ユージェとジーン
ちゃんと夕方更新です!
明日は昼頃に出来るといいなぁ…
夕方になって城に戻り、虎徹さんと華さんと4人でお好み焼きパーティーをした。
正直言って、くっそ楽しかった。
やばいね、醤油と味噌の味だけ恋焦がれてたはずなのに、気付けばソースの魅力に取り憑かれてたわ。
あの匂い反則でしょぉ…めちゃくちゃ美味かったわ。
お腹いっぱい胸いっぱいで、幸せ気分で客間の布団に転がってます。
というか畳に布団ってのがまた!
イグサの匂い、落ち着くわぁ…
「ユージェ様」
「なーあーにー?」
「お聞きしてもいいですか?」
「なーあーにー?」
「…ハナさん達とユージェ様の、秘密について」
ぐでぐでゴロゴロしていたのをピタリとやめて、布団の上に座り直す。
真っ直ぐ見据えたジーンの瞳は真剣そのものだった。
「…ハナさんは、余計な詮索をするなと言っていましたが…あまりに、俺が意味もわからず部外者過ぎて。わからない単語や不思議な会話に、正直…寂しいんです」
「あー…うん、そうだよねぇ…そっか、ジーンにも言わなきゃいけないかぁ…」
「本当に聞いちゃいけない事なら、今まで通り会話に入らず意味も考えないようにします」
「いや、それが出来なくなったから僕に聞いてるんでしょ?疎外感ってやつかな。まぁ、全部は言わないけど…誰にも話さないって、誓える?」
「精霊様とユージェ様にお誓い致します」
「んー…まず、前提として、この事実を知ってるのはうちの国では陛下、ベティ様、エドワーズ様、ジェイク様、父様だけだと認識して欲しい」
「…他のご家族やご友人の方々は知らないのですか?」
「この件については今後、陛下と王妃様、宰相様のみ口頭で受け継がれていく内容になる。次期宰相であるルーファスもいずれ知る事になるかな?そのメンバーから今後の愛し子達は伝え聞く事になるね。その他は愛し子が認めた人しか知る事はない。今回エドワーズ様と父様が知ってるのは、精霊リリエンハイドから聞いた場にいたから。だからジーンはこの話を、今は陛下とベティ様とジェイク様と父様以外とはしてはいけないよ」
「は、はい!」
「まぁジーンには細かい話はやめておいて、重要な根本だけ話そう。僕やベティ様…歴代の愛し子と、この国の一部の人は、別の世界で生きていた記憶を持っているんだ」
「別の…世界?」
「元々僕もベティ様も、虎徹さんや華さんも、ある世界のある国に住んでいた。その世界で魔法は空想のもので、存在しないんだ。でも精霊曰く魔力は漂ってるらしくてね。余ってる魔力をそこで死んだ人の魂を器にして入れて、こっちの世界に運んでるんだって。運び終わった魂は余っちゃうから、魂のない体に入れられる。そうして誕生するのが、うちの国で言う愛し子なんだよ。この国ではお腹の中に子が宿った時に上手く混ぜられるみたいだけど」
「…え、待って下さい。じゃあ、ユージェ様は魂が別の世界の人って事ですか?元々ユージェ様の体にあった魂は…」
「この世に生まれた瞬間から存在していた『ユージェリス=アイゼンファルド』は、実はとっくのとうにこの世に存在してなかったんだよ。まぁジーンと出会った時には今の僕だったけどね」
「…これを、旦那様はご存知なんですか…」
「その場にいたからねぇ…ショックは受けてたけど、今の僕を受け入れてくれて本当に感謝してるよ。それと多分だけど…母様も薄々気付いてると思うな。僕から言う事はないだろうけど」
「奥様も…」
「実の親って鋭いよねぇ…」
もし泣きながら責められでもしたら、僕はあの国にはいられないだろう。
「でまぁ、話を戻すけどさ。僕が色んな力とか持ってるのは、精霊リリエンハイドからのお詫びの印なんだよ。勝手に器にしてごめんってね。さっき華さん達が言ってた特殊な力ってのがこの国の精霊ジャルネからのお詫びみたいだ」
「…ある意味、『精霊の愛し子』って言葉は当たらずとも遠からずって事なんですね…」
「まぁ、精霊が目を掛けてる子ってのは合ってるね。今までの愛し子達は意味を知らずにいたんだけども。この前リリエンハイドに会って事実を聞いてわかった事だから」
「…なんか、色々と合点がいきました。衝撃的でもありますが…」
「僕ねぇ、前世は27歳で死んだの。だから気持ちで言えばジーンよりも年上なんだよ?」
「だからあんなにおちょくったりしてたのか…」
「まぁ体の年齢に気持ちが引っ張られる事もあるから、完全に大人とは言えないけどね」
「この国の食べ物に関心を持っていたのは…」
「あれは僕の前世の世界の食べ物なんだよ。夕飯のお好み焼きもそう。『領域の料理』はその世界の料理の事なんだ。僕が今まで作ってきたものはみんなそうだよ」
「…めちゃくちゃ質の高い料理の世界だったんですね…」
「あんなん家庭料理の域なんだけどねぇ。この世界の料理はなんともまぁギリギリのレベルなんだよ…ベティ様は僕が現れるまで良く耐えたもんだ。この旅が国の許可を得てるのは、ベティ様が陛下にお願いしたからってのもあるんだよ」
「あぁ…成る程、そういう裏事情があったんですね…」
「帰ったらベティ様に今日のお昼みたいな日本食のフルコース作るんだぁ。ふふふ、明日黒鉄さんに色々レシピ聞いておこっと」
「…気になった事があるんですけど、もう1ついいですか?」
「ん?なぁに?」
「あのお店の棒…ハシ、でしたっけ?あれが入ってた紙の袋、魔法印書いてありましたよね?」
…やだ、ジーンが目敏い。
確かに『御手元』と書いてあった。
でもあれは魔法印じゃなくて、ただの漢字なんだよね。
この国でも看板の文字はこの世界のものだった。
多分漢字を覚えて他国に行かれたら拙いからだと思う。
でもあの店の箸袋は多分模様のつもりでスキルとか使わずに入れてたんだろうなぁ。
確かこの事実は陛下達にも言った記憶がない…
聞かれたら答えるけどさ、それよりも先にジーンが気付いちゃったよ。
「あれは日本語っていう前世の世界の言葉なんだ、僕達が生きていた国独特のね。魔法印ってのは愛し子か、この国に転生した人間とかが広めたんじゃないかな。未だに解読されてないのは、物凄い数の種類があるからだね」
「あぁ、やっぱり言葉なんですね…学院時代、同級生が魔法印の研究をテーマにレポート書いてましたけど、精霊界の言語説を推してましたよ。強ち外れてはいなかったんですね」
「まぁね。でもそれだけは教えないよ、悪用されるわけにはいかないからね。だから他言無用で」
「それは勿論です」
「さて、とりあえず理解は出来たかな?」
「はい、言葉の意味はわからずとも、そういう事なんだと納得出来ます。ありがとうございました」
「ん。なら、そろそろ寝よっか!おやすみー」
「おやすみなさいませ」
灯りを消して、布団に入り込む。
久々の布団と、イグサの匂い、それから薄めの寝巻き用の浴衣は心地良かった。
安心感からか、夢の中へ落ちていくのは早かったと思う。
「…ありがとうございます、ユージェ様」
夢と現実の狭間で薄らと聞こえた声は、誰の声だったのか。
考える事もなく、そのまま意識は落ちていった。
翌朝、今までにないすっきりとした目覚めに、寝たままのジーンを置いて城の中庭へ散歩に向かう。
朝露に濡れた紫陽花の花が咲き乱れる中庭は綺麗だった。
「あら、ユージェ、お目覚め?おはよう」
「華さん、おはよう。何してるの?」
「朝の習慣なのよ、素振り。昔は剣道をやっていたの」
そういう華さんの手元には木刀が握られていた。
うーん、凛とした感じの華さんに良く似合う。
「ユージェもやる?素振り」
「いや、遠慮しておくよ。そうだ、華さんにもこれあげる」
指を鳴らしてアイテムボックスから美顔器と化粧水を取り出す。
その瞬間、キラキラと目を輝かせて駆け寄ってきた。
「これ!いいの?!」
「泊めてもらったお礼というか、世話してもらったお礼って事で。虎徹さんには何がいいかな?」
「あの人、お酒大好きよ。他国のお酒なんか持ってるならあげるといいわ」
「あるある、寄った国のお酒は少しずつ買ってるんだ。じゃあ何種類か献上しよう」
「そうしてあげて、喜ぶわよ。うふふ、私もうれしーい!」
くるくると美顔器達を抱き締めながら回る華さん。
喜んでもらえて何よりだよ。
そのまま虎徹さんを探しに城の中に戻る。
何人か護衛の人らしき人と挨拶を交わしながら、昨日の奥の間まで来た。
「虎徹さん、いますか?」
「おう、いるぞ、入れや」
「失礼します」
襖を開けて入ると、昨日と同じ場所で本を読んでいる虎徹さんの姿があった。
「昨晩もお世話になりました。これ、良かったらご賞味下さい」
そういって5本のお酒を差し出す。
ビールとかウィスキーとか、そういう奴だね。
その瞬間、本から目を上に持ち上げて目を輝かせる虎徹さん。
「そ、それは…まさか、酒か?」
「えぇ、華さんから虎徹さんはお酒がお好きだと」
「おぉ、すっげぇ好き!いいのか?!」
「お世話になりましたし、今後もお世話になりますから」
「そうか、悪いな!くふふ、朝から飲んじゃおっかなぁ」
「程々にして下さいね」
「おう!お前達、今日もう出るのか?」
「島を見学したら帰ります。待ってる人達がいるので」
「そうか、気をつけてな。あ、そうだ、柚月」
「はい?」
「お前さんは特殊な生き方をしてきたんだろう、性別の差は大きい。どうやらもうとっくにそこにはケリをつけてるみたいだがな。それでも、辛くなったらいつでも遊びに来い。ここではどっちで過ごして生きてもいいからな」
「…ありがとうございます。でも、僕は男ですから、問題ないですよ」
「そうか、なら次来た時には猥談でも付き合ってもらうかな?」
「それは勘弁、元々得意じゃないんで」
「つまらん奴だな、ははっ」
ひらひらと手を振って僕を部屋から追い出す虎徹さん。
彼とこの世界に来たばかりの頃に会っていたら、僕はこの国で女として生きていた気がする。
タイミングって大事だねぇ。
部屋から出てジーンの元へ戻ると、既に起きていたジーンがいつもな狩人の格好に着替えて立っていた。
「おはよ、ジーン」
「おはようございます、ユージェ様。どちらへ?」
「散歩だよ、僕も着替えるかな」
指を鳴らせば一発で着替えの完成です。
魔法って便利ね。
暫くして華さんが朝ご飯を持ってきてくれた。
昨日のお昼みたいなラインナップだけど、全然オッケーです。
というかマジ美味すぎ。
食べ終わったらまた華さんに案内してもらいながら島を改めて回る。
滝があったり神社があったり、所々日本を感じさせるものが多かった。
「はーなぁー!!」
「みぃーつけたぁー!!」
「あ、ついに来たわね、あの2人」
「誰?」
「牡丹と葉桜よ。歳は12、おませなお年頃」
「実年齢で言えばそんな事ないでしょ」
「いやぁ、元は大学生だったらしくて、今もノリが軽いのよ。ついていけないわ」
華さん、何歳だったの…?
発言がおばさんくさい。
僕よりも歳上だったのかな?
「きゃぁ!こっちのお兄さんもカッコいい!」
「本当だぁ!でもあたしはやっぱりこっちね!」
そう言いながら、ツインテールの女の子は僕の腕に、ショートカットの女の子はジーンの腕にしがみ付いた。
ジーンは目に見えて狼狽てる。
「お兄さん、お名前は?」
「ユージェだよ、ユージェリス=アイゼンファルド」
「ユージェ!カッコいいわね!あたし牡丹!」
「お兄さんは?」
「…ジーン」
「ジーン!素敵ぃ!あたしは葉桜!」
より一層抱き付く力が強くなる。
でもあれだね、流石12歳、まだまだ真っ平です。
「2人とも、やめなさい!もうユージェ達は帰るのよ!」
「えぇ?!うっそ、早くない?!もうちょっといようよぉ!」
「デートしよ、デート!」
「あっちに夕日が綺麗な浜辺があるのよ!」
「向こうには蓮花畑があるんだから!」
「えーっと…ごめんね、僕、好きな子以外とはデートしないって決めてるんだ」
「えぇ?!でも今その人ここにいないんでしょ?デートしたってバレないじゃない!」
「ジーンは?彼女いるの?」
「…彼女はいない、が、気になる人がいるから、俺もデートはしない」
「「えぇー?!つまんなぁーい!!」」
「牡丹!葉桜!いい加減にしないと十六夜に告げ口するわよ!」
「「それはかんべーん!!きゃぁー!!」」
勢い良く離れて走り去っていく2人。
一体なんなんだ、台風みたいな2人だったな。
「ごめんねぇ、姦しくって」
「十六夜さん、どうしたの?」
「…十六夜が焔と結婚する前に、あの2人が焔にちょっかい出してたのよ。それでまぁ、十六夜の逆鱗に触れてね…ふふふ…」
「「あー…」」
それはもうダメでしょ、死亡フラグじゃん。