その頃のリリエンハイド王国《side another》
☆★☆side アレックス☆★☆
バァーン!!!と勢い良く魔法師団室の扉を開けて入ってきたのは、なんと師長自身だった。
いつも『扉を乱雑に扱うんじゃない』なーんて忠告する側だったのに。
なんかあったのか?
心なしか顔色が悪い。
「師長、どうしたんすか?」
「…アレックス、今暇か?」
「え?まぁ、今日は特段急ぎの仕事もないですし、この後師団の奴ら連れて見回りでも行こうかなぁと…」
「第1師団に仕事だ、それもえげつないやつな」
「え」
そう言って、師長が俺に1枚の紙を差し出してきた。
とりあえず受け取って、中身を確認する。
…坊ちゃぁぁぁぁぁん!!!!?!?!!?!
他国で何してんのぉぉぉぉぉ?!?!!!!?!
いやまぁ不可抗力かもしれないけどさぁぁぁぁ?!!!?!?!
「…原因究明を頼む。私も手伝うから…というか、私が主体でもいいから、手伝ってくれ…」
「…いや、まぁ、この坊ちゃんの考察だけで終わりでいいんじゃ…?」
「…実験はしなければならない。後は、普通の鑑定スキル持ちの表示がどうなるかだな。王妃様にも確認していただかねばならん」
「…じゃあ、まずは陛下と宰相様に許可を貰って師長はエリア石の採掘っすね。態と粉状にしていただいて、市販の希少石粉を入手して比較…入手はユータスに行かせましょう。俺は初めて聞いた塗料ですけど、アイツの実家は商家だし扱ってるかも。比較は鑑定スキルがレベル5のアマリーに。その後王妃様へ依頼をするので、その手配は俺が。エリア石と希少石粉の加熱、洗浄実験は手元に揃い次第行えるので問題なし。育成中の野菜や動物への実証実験は場所が必要っすね…タイロが趣味で野菜を育てていたと思うので、そこは任せましょう。動物は万が一魔物になったら困るので、ネズミ辺りかな…今日巡回予定のアルバトに獲らせてくるかなぁ…実験場も借りる申請出さないと…」
…ん?師長の顔色が戻った?
というか少し嬉しそう。
「…本当に、お前は優秀だよ。どこから手をつけようか困ってたんだ…色々と把握してくれて助かる」
「まぁ自分の直属の部下の事くらいならなんとか。というか師長は他にもお仕事あるし、しょうがないでしょ」
「…まず今回の件を陛下方へ報告せねばならん。それと今後他国へのエリア石についての説明をどうするかの会議もあるな。一応今後は名称を『魔症石』とする事になる。『エリア』が使えるという説明はしない予定だ。他国で乱獲、濫用が起きても困るからな…まぁ以前の国内放送を聞いた他国の者もいるだろうが、そこはしょうがない」
「あの時は『エリア石』はこの国にしかないと思ってましたもんねぇ…全世界で魔物がいるんだし、そんな事なかったはずだけど」
「あれは迂闊だったな…まぁ聞かれれば答えるが、注意事項も伝えねばならん。希少石粉の原産国には自粛してもらうか、別の加工をしてからの出荷を依頼せねばな…あまり国同士の関わりはないんだが…」
「粉だと今回みたいに舞っちゃうだろうし、せめて液体化ですね」
「あぁ…やる事が多い…」
「…頑張りましょう…」
坊ちゃん、トラブル体質過ぎねぇか?
怖いから早く帰ってきて下さい。
★☆★side ナタリー★☆★
今日は王妃様との庭園でのお茶会で、王城にお呼ばれされました。
メグ様やチェルシー様もいらっしゃいますの。
「ん?ナタリー?」
「まぁ、ルーファス君、ご機嫌よう。毎日会っていましたから、なんだかお久しぶりですね」
侍女の方に先導されていると、前からルーファス君が現れました。
宰相様と同じような服装もお似合いですわね。
心なしか凛々しいです。
「今日は茶会だったか?」
「えぇ、ここ数年で卒院した未婚の伯爵令嬢以上が出席なの。チェルシー様もいらっしゃるはずです」
「そうか。そういえば、ユージェから手紙は来たか?」
「えぇ、先日ヴァイリー王国から次のスパイン公国へ向かうと」
「俺にも来たんだが、どうやら先程師長宛に至急の『レター』が届いたらしい」
「まぁ、何かあったのかしら?」
「多分俺にも教えて貰えるだろうが、ナタリーに言えるかはわからんな…次のユージェの手紙に書いてあればいいんだが」
「まぁ師長様宛という事は重要な案件でしょうから、期待はしない方がいいですね。それよりもユージェ君が無事ならそれでいいです」
「アイツは元気だろ、だってユージェだぞ?」
「…それもそうですわね。そろそろ1度戻ってきてくれないかしら…」
「なんだ、寂しいのか?」
ニヤニヤと笑うルーファス君の言葉に、何か引っかかります。
寂しい…?
確かに会えなくなって寂しい、のですけれど…
なんというか…
「…そうですね、こうやってみんなに気軽に会えないのは寂しいですわね」
「…まぁ、そういう事にしておくよ」
軽く笑ったルーファス君が、私の頭をポンポンしてからその場を去っていきます。
…ルーファス君にはバレてしまったのでしょうか。
国に帰ってきて欲しいんじゃなくて、私のところに帰ってきて欲しい。
…そんな気持ちが過ぎってしまっただなんて。
☆★☆side フローネ☆★☆
暇。
とにかく暇なのです。
お父様はお仕事がお忙しくて、ロイお兄様も一緒。
ユージェお兄様はお手紙は下さるけど、まだ帰ってくる気配はなし。
お母様とお休みの日にお出かけはしたりしますけど、代わり映えはなし…
何か素敵な事が起こったりしないものかしら?
「フローネ様、どうかなされたの?」
「いいえ、なんでもないのです。それより、何かあったのですか?随分と盛り上がってらっしゃるようですけれど…」
「あぁ!サミュエル様に婚約者が出来たそうですの!」
「まぁ、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!他国の伯爵子息様なのですが、とても素敵で優しくて…卒院後はそちらへ行く事になるのですが、今からドキドキしていますわ」
「羨ましいわぁ、私も早く素敵な方と素敵な恋をしてみたい…」
「ち、ちなみに、ですけど、フローネ様のお兄様はご結婚のご予定なんかは…?」
「兄、ですか?ロイお兄様はもうすぐ式の予定ですし…あぁ、ユージェお兄様の事ですか?」
「えぇ…その、先日偶然お姿を拝見して…本当に麗しいお方で…」
「今は旅の途中との事ですけれど、ご同行者は従者の方だけなのかしら…」
「あの従者の方も素敵ですわよね…」
そう言って、頬を染められるご令嬢方。
お兄様ったらタラシですわね。
ジーンさんも人気なのね。
まぁ2人とも、特にお兄様はあんなにカッコいいんですもの、仕方ないわ。
ついに仮面を外された今、恋い焦がれる方が続出みたい。
「今は特定の方もいらっしゃらないみたいですわ。仲の良いお友達は数人いらっしゃるようですけど」
「まぁ、そうなんですね。あぁ、早く帰ってこられて舞踏会にご参加して下さらないかしら?」
「お声をおかけする事は出来ませんけど、せめてあの素敵なお姿を近くで拝見したいわ…」
本当にモテモテですわね。
こういうの、王妃様はなんて言ってたかしら…
あぁ、そうそう、あいどる?みたいです。
「あんなに素敵なお兄様方と一緒では、フローネ様の理想も高くなってしまいますわね」
「本当に。フローネ様はご婚約のお話はありませんの?」
「え、えぇ、まぁ…」
「気になる方は?」
…そう言われてしまうと、思い浮かぶのはただお1人で。
私に向かって微笑んで下さったあの顔を思い出すと、つい頬が熱くなってしまいます。
「まぁ!誰かいらっしゃるのね?!」
「え?!いえ、その…!!」
「きゃあ!気になりますわぁ!!」
一瞬で囲まれてしまいました。
こんなところで言えるわけないです!!
それに…あの方は私を友達の妹、程度でしょうから…
…アプローチって、どうやればいいんでしょうね…?
早くお兄様、帰ってきて下さらないかしら?
相談に乗ってほしいです…
★☆★side ロジェス★☆★
おん?あれはオルテス公爵子息とスタンリッジ伯爵令嬢やないかい。
確かユズキ…愛し子様の友達やったな。
こうしてみると俺との身分差がようわかるなぁ。
友達の友達だからって、声かけるなんて無理な話や。
「ロジェス、どうした?」
「いや、なんでもありません」
あかんあかん、今は仕事中やった。
先輩に不審がられたら不味いわ。
他所行きの笑顔と言葉で取り繕う。
そんな俺には最近、1つの野望が出来た。
前までは何か手柄でも立てて、士爵程度の爵位をいただいて、元貴族である母さんに楽させる事を夢見てた。
でも、それだけじゃ。
「…ユズキの隣に立てないんだよなぁ…」
「ん?」
「いえ、こちらの書類についてなのですが…」
俺の友達のユズキは、この国の最高権力者とも言える。
多分最初からそれを知ってたら、上手く使ってのし上がってやろうとしたやろうな。
でも、ユズキという人間を知ってしまったわけで。
友達思いで、面白い事大好きなノリのいい奴で、恋愛については苦手だけど女に優しくて。
今考えると、祭事や緊急時に愛し子様として振る舞うアイツは疲れていたんだろう。
なんせ俺らとバカやったりして爆笑するくらいやし。
お貴族様はあんな笑い方しちゃあかんやろ。
「…どうやれば偉くなれますかねぇ…」
「なんだ、ロジェス、お前偉くなりたいのか?」
「えぇ、まぁちょっと目標がありまして」
「さては貴族令嬢にでも惚れたか?!そりゃあ頑張らないといけないよなぁ!いくら自由恋愛推奨とはいえ、お貴族様と平民じゃまだ周りの目が厳しかったりするからなぁ!」
「あはは、そうですねぇ…」
令嬢、じゃないんやけどな。
まぁ、似たようなもんやろ。
愛し子様の隣に、なんでもない平民が突然横に立つ事は出来ない。
多分アイツは気にしないだろうし、寧ろ『隣にいてよー』なぁんて言いそうやわ。
でもなぁ、俺が嫌なんだよ。
俺の身分のせいで、ユズキが悪く言われる事がな。
俺が言われる事も、ユズキは嫌がるだろうし。
お互いが嫌な思いをしないためには、俺が頑張るしかないやろ。
見とれやユズキ、大事な友達のために、いっちょ頑張ったるわ!
☆★☆side ルートレール☆★☆
「…以上が、ユージェリスからの連絡事項になります。調査の段取りはアレックス並びに第1師団が受け持ちますので、王妃様もご協力よろしくお願い致します」
私の報告に、陛下は乾いた笑いをし、王妃様は眉をハの字に下げながら微笑み、宰相閣下は頭を抱えていた。
ちなみにロイヴィスと宰相閣下の息子であるルーファスとエドワーズ様は何やら3人でコソコソと話し合っていた。
結構仲良さそうなんだよな、良い事だ。
「…ユージェリスが行くところは問題ばかりだなぁ。いや、ただ他国の事情を我々が把握しきれてなかっただけか…」
「ユージェったら楽しそうねぇ。私も一緒に行けば良かったわ。向こうにいればこんな面倒な後処理、しなくて良かったもの」
「それはかなり困りますのでおやめ下さい…あぁ、向こうの外交官に連絡をしなくては…」
「…よし、父上、お願いがあるのですが」
「ん?なんだ?エド」
「この案件、指揮は私達に任せていただけませんか?」
「なんだと?」
「父上や宰相は別件でもお忙しいはず。最終的な決定権などは勿論父上達でお待ちいただいて結構ですが、内容については我々にお任せいただければ」
「他ならぬユージェが持ってきた案件ですから、将来の事を見据えて私達でどれだけ出来るのか試したいのです」
「それにきっと…今後も色々持ち込んできますよ、うちの可愛い弟は」
…ロイヴィスの言葉に、全員が一瞬固まってから、深く頷いた。
悪気があるわけでもないし、寧ろこの世界には良い事なんだ。
それはわかるが、ユージェリスが動くとやっぱり今までなかった事象が舞い込んでくるわけで。
…この3人主体で片付けられるようになれば、将来的にはとても安心だろうな。
「…わかった、3人で進めてみろ。定期的な報告は忘れないように。何かあればすぐに口を出すぞ」
「はい、ありがとうございます」
3人が揃って頭を下げる。
…後でアレックスにも伝えておかないとな。
しかし私的にも助かるな、仕事が減りそうだ。
…この3人が無茶な案を出してこない限り、な?




