浮かれた男とは
祝!ナタリーと両想い!!
いえーい!みんなありがとー!!
…みんなって誰だ?
「ユージェ君?」
「ごめんごめん、なんでもないよ」
いかんいかん、僕ちょっと浮かれてるな。
心につっかえていた不安をナタリーが共有してくれた事に浮き足立ってるみたい。
ナタリーの事が他の人と違う気持ちで見たのは、多分初対面の時から。
作られた笑顔が気になって、めちゃくちゃ視線外してる時に見つめられて。
いやまぁ理由が理由だったけどさ。
今思えば、ナタリーは最初から僕が愛し子だと知っていても擦り寄らず、自分の欲に忠実だったというか。
それからはずっと1番近い友達として過ごしてきたけど、無意識にでも意識したのはあの婚約騒動の時。
その前のレオとの婚約話はお互いの反応からかそんなに気にならなかったけど、ヴァイリー王国の侯爵子息の時は違う気持ちが湧いた。
今思えば嫉妬だったんじゃ?
恋人のフリとかしなくても良かったよね…
でも僕は恋愛感情について上手く判断出来なくて。
ただ仲の良いナタリーが困ってるからこうしたんだと、自己完結した。
んな馬鹿な、完璧な嫉妬でしょ。
悪いけど、多分ニコラがその立場だったとしても、あんな対応はしなかったよ。
「ユージェ君、この後どうします?」
「あぁ、街の方に寄ってみない?この辺りは海の恩恵で珊瑚の装飾品が有名なんだって」
「まぁ、珊瑚は初めてです。是非行きましょう」
ちょっと離れ難かったけど、抱き締めていたのを離す。
あ、そうだった。
ナタリーの指に巻いていたリボンを外して、それを編み込んでいた髪に結びつける。
うん、中々似合う!
僕は満足して、ナタリーの手を握った。
所謂恋人繋ぎってやつだね。
あーあ、そんなに真っ赤にしちゃって…
「照れてる?」
「聞かないで下さいまし…」
「ナタリー、可愛い♡」
「いつか痛い目に遭いますわよ?!」
「えー?自分の恋人を褒めてるだけなのにー?」
「こ、こい…」
「あ、婚約者か」
「…ま、間違えないで下さいまし!!」
「どっちもなんだけどね」
「は、早く行きますよ!!」
あはは、さっきよりも真っ赤。
帰りにスタンリッジ伯に婚約を申し込んだ事言わないとなぁ。
…倒れちゃいそうな気もするけど。
森から抜けて、近くの街へと向かう。
手を繋ぎながら旅の途中であった出来事を話したりして、案外すぐに辿り着いた。
中々賑わっていて、お店も沢山あるなぁ。
「ナタリー、お腹は空いてない?」
「まだ大丈夫です」
「じゃあ、とりあえずフラフラしてみようか。疲れたり足が痛くなったら言ってね、休憩しつつ治すからさ」
「えぇ、ありがとう」
「お、中々の美男美女じゃねぇか!どうだい、兄さん、彼女に珊瑚のプレゼントなんて!」
「彼女…」
「そうだねぇ、何か彼女に似合いそうなものあるかな?」
「そうさねぇ、これとかこれなんてどうだい?」
突然声をかけてきた露店のおっちゃんは、様々な品物の中から薄いピンク色で薔薇の形をした珊瑚の付いたバレッタと、真っ赤な薔薇の形をした珊瑚の付いたカチューシャを差し出してきた。
うーん、どっちも綺麗!
珊瑚の装飾品ってこの世界で初めて見たけど、こんなに綺麗なんだねぇ。
「まぁ、綺麗…」
「気に入った?」
「あ、でも、その…」
「どうかした?」
「…綺麗、ですけど…このリボンとはちょっと合わないかな、と…」
手を繋いでいない右手でリボンをくりくりと弄るナタリー。
…って事は、これからこのリボン愛用してくれるって事かな…
ふふふ、嬉しい…
「あー、それ兄さんからのプレゼントか!確かにその水色とはちょっと合わねぇな…なら、これはどうだい?」
そして改めて差し出してきたのは、白い薔薇の形をした珊瑚と小さなビーズがキラキラと輝くヘアピンだった。
「リボンがあるならバレッタとかなんかよりも、小さい髪留めの方がいいだろ」
「それ、ちょっといい?」
「おう、付けてやんな」
おっちゃんからヘアピンを受け取って、ナタリーの髪に付ける。
…うん、めっちゃ似合う!
「似合うよ、ナタリー」
「そ、そうですか…?」
「今日の記念に買ってもいいかな?付けてくれる?」
「い、いいんですの…?」
「勿論」
「っかぁ、兄ちゃん男前だねぇ!なんだいなんだい、熱々じゃねぇか!」
「ふふ、さっき告白して受けてもらったばかりだから、浮き足立ってるんだ」
「マジかよ!そりゃめでてぇな!んじゃあ、しょうがねぇなぁ…ちぃっとばかし、負けてやんよ。ちゃんと幸せにしろよー?」
「そんなの当たり前だよ」
「うわぁ、美男子がそれ言うとイラッとするなぁ!」
なんかおっちゃんが地団駄踏んでる。
そしてナタリーはやっぱり真っ赤。
「にしても、薔薇のモチーフが多いね?」
「あぁ、前の愛し子様のローレンス=ウルファイス様が妻のイレイザ様へ結婚を申し込んだ時に珊瑚で薔薇を大量に作って贈った事から、この領地の珊瑚細工は薔薇モチーフが主流なんだよ」
なんと、ローレンス様、すげぇ事したのね。
珊瑚の薔薇の花束…綺麗だろうなぁ。
僕も今度自分で作ってナタリーに贈ってみようかな?
「いりませんよ?」
「…ナタリー、心読んだ?」
「顔に出てます」
「うっそぉ」
「そんな仰々しいもの、いりませんからね?」
「綺麗だと思うんだけど…」
「…ユージェ君には、色々貰ってますもの。これ以上凄いものを貰ったら、押し潰されそうです」
「何に?」
「…ユージェ君の愛に?」
「なんだそりゃ、ナタリーが潰れる前に抱き抱えるから大丈夫だよ」
「意味がわかりませんわ」
うん、僕もよくわかってない、あはは。
「なんだなんだ、どんだけ兄さんは彼女の事好きなんだよ。砂糖吐きそうだぜ…おっちゃんからの忠告だ。あんまりデロデロに甘やかし過ぎたり、所有物扱いしたりすると、彼女に逃げられちまうぞ?」
「そんな事してないと思うんだけど…」
「無意識かよ…タチ悪ぃな」
「そうなんです、タチ悪いんです…」
ちょっと待て、なんで2人してため息なんてついてるのさ。
「じゃあ忠告を変えてやろう。彼女の立場になって考えてみろよ?男にゃわからんだろうが、女心ってのは気難しいぞ?距離感ってのは大事だからな」
失礼な、元女なんだから女心くらいわかるわ!
僕がもしナタリーなら僕の行動を…
ナタリー、なら…?
僕の…行動…
…うわ、僕ちょっとウザくね…?
確かに僕の想いを受け入れてくれて、側にいてくれるって言ってもらえたけどさ。
浮かれて、ちょっと余裕ぶってて、ナタリーを揶揄って…
待って待って、かなりイラッとする?!
元々僕って私の時、確かサバサバ系だったじゃん?!
いや、覚えてないけど、あんまりデロッデロの王道ラブストーリーとか苦手だった気がする!!
「…僕、ウザい…?」
「うざ…?」
「めんどくさい…?」
「いえ、別にめんどくさいとかそういうんじゃ…」
「…気をつけます…」
「えっと、あの…」
「なんか急にしおらしくなったな。買うのもやめるか?」
「それは買う、ナタリーに似合ってるから」
「まいどありぃ」
「ユージェ君ってば…」
それはそれ、これはこれです。
呆れた表情されたけど、本気で嫌がられてないのはわかるから、ちゃんと相手を考えて行動しようと思います。
…出来るだけ…
自重、大事。