神聖化崇拝派ですね」
「…ぷぎゃー」
「その当時…ガルフィ様が王太子の頃などは、王家に愛し子様がいませんでしたから。なので『愛し子様が1番偉くて尊いのだから、王も愛し子様であるべきだ!』という考えの元動いていたそうで」
「…ぴぎゃー」
「えっと…確か若かりし頃のローレンス=ウルファイス様を王にしたがっていたとか?まぁそこら辺は旦那様を通して大旦那様にお聞きした内容なので、もしご興味がおありでしたら今度直接お聞き下さい」
「いや、いいや、寒気がするから」
「でまぁ話を戻しますが、グラディウス公爵家が反王政派として覚醒したガルフィ様に粛清されなかったのは、ベアトリス様のおかげですね」
「ベティ様?」
「ベアトリス様という愛し子様が王家に嫁ぐ事で掌を返すように王政派になったとか。後、元王女である奥様も愛し子様…ユージェ様を産んだという事で、ここ数年は心酔するかのような王政派だそうで」
「もうやだ、ゾウニール様より会うの怖い」
「だからぶっちゃけ、出来るだけ街は通らずに突っ切った方がいいかもですね。領民がどういう思想を持っているかわかりませんけど、現当主に見つかれば誇張されて変な噂が広まるやもしれません」
「…でも通った事は知られないといけないから、どこかで必ず顔を出さないと…あ、でも衛兵所通るだけでそれはクリアしてるか!」
「ただまぁそこからグラディウス公爵家に連絡が行くと、迎えに来るかもしれないので…」
「ジーン!ノワール!ブラン!強行突破するぞぉ!!!えいっ、えいっ!!」
「…おー」
「「ヒヒィーン!!!!」」
やった、2頭も嘶いてくれた!
というわけで、さっさと逃げまーす!!
…翌日、逃げ切った僕達は次の領地のカルデラ公爵領へと辿り着いた。
ちなみに昨日は本当に疲れた…
まさか噂を聞きつけた公爵家の私兵が家宅捜索してまで僕達を探しているとは…
認識阻害の魔法使って逃げたわ。
そしてまぁ、今日こそは少しゆっくりしたいなぁと思ってるわけだけども。
「…カルデラ公爵家って、バタついてるんじゃ…?」
「あぁ、ご存知でしたか。只今カルデラ公爵と夫人の離婚裁判真っ只中です。なのでお2人とも王都にいらっしゃいますので、今回は追われる事もなさそうですね」
「チェルシー嬢が結婚してから離婚じゃなかったのぉ?!」
「なんか、そのチェルシー様の異母兄妹の中に比較的優秀な文官がいたらしくて。その人に継がせようとしてるらしいです、夫人が。なんかもう早く別れたいとか…」
「えぇ…?チェルシー嬢は…?」
「…確定事項ではないですけど…チェルシー様の夫にするかも、とか…」
「…いやいや、待って待って、異母兄妹でしょ…?流石に僕、近親相姦は許容範囲外だわ…」
「ですよね…まぁ世間的にはカルデラ公爵の息子とはなっていないので、婚姻は交わせるみたいなんです。ただ調べれば1発でアウトですけども」
「だよね…というか、ジーンはそれをどこで調べたの?」
「旦那様に聞いたりですとか、レオナルド様がニヤニヤしながら渡して下さった資料でしたり」
「アイツか」
絶対その情報はレオからでしょ。
「まぁとりあえず、やっとゆっくり出来そうですね。チェルシー様はユージェ様と面識のある方ですし、少しは長居しても変な噂は立たないでしょう。観光でもしていきますか?」
「そうだね、なんかご当地の美味しい物とか食べたいなぁ」
そんな話をしながら、これまた衛兵所の前をオールスルー。
いつも通り、開いた口が塞がらない衛兵さん達がいっぱいいた。
衛兵所には馬を預けるところがあったのでノワール達を預けると、ガッチガチに緊張したお兄さんが真っ青な顔で「命に変えましてもお預かり致します!!」とか叫んでた。
生憎、うちの子達には僕特製の魔導具をいくつか付けてるから全く命の心配はないんだけどなぁ。
というわけで、ジーンと歩いて賑わう街を散策し始めました。
最初は「あぁ、お貴族様がいるな…」程度の距離感だった人達も、僕の顔と頭を二度見三度見して、驚愕の面持ちになった。
買い物は基本的にジーンにお任せ。
と言っても飲み物1つ買ったくらいだけど。
周りのお店の人達は「うちにも来て欲しいけど、声かけられないから呼び込めない…!!」みたいな表情でこっちをギラギラ見つめていた。
「うーん、美味しい。喉渇いてたんだなぁ、他のお店の飲み物も買って飲もうかなぁ?どこがいいかなぁ?」
態とらしく、僕がチラリと周りのお店を見る。
それにより「え、いいの?話しかけていいの?」みたいな感じで挙動不審だった。
「…う、うちは牛乳が売りのイチゴシェイクが大人気だよ!みんな飲んどっとくれー!」
1人のおばちゃんが意を決したように叫ぶ。
そうして「みんな宛に言えばいいのか!」みたいな顔をしたおじさん達が後に続く。
「リンゴのフレッシュジュースならうちのが1番!いかがですかー?!」
「バナナミルクが看板商品!さぁさぁ見てってくれー!」
さっき以上に賑わう街中。
飲み物に便乗して食べ物を売り込む声も増えてきた。
いいねぇ、こうやって活気がある方がいいじゃない。
つい笑ってると、さっき飲み物を買った時の店主さんがポカーンとした顔で呟いた。
「…愛し子様が、笑ってる…」
「…うちの主人は愛し子様であられるまえに、1人の人間ですよ。笑いもすれば、泣きもする」
「…あぁ、そうだな、人間…なんだよな…俺は何を今更…」
…やっぱり、愛し子って人間に思われてない事の方が多いんだよなぁ。
特にそれが普通だと思っていた大人なんかは。
愛し子という存在を知ったばかりの子供はそうでもないんだよね、この前のシャルとかも。
そんな事を考えながら、適当に買い食いをして歩いていく。
お金なんて受け取れないなんて言われたけど、きっちりお支払いしましたとも。
後は庶民の食べ物だから売れないって言われたものにもチャレンジした。
普通に美味しかったけども。
そうしてまた、お店の人は驚きの顔を見せる。
こうして少しでも、僕達が人間であるとわかってもらえるといいなぁ。
そう思いながら、一旦人気の少ない路地へと入る。
ゆっくり食べたいしねぇ。
「…だから、爺…って!!」
「ですが…!!」
…なんか通りかかったお店の中から、言い争う声が聞こえる。
ここは…ちょっと高級そうな衣装屋さんだな。
ディスプレイに並ぶドレスが綺麗だねぇ。
「もういいですわ!!爺のおバカさん!!」
「お嬢様ぁ!!お待ちをぉぉ!!」
そう言って飛び出してきたのは…
「…チェルシー嬢?」
「えっ?ゆ、ユージェリス様?!」
金髪縦ロールを振り乱しながら真っ赤な目の、チェルシー嬢だった。
僕に気付いて目を丸くした後、その真っ赤な目に涙を溜めて、小走りに僕に抱きついてくるチェルシー嬢。
「ゆ、ユージェ、ユージェリス様ぁ…!!」
「え、えっと、どうされたんですか…?」
「ゆーじぇりしゅしゃまぁ…!!わた、わたくしと、わたくしと…!!」
「ん、うん?」
「わたくしと…まぐわってくだしゃいましぇー!!!!」
「…え」
…ナンダッテ????




