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早々の遭遇

街の中では人を轢かないようにそれなりのスピードで、街の外ではノワール達が疲れない程度のスピードで駆け抜ける事、約5刻。

あ、勿論途中で休憩挟んだり、湖の辺りでピクニックがてらお昼食べたりもしてたよ?

今日は食べやすいサンドイッチでした、美味しい。


「思ったより問題なくオルテス公爵領を抜けられそうですね」

「まぁ突っ切るための最短距離をジェイク様に教えてもらってたしね。次からが本番だよ」

「次は…あぁ、例のガラパゴルス公爵領ですか」

「…とりあえず手土産は持参してるんだけども」

「ここだけ?」

「ここだけ。なんか本当にすみませんって気持ちが強くて」

「でもユージェ様が婚約を申し込む前にスタンリッジ伯はお断りしてたんですよね?ならそこはもう関係ないのでは?」

「…ガラパゴルス公爵家がスタンリッジ伯爵家に婚約の申し入れをした事は、公になってないんだ」

「へぇ、そうなのですか」

「かのご子息様は2度目の婚約になる話だったし、ナタリーの反応も微妙だったから、内々的にしたんだって。もし大々的に、というか普通に婚約を申し込んでいれば、貴族間ですぐに噂になったはず。その場合、お断りをされた後すぐに僕がナタリーと婚約を結んだ事によって、ガラパゴルス公爵家は貴族達から『愛し子様に逆らった家』と見られる可能性があったんだよ」

「…それは…あぁ、成る程…」


愛し子様の物(=ナタリー)を盗ろうとして、失敗した愚かな家。

そういう解釈をされてもおかしくはなかった。

今回は偶然公になってなかったからこそ、そうならなかっただけで。

あの時、僕、焦ってたんだよなぁ。

あんまり周りを鑑みなかったのは、反省すべき点だ。

実際には僕が焦って玉砕覚悟でナタリーに告白しただけなんだけどさ。

なんなら世間からヘタレと罵られても構わないくらいのヘタレっぷりだったわけで。

でも、その世間というか、この国では愛し子は『正』という風潮がある。

『正』というか『善』?

多分今回の件は『愛し子様と密かに想い合っていた伯爵令嬢が、年上の公爵子息から言い寄られて婚約を申し込まれた。愛し子様はそれにご立腹で、然るべき時期を待っていたにも関わらず早急に伯爵令嬢と婚約を結ぶ事になった』…なぁんて、よくわからない解釈をされただろう。

その場合、『悪』は公爵子息。

僕の事を知らない人達はそう思っただろう。

僕の周りの人達は絶対にそう思わない。

なんてったって僕の事諫めるような人達ばっかりだし。

愛し子じゃなくて、僕として扱ってくれるから。


「今回は完璧に僕が悪いんだよねぇ…だから、流石に謝らないと」

「普通に、というか平民同士で考えたら、あちらはただ意中の相手を横から盗られた可哀想な人なんですけどね。貴族としての立場やユージェ様が愛し子様というだけで、状況が一変する…怖いもんです」

「本当にねぇ…流石にこの世界で10年貴族やってれば慣れてもくるけど、元々別の世界観で27年平民だったわけだからね。違和感しかないよ…」

「お疲れ様です…」


そんな話をしながら、ガラパゴルス公爵領に突入する。

またもや衛兵さん達は驚愕の表情でした。

時間も時間だし、とりあえず宿屋を探して今日はゆっくりする事にしようかな。


「ジーン、どっか部屋取ってきてよ。僕がいると大変そうだから、取れたら行くよ」

「それでも大事になりそうですけどね、いってきます」


ジーンを送り出して、僕はノワール達と衛兵さん達の横ら辺に座り込んで待つ。

いやぁ、めっちゃ視線感じるぅー!

やっぱりヤンキー座りなのがダメですか?

…なーんてね、違うのは知ってます。


「…すみません、ここ、場所借りますね」

「「「は、はいっ!」」」

「…いい天気ですねー」

「「「はいぃぃぃ!」」」


…夕方だし、どちらかと言えば曇ってるんだけどね。

さっき思った通り、愛し子に否定出来る人ってまぁいないわな。そんな微妙な空気の中、待つ事半刻ほど。


「ユージェ様、戻りました」

「見つかったの?」

「…断られました、というか、やめてきました」

「へ?」

「平民しか泊まらないような素泊まりタイプの宿があったので入ったら、俺の格好見てすぐに門前払い。恐れ多くてお貴族様は泊められないとの事で。俺が平民って言っても身なりが違うって。これじゃ俺が認められてもユージェ様が来たら店主が倒れそう」

「おう…」

「で、やめてきたのは貴族が泊まるような小さくて豪華な宿の方ですね。なんか満室だったので、愛し子様が泊まるとバレたら誰か追い出されるか自主的に譲られて恩を売られても困るので」

「あー…」

「…初日ですが、帰ります?」

「または久々に野宿でもする?」

「あぁ、それでもいいですね。向こうに森もありますし。ユージェ様が野宿セット持ってて下さってますからすぐに出来ますね」

「お、お話中失礼致します!!少々よろしいでしょうか!!」


僕とジーンの会話の間をぬって、衛兵のお兄さんが意を決したように声をかけてきた。

ただしジーンに向かって。

それによりジーンが僕に目線を送ってくるので、僕も目線で許可を出す。


「なんでしょうか?」

「そ、そのっ、あのっ、従者殿の主人は、その、あー、えっと…愛し子様とお見受けしましたが、相違ないでしょうか…」

「えぇ、その通りです」

「…お泊まりになる場所が、ないと、聞こえたのですが…」

「あぁ、その件につきましてはご心配なく。こちらで解決しますので」

「いや、でも野宿するって…」

「慣れておりますので、お気遣いなく」

「いやいや、愛し子様が野宿に慣れてるなんて…」

「問題ありませんので、お気になさらず」

「いやいやいや…」


段々と顔色の悪くなっていく衛兵さん。

なんだか平行線だなぁ、さっさと『ワープ』で王都に戻った方がいいだろうか。


「キーノ!!あの『レター』は本当か?!」

「ゾウニール様!お待ちしておりました!!助けて下さい!!」


…ぞうにーる、って…まさか…


「…本当だ、愛し子様がおられる…」


やべぇ、僕の元恋敵ー!!

想定外の出来事に、僕の思考は停止した。


「ユージェ様?ユージェ様!おーい?!」

「…はっ!!ちょっと意識が精霊界逝きかけてた」

「やめて下さいね?!」

「…もし、従者殿。少しよろしいか?」

「…はい」

「…私が愛し子様に話しかけても、問題ないだろうか?」

「えっと、そう、ですね…」


チラリと僕を見るジーン。

その目は『どーすんですか!(泣)』みたいな感じだった。

僕は覚悟を決めた。


「…お初にお目にかかります。アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します」

「…!っが、ガラパゴルス公爵子息、ゾウニール=ガラパゴルスと申します。愛し子様にお会いする事が出来て、光栄です」


そう言ってお互い、貴族の礼を取る。

顔を上げると、困惑した様子のゾウニール様と目が合った。


「…えぇっと、こんなところじゃなんなんですけど、実はゾウニール様にはお会いしたいと思っていまして…」

「…私に、ですか…?」

「えぇ、まぁ、その、個人的な用事で、なのですが…よろしければどこか個室のある場所などにお付き合い願えればと思うのですが…」

「で、では、我が家へお越しいただけませんか?あ、勿論愛し子様が我が家を来訪した事を誇張して言いふらしたりなどしませんので!」

「あー、では、それでよろしいでしょうか…」

「はい!」


まさかのお宅訪問が決まっちまった…!!

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