平和なひととき
「聞いたぞ、ユージェ。おめでとう」
あの告白から数日後、僕はジーンと一緒に王城に来ていた。
ベティ様達に『レター』で婚約する事を伝えると、普通は数ヶ月かかったりする事もある申請なんかがトントン拍子で進み、今日は婚約申請書の受け取りに来たのだ。
ついでにベティ様から「kwsk」と一言父様経由で言付かってたので、多分根掘り葉掘り聞かれるんだろうなぁ…
あ、ちなみに例の頭のお堅い糞爺共については保留です。
父様が本気で止めるので。
だからこの申請も陛下や宰相様とかの身内だけで処理して回してくれてる。
その申請書に僕とナタリーの署名を入れて、両家当主が承認をすると婚約出来るので、それが終わったら周囲に堂々と言っていい事になった。
まぁ別に友達とかなら言っていいって言われてるけどさ。
愛し子だから臨時放送するかと言われたけど、ナタリーが恥ずかしがったのでそういうのもなし。
僕的にはナタリーに悪い虫が付かないように発表してもいいんだけどなぁ…
そう思いつつ王城に来てみると、今日はアリス様達が忙しかったのかルーファスが迎えに来てくれた。
「ありがと、ルーファス」
「まぁ少し驚いたがな。例の悩みとやらはもういいのか?」
「うん、とりあえずね」
「ならいいか。また今度みんなで集まれる時にでもお祝いはしような」
「それは嬉しいね、いつになるかわかんないけど」
「まぁ俺とレオの休み次第だろ。最近あまり被らないんだよなぁ…ユージェは国内周り中でも戻ってこれるし、ナタリーとニコラも領地にいるならユージェが連れてくればいいだけだが」
「そうだねぇ、休み決まったら教えてね」
「あぁ」
カツカツと靴音を響かせて、王城を進んでいく。
するとルーファスが少し止まり、考え事をするように指を顎に当てた。
「ルーファス?」
「…ユージェも、レオも、結婚か…」
「とりあえず婚約ね」
「…俺もそろそろ真面目に考えるべきかな…」
「お相手は?」
「…嫌われては、いないと思う。誘えばダンスも踊ってくれるし」
「とりあえずお食事でも誘ってみたら?」
「…そうだな、検討しておく」
少し宙を仰いだ後、ルーファスはまた歩き出した。
…ルーファスの相手って誰だろ。
フローネだといいなぁ、複雑な気持ちだけど。
…うーん、ルーファスが義理の弟…
どちらかと言えば、ルーファスって兄属性なんだよな…
弟属性はほぼない。
「…あれ、ユズキ、今日は何しとん?」
「あ、ロジェス」
思案していると、曲がり角でロジェスと出会った。
僕の顔を見て首を傾げた後、隣のルーファスを見てとてつもなく嫌そうな顔をしていた。
ん?なんで?
「…ご機嫌よう、ルーファス様」
「あぁ、ロジェス、昨日ぶりだな」
「え?そんなに仲良かったっけ?」
「…なんやここ最近、ルーファス様から謎の仕事振られたりしてん。なんやの…」
「ユージェから聞いた通り、ロジェスは優秀で使いやすいぞ」
「ユズキ、何言ったんや?!」
「使いやすいとは言ってないと思うんだけど…」
何か誤解が生じてるような。
そしてルーファスいい笑顔だ。
「俺とエドワーズ様、ロイヴィス様で手が足りない時に多少手伝って貰ってるんだよ」
「ロジェスに変な事させないでね?」
「ユージェが変な事やらかさなきゃな。ユージェの性格やらなんやらを知ってる奴にしか回せない仕事だと、必然的にロジェスに回る」
「…ぐぅ、それじゃ約束は出来ない」
「ユズキ…堪忍して…」
あぁ、ロジェスがぐったりしちゃった。
でも最近は大人しくしてるから持ち込んでないでしょ?!
「そうだ、ロジェス。近々荒れるかもしれないから、覚悟だけしておけよ?」
「ユズキ、何したんや!!」
「何もしてないからね?!なんで僕だって決め付けるの?!」
「勿論ユージェ関連だ」
「ほら」
「…ぐぅ」
「ユージェ、伝えてやらんのか?今なら誰も他にはいないぞ?」
…あぁ、そういう事か。
婚約関連で何かあったらロジェスが対応する事になるかもなのね…
すまん、ロジェス。
「…その目やめてや、その少し憐むようなやつ」
「先に謝っとくね、ごめん」
「やめて?!」
「実は婚約する事にしたんだ」
「…へ?」
さっきまで涙目で叫んでいたロジェスが、口をポカーンと開けて固まる。
どうやら思考回路が停止してるみたいだ。
「…それは…おめでとう…?」
「ん、ありがと」
「…愛し子様の婚約話なんて、全く回ってきてないで?」
「意図的に止めてるから。婚約申請が終わったら情報解禁だよ」
「…あぁ、成る程、そういう事…うん、まぁ、きっと忙しくなるかもしれんけど、そういう事ならしゃーないわ。お祝い代わりに恨み言言わんでおく」
「あはは、ありがとー」
「元月組でこの事知っとるのは?」
「まだロジェスだけだね」
「…そか」
ん?なんかあるのか?
思案顔になっちゃって。
「まぁええわ、引き止めて悪かったな。これから陛下んとこか?」
「うん、ベティ様にお呼び出し受けてるから」
「はは、頑張れよ。んじゃ、またな。ルーファス様も、また」
「あぁ、またな」
「またねー」
ルーファスに一礼した後、手をヒラヒラさせながら立ち去るロジェス。
…前にロジェスは貴族になるのが目標って言ってたけど、中々実現が早そうな気がする。
ルーファスが気に入ってるという事は、エドワーズ様もそうだろう。
兄様は言わずもがな、だって僕の兄様だし。
エドワーズ様は前に僕に対して臣下として扱うなら、それなりの爵位をくれると言っていた。
多分ロジェスもそういう感じになるな。
そしてその後ベティ様達のところへ行って、とてつもなく体力を消耗した。
何故かって?
ベティ様の質問がグイグイ来るからだよ…!!
最終的には一貫して「アー、ハイ、ソウデスネー」で流してたら怒られた。
そして詳しく話せと迫ってきたので、ならベティ様の馴れ初めとか陛下を好きになったタイミングとか詳しく教えてくれと言ったら一瞬で引き下がった。
どれだけ言いたくないの。
陛下なんて聞きたそうにウズウズしてたよ?
にしても疲れたぁ、着替えてベッドにダーイブっ!!
「ユージェ様、お行儀が悪いですよ」
「いいじゃん、僕とジーンしかいないんだから」
「この後はどうされますか?」
「なんかやる事あるっけ?」
「強いて言えば来週から出発予定ですし、ルートを決めるくらいでしょうか?」
「適当に…といきたいけど、こればっかりは爵位順かなぁ。近郊の公爵家から回って、最後が子爵、男爵になるように。まぁ大体が爵位順で王都から領地が振り分けられてるはずだから、王都を中心にぐるぐる回るように進めば問題はないかな。あ、ジーン、悪いんだけどどこの家とどこの家が対立してるとか、そういうの調べておいてくれる?」
「対立…ですか?」
「基本的にうちの国って貴族同士仲良いけど、時たま対立してるところがあるって今日聞いたんだよね、ルーファスから」
「あぁ、成る程…ちょうどいざこざ中にユージェ様がご訪問なされて、変に調子に乗って喧嘩が大きくなっては困る、と」
「つけ上がられても困るんだよね。そういうところはあえて避けて、最後の方で回ろうかと」
「対立してるから愛し子様も近寄ろうとはしない…なんて噂が流れた日には絶望的でしょうね」
「というわけで、そういう対立関係とか力関係とか、諸々調べといて貰えると助かる。じゃないと僕の察知スキルで適当に過ごす事になるから」
「承知致しました、確認しておきます」
「じゃあ僕は領地に行ってくるから」
「お供しますよ?」
「一応これからデートなんだよ」
「え?ナタリー様と?」
「ううん、ラウレアと。この前ラウレアに『でぇとして!』って言われたから」
「…まぁ、ラウレアちゃんは別枠ですもんね」
「僕もナタリーや家族以外とデートするつもりはなかったんだけど、どうしてもラウレアのお願いって断れなくて…やっぱ妹みたいな感じだからかな、それも平民の距離感の。昔を思い出すのかも」
「あぁ、フローネ様は実の妹君ですけど、やっぱりお嬢様ですから…昔は平民だったんですもんね」
「というより、こういう貴族階級はない国だったんだよ。国の代表とかはいるけど、それ以外は基本的に年上年下の上下関係はあってもみんな平等。同級生なら敬語とか絶対いらないし」
「うーん、みんな平民って感じなんですね。それなら俺はそっちの国でもやっていけそう」
「全然いけるね、なんせ僕が旅の途中で平民の中に混ざっても違和感なかったでしょ?」
「…えー、ユージェ様の場合は溢れ出る気品が貴族って感じで…所作とかも綺麗ですしね」
「それはこの見た目のせいだろうな…」
イケメン、恐るべし。
「ナタリー様にはキチンとご報告なさいましたか?」
「したした、寧ろ自分もいきたいってさ。小さい妹に憧れがあるみたい。今度フローネとルーナ義姉様と3人で出かけるんだって」
「仲がよろしくて何よりですね」
「なんならフローネ達に負けそうな気がする」
「あり得ますね」
「だよねぇ…」
歳の近い義姉と義妹と、歳の離れたぷにぷに妹分と楽しむナタリーが目に浮かぶ。
とりあえずご趣味の腐教を布教しなければいいなと思ってます。
ちなみにラウレアとのデートはただのおままごとだった事を、この時の僕はまだ知らない。
リクエストをいただきましたので、ただいま本編で飛ばした時系列などの番外編を作成中です!
社交界デビュー後から学院入学前までの話ですとか、陛下とベティ様の過去とか、順番はバラバラです。
こっちは書け次第なので不定期です。
でもその前に時系列整理したい…
なので来週は1週間更新お休みをいただきます!
本編更新は6/15からになります!
時系列整理が終われば前倒しで更新するかもですが…
すみません、よろしくお願いします!