美少女の懇願
お酒の一気飲みはダメ、絶対。
数年ぶりの再会を果たした次の日、いつも通りの格好で僕達は宿を後にした。
唯一違うのは僕の髪が長くなったままな事かな?
あ、ちなみに昨夜はかなりナンパされたりお誘いされたりしました。
勿論全てお断りしたけど、僕のリボンを見て諦めてくれたのは半分くらい。
残りの半分はそれでもお構いなしなグイグイお姉さんと、酔っぱらったおじさん達。
お姉さんはジーンがバッサリ断って、おじさん達は僕が沈めてからお断りしといた。
ん?何したかって?
断っても断っても『飲もうぜぇ?』みたいなめんどくさい絡みのおじさんには、めちゃくちゃ度数の高いお酒一気勝負して潰したり。
あ、ちゃんと回復もしてあげたよ?
一気はダメ、絶対!だからね。
そしてお酒による体への害を説明というか語っておいた。
最終的には土下座で謝られたね。
あと『よぉ、色男に優男、顔が気に食わないから飲めや』みたいな感じで絡んできて、顔にナイフ突き付けてきたおっさんは物理的に沈めて警備隊に突き出しておいた。
僕達の力をみくびっちゃいけないなぁ。
「昼間でも賑わってるな」
「そうだね、昼間は普通のお祭りっぽいや。適当に食料買い足して、それから出ようか」
「あぁ、ユズキの料理も美味いけど、しょっちゅう作るわけにもいかないからな。簡単に食えるものにしよう」
宿の厨房が借りれる時は適当に作ってアイテムボックスにしまっておくけど、昨日は忙しそうだったからやめたんだよね。
というわけで適当に屋台で買って路地裏でそっとしまう、を繰り返す事数回。
まぁ大体こんなもんでいいかな?
「あ、あのっ…!!」
「「ん?」」
振り返ると、そこに立っていたのは同い年くらいの女の子だった。
ふわふわ薄い栗色の髪を2つに結って、息を切らしている。
息を整えたのか顔を上げて、僕達はびっくりした。
うわぁお、中々の美少女!
瞳は薄い紫色で、全体的に色素が薄いな!
え、これ、絶対貴族令嬢でしょ。
「えっと…何か用ですか?」
ジーンが恐る恐る美少女さんに問いかける。
こういう時、僕は黙ってるに限るな。
「あ、あの!お2人は狩人さんですか?!」
「あぁ、そうだけど…」
「い、依頼を受けていただく事は可能でしょうか?!」
「いや、これからもう出発するところだから…」
「全然大丈夫です!寧ろ好都合なので!」
…僕とジーンの頭の中はハテナでいっぱいです。
でもなんかこう、気の強い令嬢っていうよりかは、切羽詰まった大人しい子って感じなんだよな。
嫌な感じもしないし…
ただただ助けてほしいって雰囲気がよく伝わってくる。
とりあえず僕も話に加わるか。
「…ちなみに、先に依頼内容を聞いてもいいかな?内容によっては受けられるけど、僕達も急いでるんだ」
「あ、そ、そうですよね…えっと、実は…わ、私を、隣のサウジハンス大国へ連れて行ってほしいのです!」
…奇しくも次の国はサウジハンス大国の予定だけどもさ。
「理由はお聞きしても?」
「…あの国には、その、親族がいるのです…そこへ、行きたくて…」
しどろもどろと目線を逸らしながら言う美少女さん。
うーん、嘘っぽい。
「貴女の親御さんは?成人したかしてないかギリギリの年齢ですよね?そんな女性を勝手に連れ出すわけにはいかないのですが…」
「…そ、それは…」
「お嬢様ぁー!!!お嬢様ぁー?!?!」
「っ!!あの、その…!!」
大通りの方から聞こえた声に反応する美少女さん。
お嬢様、ねぇ…?
とりあえず、手持ちの魔道具で姿を変えてもらうか。
鞄経由でアイテムボックスから認識阻害の大きめストールを取り出して美少女さんに被せる。
これで服装も半分は隠せるしね。
混乱している美少女さんをジーンの後ろに追いやって、現れた大男と対峙した。
「…すまんが、このくらいの背の女性を見ていないか。薄い栗色の髪の子なんだが」
「どうかな、ジーン、見てた?」
「いや、特に女性を注視してたわけでもないからなぁ…」
「…その、後ろの子は?」
「連れのいい人だよ、別れの挨拶に来たんだ。これから僕達、また旅に出るからねぇ」
「…そうか、武運を祈る」
「ありがとう。貴方もその人が見つかるといいね」
頭を下げてから走って立ち去る大男。
なんというか、心配して探してる感じはあったけど、美少女さんのストールを引っぺがしてまで確認しないところが焦ってる感じじゃなかったな。
「…勝手に俺のいい人扱いするな」
「そんなくっ付いてたらそれ以外ないじゃん。さて、お嬢さん、詳しくお聞きしても?内容によってはお助けしますし、それでなくても妥協点を見つけませんか?」
「…よろしく、お願いします…」
美少女さんは諦めたのか、少し辛そうな顔をしてから頭を下げた。
とりあえず場所を移動して、個室のあるカフェに入る事にした。
とりあえずストールは貸したままです。
「…改めまして、私はこの街のエルメナ商会の商会長の娘で、シャーロット=エルメナと申します。歳は16、成人済みです。先程の者は私の護衛でカルバスと言って、いなくなった私を探していたのです」
「それで、何故シャーロットさんはサウジハンス大国へ?」
「…父の元から、離れたくて…」
「父親の?何か不都合があったのか?無理矢理嫁がされそうとか」
「…その方が、遥かにマシです。いっその事、嫁いでここからいなくなりたい…」
「んん?話が読めない」
「同じく」
「…父と私は、血が繋がってないのです。正確には、父ではなく叔父です。本当の父は数年前に亡くなり、母も私を産んで他界しているので引き取られたんです…引き取られた当初は問題なかったのですが…ここ数ヶ月、奇妙な事が起こっているんです」
「奇妙な事?」
「…男性の方に言うのは憚られるのですが、その…私の服が…いくつかなくなっていて…」
「…ほう」
「風に飛ばされてしまったのかと思っていたのですが、ある時叔父の部屋の机の中で…見つけて、しまって…」
「…おう」
「叔父の息子がいるんですけど、相談しようと思ったら…えっと、私のじゃない、女性物の下着が…今度は…見つかって…」
「…うん」
「…言えなくなりました…」
「「…」」
うわ、きっまず!!
つまり何か?
義理の父親(叔父)はシャーロットさんの服を盗んでて、義理の兄(従兄弟)は誰かの下着を盗んでる、と?
…出て行きたくもなるよな。
「えっと…叔母さん、というか、義理のお母さんはいないの?」
「その人がサウジハンス大国にいるんです!とてもいい人で、本当の娘のように可愛がってくれて…!!ただ、2年前に離婚して国に帰ってしまわれたんです…離婚理由は教えてもらえませんでしたけど、『何かあったらこちらに来てもいい』と言ってくれて…だから、行くしかないと…」
うーん、話を聞く限りだと、特にシャーロットさんに問題はなさそうだけど…
一応、向こうの事情も確認するべきかな。
本当にヤバい変態共なら…粛清して逃亡しよう。
「ジーン、今回は仕方ないよね?」
「…まぁ、これはなぁ…ところで、なんで俺達に声かけたんだ?」
「昨日のお祭りでお兄さん達が酔っ払いさん達を瞬殺してたのを見たんです!すっごく強くて、これから護衛として雇えるかもって!」
「報酬は?」
「後払いになるけども、自分の宝石を少し持ち出してきたんです。それで足りなければ叔母様に借りようと思っていて…」
「旅の荷物は?」
「宿を取ってそこに置いてきました!」
「…多分、変装してなかったならその宿見つけられて回収されてるんじゃないかな、さっきのカルバスさんとかに」
「…あ」
あかん、まだ逃げられそうにないな。
しょうがない、潜入捜査してくるかぁ。
「ジーン、ここでお茶して待っててくれる?ちょっと探ってくるから。内容によっては連れて行こう、サウジハンス大国までなら2〜3日で行ける距離なんだし」
「あぁ、わかった。何する気だ?」
「女装してシャーロットさんの友達装ってお家でお茶してくる」
「中々ヤバいな?!って、まさかあの姿か?!」
「もっちろん、僕の女装はワンパターンです!」
机に突っ伏すジーン。
そんなに動揺しなくたって…
「じょ、女装ですか?」
「女友達の方がいいでしょう。今日お祭りで会う予定だったけど、来ないから待たせて貰っていいかって聞くよ」
「わ、わかりました…元々今日の詳しい予定は叔父に話してないので、大丈夫だとは思います」
「うし、じゃあさっさと済ませるか!いってきまーす!」
「…いってらっしゃい、無理と無茶だけはしないでくれ、俺も怒られるから」
「善処しまーす!」
さてさてさーて、パッパと片付けるよー!




