失恋と初恋
ちょっと遅くなりました!
数日後にまたお店へ行くと、首を絞められそうな勢いで2人に掴みかかられた。
というか半分くらい絞まってた。
どうやら効果を実感してくれた模様。
そしてなんと、常連のお姉さんが2人の肌を見て何事かと問い詰めてきたそうだ。
「その子達、酒場で働いてるんだけど、やっぱり美に敏感でねぇ」
「元々意見交換する間柄なんだけど、聞いてない!って怒られちゃったわ」
「だから近々委託で販売予定する製品のテストしてるのよって話したら、絶対買うって意気込んでたわよ」
「勿論留め置きも贔屓もしないから、頑張って頂戴って伝えておいたの」
「成る程、夜のお姉様達にも喉から手が出る程欲しいと…」
「ほんっとうに凄いものだわ…これ…」
「手放せなくなっちゃったわね…これ…」
「お値段決めていただけました?」
「正直、迷ったけどね。これ、セットで金貨50枚でもいいくらいよ…?」
…きんかごじゅうまい…?
え、100万?!
「高過ぎません…?お姉様方買えませんよ…」
「そうなのよね…でも適正価格だと思えちゃうわよ…なんなら貴族は金貨50枚、平民は金貨25枚とか、差を付けるべきかしら?」
「差はやめておきましょう、争い事にはしたくないので。というか高過ぎて僕の良心が痛む」
「じゃあユズちゃんはいくらくらいのつもりだったの?」
「…高くても金貨5枚、とか…」
「「安過ぎるわ?!?!」」
そうかなぁ、美顔器10万とか妥当だと思うんだけど…
なんならぼったくり感がある。
「せめて!せめて金貨10枚にしましょう?!」
「それで専用水の詰め替えが金貨4〜5枚とか!!あれ単体で肌に塗っても効果を感じられたくらいなんだから!!」
「…売れますかね?」
「「絶対売れるから!!なんなら売るから!!」」
「いや、態々売らなくても…」
「はい、決定!美顔器セットが金貨10枚、専用水の詰め替えが金貨4枚ね!決定決定けってぇーい!!!」
…ティッキーさんに押し通されてしまった。
むぅ。
「なら取り分は半分ずつですよ」
「そんなにいらないわよ?!」
「なんならこの前貰ったやつとこれからの専用水代もあるんだし?!」
「そんなんいいです、お2人にはタダで。きっと応対とか大変になるでしょうし、気にしないで下さい」
「そ、そうなのぉ…?」
「本当の本当に、受け取っちゃうわよぉ…?」
「どうぞ。なのでこれからよろしくお願いしますね。とりあえず今月分5セット置いてきますから、進捗あったら『レター』でも下さい、急ぎませんので」
「わかったわ、よろしくね、ユズちゃん」
「頑張るわね!」
気合十分なご様子。
そこまで気張らなくてもいいんだけどね。
「ユズちゃん、今日はお暇なの?何かしていく?」
「あ、この後王城でエドワーズ様やメグ様とお茶会なので帰ります」
「…今すんごい名前が出てきたわね」
「場所もおかしいわよ」
「そうですか?従兄弟だしよく行きますけど」
「「本当に愛し子様なのねぇ…」」
そんな同じポーズでしみじみ言わなくても…
お店から帰宅して、服装を新たにジーンを連れて王城に向かう。
メグ様から招待状届いたんだよね、メンバーはエドワーズ様、ルーファス、レオの王城在籍メンバー。
メグ様からの手紙曰く、2人きりにしようとしたら帰ってきたばかりのエドワーズ様から待ったがかけられたらしい。
未婚で、しかも婚約者もいない成人の男女が2人で茶会なぞするか!と。
なので一見すると、メグ様の婚約者探しの茶会のような状態になってしまった。
まぁそんな変な勘繰りするような人は殆どいないと思うけど。
今日の服装はいつも通りです、リリーもいないし。
「ユージェ!いらっしゃいなのじゃ!」
「ご機嫌よう、メグ様。本日はお誘いありがとうございます」
「ユージェリス、久しいな」
「エドワーズ様もご健勝のご様子、何よりです」
「お帰り、ユージェ」
「お帰りぃ」
「改めてただいま、ルーファス、レオ」
席について紅茶を楽しむ。
王城の紅茶って美味しいよなぁ。
あ、てか給仕がアリス嬢とシンディ、ドロシー姉妹じゃん。
取り計らってもらった感じかな?
小さく手を振ると軽く微笑まれた。
職務中だもんね、王族もいるし。
「ユージェリスも帰ってきた事だし、暫くは面白い事もなさそうだな。他国でやらかして来た件は中々面白かったが」
「酷いですね、エドワーズ様」
「でもそうでもないんじゃないですかぁ?これから国内周遊して、ユージェなら絶対また何か見つけてきますよぉ」
「だろうな。変な不正とか見つけたらさっさと連絡しろよ?潰し甲斐があるな」
「ルーファス、そんなに好戦的だったっけ…?」
宰相様が僕に影響されたとか言ってたけど、まさかこういうところ…?
いや、僕平和主義者だよ?!
え、平和主義者だよね?!
「んもぅ、兄上達、ちょっと黙るのじゃ!仕事の話なぞされても理解出来ぬわ!」
「どこかへ降嫁するまではお前も王族の一員として把握しておけ。というかあれだけユージェリスと結婚するだのほざいてるくらいなんだったら、コイツがやってる事をちゃんと理解してろ」
「ぐぬぬぬぬ…!」
「まぁまぁ、今日はマーガレット王女様の主催なんですし、譲ってあげましょうよぉ」
「ふん、まぁ仕方がないな」
「レオナルド、ナイスじゃ!のぅユージェ、先日母上に渡していた物はなんじゃ?すっごい喜んでおったぞ!」
「あぁ、そう言えば何か届いていたな」
「そこは企業秘密です。ちゃんと陛下と宰相様、ベティ様、父様には報告済で許可貰ってますから」
「俺達には言ってくれないのか?」
「エドワーズ様とルーファスは後で説明あると思うから、その時聞いてよ」
「わかった、そうしよう」
「えー?僕はぁー?」
「調べればすぐわかるでしょ」
「はぁーい」
「ユージェ!妾は?!」
「後10年くらいしたら同じ物をプレゼントしますよ。今のお美しいメグ様には不要な物です」
まだまだぴっちぴちの10代だしねぇ。
美顔器とかいらないでしょ。
「う、美しい…?ユージェが妾を美しいと…」
「社交辞令だぞ」
「兄上煩い!!」
「ユージェ、そういうのやめるんじゃなかったのか?」
「簡単には抜けなくてね…気をつけてはいるんだけど…」
「何何ぃ?ユージェってば、女の子に甘いのやめるのぉ?」
「まぁね、あんまりそういう事ばっかりやってると本命に気付いて貰えなくなるってナタリーに言われた事もあるしさ」
「「そうだな」」「そうだねぇ」
なんだよ、みんなして…
メグ様は少し不満そうな顔をして、僕の服の裾を引っ張る。
「ユージェ…本命が出来たのか?」
「あー、えぇ、まぁ」
「妾の…知ってる者か?」
「そうですね、ご存知ですよ」
「…そうか、良かったな…」
おや、駄々捏ねられるかと思った。
そんな切なそうな顔されると、ちょっと辛いんですけどね。
「ユージェ」
「はい、なんでしょう、メグ様」
「今から妾はお主に告白する」
「「「「はい?」」」」
メグ様の謎の宣言に、男子4人で首を傾げる。
告白って、良くされてた気がしなくもないんだけど…
「妾を王女としてではなく、1人の女として見るのじゃ。敬語も不要、きちんと返事をせい!」
「は、はい…?」
よくわからないうちに取り仕切られた。
腕を掴まれて席を立つと、そのまま引っ張られて庭園の一角まで連れて来られる。
サレスの花よりも濃い青色が映えるコバルトの花が風に揺れ、まるで2人しかいないような空間となった。
「…ユージェリス、私は、貴方が好き」
「…っ!」
真っ直ぐな目、意志の強い瞳。
急にメグ様が別人の女性のように感じられた。
あの口調は所謂、王族としてのメグ様なんだろう。
1人の女性としては、マーガレットとしては…こうも凛としてるものか。
メグ様だって王女に相応しい凛とした佇まいでもあった。
でも、なんていうか…それとは違う、何かが感じられる。
あぁ、女の人って凄いなぁ…
私もこんなに強かったのだろうか。
いつも適当に遇らってしまっていたけど、きちんと応対しなくちゃいけない。
「ありがとう、マーガレット。僕も君が好きだよ。でもそれは、多分家族としてなんだ」
「…うん」
「ごめんね」
「…いいのじゃ!あーあ、振られてすっきりしたのぅ!!」
くぅー!っと体を伸ばしながら大きな声で笑うメグ様。
でもね、メグ様、僕はまだ伝えなきゃいけない事があるんだ。
「マーガレット」
「っ、なんじゃ?」
「好きだと言ってくれて、嬉しかったよ」
「…そうか」
「君の好意が、嫌いだったわけじゃないんだ」
「…そう、か」
「何せ、君は唯一の…」
「唯一の…?」
「僕に告白してくれた、唯一の女の子だったからね」
「…え、告白された事ないのか?1度も?」
「実はないんですよね、告白された事。この前の王女様とか、そういう自己評価高い系の上から目線なら微妙にありますけど、僕が好きだって言ってくれたのは、メグ様だけですよ」
「…ふふん、そうか、そうか。なら、妾がユージェにとっての初めての女という事じゃな!」
「言い方に語弊が」
「全く、お前達は何をしてるんだか」
「エドワーズ様」
突然声が聞こえて、植木の影から出てきたのはエドワーズ様達だった。
少し呆れた顔をしている。
「せめて話が聞こえないように魔法を使ってから話さないか。聞かれていい内容ではないだろう」
「…しまった」
「安心しろ、俺達で周りに『サイレント』かけておいたからな」
「流石にねぇ」
「ありがとうございます!」
危ねぇ、メグ様が振られたとか、変な噂が立つところだった!
マジで感謝…!!
「あーあ、振られてしまったのぅ。そろそろ真面目に結婚相手を考えねばなぁ。どうじゃ、ルーファス、レオナルド、妾は相手として不足か?」
ニヤニヤしながら2人に問いかけるメグ様。
これは態とだな。
「あー…大変光栄なのですが、ちょっと、その…気になる人が、いますので…」
「ほう?!なら仕方がないな?!一体誰なんだろうなぁ?!」
「…禁則事項です」
「なんじゃそれは」
「ユージェが前に言ってたので」
意外と使い方と意味合いは合ってる。
「つまらんのぅ…ならレオナルドはどうじゃ?」
「すみません、絶賛アプローチ中でそろそろ落とせそうなのでぇ、大丈夫でーす」
「「は?」」
ルーファスとハモった。
え、聞いてませんけど?
「え、待って、誰?誰なの?」
「聞いてないぞ?おい、レオ?」
「えー?だって言ってないもぉん」
くっそ、胡散臭い笑顔しやがって!
ふっ、と目線を外したのを見逃さなかった僕とルーファスは、その視線の先を追ってみると…
「「マジか…」」
そこにいたのは、離れたところから愛おしそうにレオを見つめていたシンディだった。
「本当にレオでいいのか、シンディ…」
「無理だルーファス、あの目はもう完璧な恋する乙女だ…」
「なんだよぅ、祝福してくれないのぉ?」
「「ちゃんとお前がシンディを大切に出来そうならな」」
「あはは、するに決まってるじゃぁーん。僕、意外と一途よぉ?」
「「…え、いつから?」」
「んー、社交界デビューの時から可愛いなぁって思ってたぁ」
「「怖っ」」
え、全く気付かなかったんですけど?
どれだけ猫被るの上手いの?
レオ、怖っ。
レオはシンディの顔が好みだった模様。
一時期はナタリーと婚約しそうだったのでずっと黙ってました。