久々の帰省
本日、10雷1日。
ひっさびさにリリエンハイド王国に戻って参りました!
地の漆黒期の暗闇を利用しながらちょっとずつ『ワープ』を繰り返し、倒れる事なく帰ってきたよ!
思ってたよりも進んで、ジャルネまでの距離半分切ってたんだよねぇ。
だから1回帰ろっかなって。
…べ、別に寂しくなったわけじゃないんだからね?!
ちょうど父様から『話があるからそろそろ1回帰って来なさい』って『レター』が来たから…!!
…あれ?なんか、もしかしなくても僕怒られるの、かな?
あの文面からしたら…あり得る…?
「…僕、父様に怒られるのかな…?」
「…自覚あったんすか?」
「なかった…今気付いた…」
「…怒られると思いますよ、今までの事を思えば」
ジーン、酷い。
別に僕のせいで問題起きたわけじゃないじゃん!
ただ行く先々で気になる事があったから、その都度報告して、それが思いの外問題視されるような内容だっただけで…!
例のスパイン公国と迂回したクイーナンデル公国の件だって僕悪くないよ…?!
「…悪くなくても、規模がデカ過ぎたんだと思いますよ」
やめて、ジーン、僕の心の中を覗かないで。
何に対して怒られるのか戦々恐々としながら、僕らは王都の入場門である風の門へと向かった。
少し申請に並んでたので、ノワール達に乗りながら待機中です。
待つ事、半刻後。
「…まさか止められた上に平謝りされるとは思わなかったわ」
「変装解くのすっかり忘れてましたもんね…」
そう、変装したままだったから、普通に『狩人のユズキ』として申請しちゃったんだよね。
そしたら兵士の中にジーンの同期がいて、そこから僕が愛し子だと発覚。
その場にいた兵士全員から土下座された。
申請待ちしてた人も騒然、よくわからない状態になっちゃった。
王城まで送るって言い出したから、丁重にお断りして今に至る。
「とりあえずノワール達を屋敷に置いてこよう。それで馬車で登城かな?ジーンも来るよね?」
「あー…俺も怒られる感じですかね…行きます…」
「一蓮托生…死なば諸共、だよ」
うふふ、逃がさないからね?
そしてそのまま屋敷に帰ると、母様とシャーリー達が涙ながらに出迎えてくれた。
今日帰るとは言ってなかったからねぇ、そろそろ帰るとは伝えてたけど。
「あらあら、背がちょっと伸びたんじゃなくて?余計にカッコよくなっちゃって、母様心配だわぁ」
「え、何が?」
「ジーン、この子、旅の途中でどこかの女の子泣かせたりしてなかったかしら?」
「ギリギリ泣いてませんでしたよ。狩人という設定ですし、定住しないのは最初からわかってたようですから」
「そう、ならいいんだけど…可哀想にねぇ…」
「ちょっと、本人差し置いて話進めないでくれる?ジーンもなんの話してるの?」
「スパイン公国でのユリルさん、カタリーナさん。パーシャル連合王国のサグラダさん。エーデルマール王国のシーナ、ジーナ姉妹にアリエルさん。ココスポットル公国ではサエナ、ミシェル、イリーナ、ヨルカ…」
「ごめん、悪かった、黙って」
ちょ、覚え過ぎじゃない?!
別に僕が口説いたわけじゃないからね?!
「ユージェリスちゃん…」
「山賊に襲われてたところを助けたとか、魔物から守ってあげたとか、暴漢に襲われてて撃退してあげたとか、そういうので知り合っただけじゃん!ちょっとジーン、母様の前で僕が手当たり次第女の子口説く悪い男、酷い男みたいな言い方しないでくれる?!」
「事実ですから…」
ひでぇ!!
母様達もそんな目で見ないで!!
だってさぁ、目の前で人が、それもか弱そうな女の子が襲われてるんだよ?!
助けるのが男ってもんでしょ?!
見捨てるわけないじゃん!!
そんな感じで言い返してたら、ジーンから一言。
「それでもアフターケアが充実し過ぎでした」
「だ、だって襲われた恐怖とかで辛い思いして欲しくなかったから、出来る限り優しく接してたんだもん…」
「優しいのはユージェリスちゃんの良いところだけど、加減を知りましょうね?」
「あい…」
ぐすん…
久々にちゃんとした愛し子正装をした。
着飾った僕って、自分で言うのもなんだけどイケメンだよねぇ。
というか、この世界って全体的に顔面偏差値高いと思う。
特に貴族はね。
さてさて、ファーマ爺に馬車を運転してもらって王城に向かってるわけだけども。
「馬車なんて久々だなぁ」
「でしょうね。そしてかなり目立ってますよ」
「こんな時間にうちの馬車に乗ってるのなんて、母様くらいだろうからねぇ。あ、ねぇ、寄り道していい?友達に帰ったら顔見せるの約束してるんだよ」
「あぁ、この前の女の子のところですか?本当に刺されますよ?」
「ナタリーやニコラみたいな事言うのやめてよ」
もうすでに刃物は向けられた事あるんだから、洒落にならんわ。
とりあえず1番近くの大通りで降りて、歩いて向かう事に。
馬車を降りた瞬間、周りが騒ついた。
至る所で謎の悲鳴が聞こえる。
「坊っちゃまは相変わらず人気ですなぁ」
「ごめんね、目立つだろうけど、ちょっとだけ待っててくれる?」
「逢引のお邪魔など出来ませんとも。どうぞごゆっくり」
逢引じゃないっての。
さっさとジーンを引き連れながら横道に入る。
どうやら今日は外まで並んでないみたいだったから、そのままお店に入る。
「いらっしゃいませ…あ」
「メイーナ、ただいまー」
僕を見つけて固まるメイーナ。
一拍置いてから、店内が黄色い悲鳴で溢れ返った。
「え、え、なんでなんで?!」
「嘘、愛し子様?!」
「え、メイーナちゃんとどういう関係?!」
そして全員の視線がメイーナへと向く。
「…おかえり?」
「うん、ただいま。もう登城しなきゃいけないから、また明日にでも改めて来るね」
「明日は定休日、だからお茶しよう。誰か呼ぶ?」
「呼べたらね」
「メルヒーに聞いとく」
「じゃあロジェスに会えたら聞いとくよ。前と同じ時間に同じ場所へ迎えに行くね」
「わかった、いってらっしゃい」
「行ってきます」
手を振り合ってから店内を出る。
それからさっさと馬車に戻り、引き続きファーマの運転で王城を目指す。
馬車の中、ジーンが冷ややかな目で僕を見つめる。
「…絶対刺されますって。あの子を特別扱いしてません?」
「…刺されたって死なないもん。特別扱いってわけでもないし…約束してたから」
「俺には特別扱いに見えますよ。ついにお相手決まりました?愛し子様?」
…そういうんじゃ、ないんだけどなぁ…
でも、お相手かぁ…
そろそろ本気で考えた方がいいかなぁ。
僕の特別で、大事で、1番好きな女の子…?
「…難しいなぁ…」
恋愛に踏み出せないのって、何が原因かなぁ。
やっぱり前世のせい…?
それなら…
「…ダティスさんとデイジーの結婚式見れば、相手がわかる気がする」
「はぁ?なんでそうなったんですか?」
「…内緒」
先輩が幸せになったと、その光景を見る事が出来たなら。
なんとなくだけど、前世の後悔って言うか、未練って言うか、そういうのがなくなるような気がする。
そうと決まればいつになるのか聞いておこう。
指を鳴らして2人に『レター』を送る。
後はナタリーとニコラにも帰ってきた事を伝えておかなきゃ。
どうせルーファスとレオには王城で会えるでしょ。
それからすぐに王城に着いた。
先触れは出しておいたので問題なく入城完了。
ファーマには待っててもらって、ジーンと2人で王城内を進む。
侍女の人達なんかが周りでヒソヒソしてた。
帰ってきた事に驚いたりしてるのかな?
あ!アリス嬢いた!
手ぇ振っておこっと。
…黙礼されちゃった、ちょっと寂しい。
「何してるんですか」
「友達がいたから…」
「無駄に目立ってどうするんです、ほら、入りますよ」
「はーい」
ついに着いてしまった魔法師団室。
ドキドキしつつノックして、入室すると…
「漸く来たな、ユージェリス。さぁ、色々話をしようか?」
父様をはじめ、陛下やベティ様や宰相様、エドワーズ様や兄様やルーファス、アレックス様やロイド様など、皆様勢揃いでした。