魔物増加の可能性
「あぁ、ほらそこ、そっちにもありますよ」
「本当だわ!お兄さんキノコ見つけるの上手いわねぇ!」
アマンダさんが嬉しそうにキノコを狩る。
ちなみに僕が見つけるの早いのは察知スキルさんが見つけてくれるからです、便利。
森に入って半刻、貯蔵庫まではもう少しかかるそうなので、とりあえずキノコや果物なんかを回収しながらゆっくり進んでる。
たーまにジーンが普通の兎なんかを狩って女性陣に献上してた。
なのでジーンはモッテモテです。
僕は周りを警戒してるので一旦不参加。
「…以前は、この辺りで遭遇したんだ…」
「今のところ、近くにはいないので安心して下さい。方向はこちらで合ってますか?」
「あぁ…君は、本当に凄いんだな。察知スキル系を持っているのかい?」
「えぇ、なので遠くにいても迂回出来ます。まぁ倒してもいいんですけどね」
「若いのに強いんだな…うちの倅も、頑張っているんだろうか…」
「息子さんですか?」
「国の騎士団に入ったんだ、魔力が平民にしては高くてね。たまに手紙が来るが、毎日大変なようだ」
「あぁ、成る程、それは心配ですね…あ」
なんか魔物の反応あった。
自然級で小さめだな…
「ど、どうした?!」
「リスの魔物ですかね…アマンダさん達、一箇所に固まって下さい。ジーン、いける?あっちの方向、距離500で近付いてきてる」
「はい、いきます」
ジーンが剣に手をかけながら駆け出す。
まぁあれくらいならジーンでも倒せるでしょ。
1年レリックやうちの私兵に揉まれて、この1ヶ月僕と行動を共にしたジーンは中々強くなった。
多分騎士団に入っても上位なんじゃないかな?
アイカット様がどれだけの腕なのか見た事ないけど、意外といい勝負出来るかも。
なんならジーンは暗器も使うし、勝てちゃうかも?
「か、彼だけでいいのか…?」
「あの程度なら大丈夫です、すぐに帰ってきますよ」
そんな僕の宣言通り、ジーンはすぐに戻ってきた。
右手で引き摺っていたリスの魔物は子熊くらいの大きさだった。
アマンダさん達が小さな悲鳴をあげる。
「終わりまし…終わったから、後は任せた」
「はいはい、《汝、屍となりて彼の地へ赴く。御霊よ、精霊の加護を受けよ、"エクサイズ"》」
詠唱恥ずかしーい。
でも顔には出さずにさっさと切り捨てます。
首元から飛び出た魔石をキャッチすると、魔物の体はサラサラと砂が崩れるように消えていった。
…おや?随分小さいな。
とりあえず魔石から黒い光が消えた事を確認して、『サンクチュアリィ』で保存っと。
「…聖属性持ちか…」
「お兄さん達、セジャなのねぇ…」
「え?」
ん?世子?
韓国とかで言う王太子だっけ?
「あぁ、うちの国では聖属性持ちの狩人を『聖者』からの派生で『セジャ』って言ったりするんだ。近隣諸国からうちに魔物が多く出ると聞きつけて現れる狩人はいるんだが、聖属性持ちではない者が多くてね…結局騎士団の聖属性持ちに浄化の依頼が後を経たなくて、中々大変なんだよ。だから聖属性持ちの狩人はかなり歓迎される」
「なんなら勧誘されちゃうかもねぇ。ただでさえ人手不足だし。そっちのお兄さんの方もセジャじゃなくても強いなら大歓迎されるわよ?」
「いや、それは…」
「国に仕えるなら生まれたところがいいから、勧誘されてもお断りしちゃうかなぁ」
「まぁそうよねぇ、それで受けてくれたセジャなんて殆どいないわぁ」
「まぁ何はともあれ、君達と出会えたのは僥倖だよ。運が良かったな、我々は。暫く滞在して欲しいくらいだ」
「んー、いても2〜3日ですよ?僕達、目的地が遠いので結構急いでるんです」
「…そうか、それは残念だ」
そこまで残念そうに肩を落とさなくても…
とりあえず魔石は自分の鞄の中に入れておく事にした。
あ、ちなみにアイテムボックスに入って手ぶらってのは不審なので、ほぼすっからかんだけど鞄は持ち歩いてます。
「それにしても…」
「ん?どうかした?」
「あ、いや、さっきの魔物だけど…そこまで強くなかったなって。自然級だからかもしれないけど、この前ユズキと一緒に戦った兎の自然級の方がよっぽど強かったような…」
…まさか、だけど。
いや、確認だけしてみるか。
「クレストさん、歩きながらでいいのでお聞きしていいですか?」
「ん?なんだい?」
「アマンダさんから聞いたのですが、現れる魔物は小動物ばかりなんですよね?」
「あぁ、そうだね。元々魔物なんて全然出なかった国なんだが、ここ数年で出るようになった。だから余計にこの国の騎士団は上手く機能してないんだと思うよ」
「それが今ではかなりいっぱいいる、と?」
「元々うちの国には大きい動物が少ないんだ。熊なんかも滅多に見ないよ。だからじゃないかな?」
「…魔物は草食が多いですか?」
「あー、そう言われればそうかもしれない。肉食で聞いたのは狼くらいだね。あぁ、あれは雑食か?」
「…ユズキ、どうかしたのか?」
「んー…」
そっと指を鳴らして、ジーンへ『テレパシー』を送る。
ジーンには魔石とエリア石の関係については話してあるからね。
(仮定なんだけど、この国に元々エリア石はないんじゃないかな?鉱石だし、採掘できる場所がないのかも。それでまぁ、この数年でどこからかエリア石が持ち込まれてとか…多分今エリア石で『サーチ』かけても引っかかっちゃうだろうから、難しいねぇ…)
「…まぁ、一旦置いておこう。宿に着いたらだな」
「そだね」
「?」
すみません、クレストさん、ちょっとここでは話せないんです。
その後無事に貯蔵庫まで辿り着き、貯蔵庫に置いてあった大きめのリアカーに積めるだけ積んで街に戻った。
中々重くてクレストさんだけじゃ時間かかりすぎるから、僕とジーンも押しました。
まぁちゃんとスキルは働いてたし、帰りに魔物は出なかったしね。
街に戻ると大勢の人達が僕達の帰りを待っていた。
すげぇ色んな人に褒められたよ、特におじさん達が多かったのはお酒のためかな?
その後同行してた女性、サリーさんのお宿に移動して、防音魔法を部屋にかけて施錠する。
「…さて、まぁ仮定なんだけどさ。聞いてくれる?」
「勿論です」
「ありがとう。多分なんだけど…これ、元々粒程度の大きさか、粉状の物のエリア石だったんじゃないかな?」
そう言って、僕は鞄から魔石だった物を取り出す。
「粉…ですか?」
「僕、気になってたんだよね。ヴァイリー王国では森の中にエリア石がたまーにだけど転がってたりしたじゃん?見た目だけで言えば綺麗な石なわけだし、珍しいものなんじゃないかって」
「あぁ、成る程。うちの国では王城の地下など地中深くあるものが、地震や動物が掘り起こさない限り転がってるなんてあり得ませんでしたし。だからこそ国民の殆どが存在を知りませんでしたもんね。元々地表近くに現れていれば、他国の人間が存在を知っていてもおかしくはないか…」
「でも、父様達から聞いたんだけど、エリア石って加工が難しいんだって。歴代の王族と師長達しか知らない方法だから、多分アクセサリーみたいな使われ方はしてないと思う。子供とかが秘密基地とかに石の塊のまま飾ってるとか…」
「と言うと?」
「加工方法は聞かなかったけど、失敗すると粉みたいになるって言ってた。好きな形に出来ない石なんて、装飾品としては使えないでしょ?だから使えない石って認識になれば、使い道なんて子供くらいじゃないかな?」
「あー…綺麗な石とか、拾ったなぁ…子供にとっちゃ宝石みたいなもんか…」
「または、その粉になったものを何かに使ってるか、だけどね。今回の件はその説が強いかなー?染料とかそういうので…んで、運ばれてる途中でバラまいちゃって、風に舞ってふわぁー…」
「…え、それかなり不味くないですか?」
「いや、まぁ、仮定なんだけどさ。それでそれが地面に降り注いで、草に付着して、草食動物が食べて…体で粉状だったものが一定量越えて再結合すると最終的に魔石化…だったら、困るよねぇ…」
「…ユージェ様がそういうと、なんかそれが真実な気がしてきました…」
「…とはいえ僕にはどうしようも出来ないんだよね。さっきこの近辺を黙って『サーチ』してみたけど、エリア石自体はなかったんだ。粉状ならエリア石とは言えないだろうし…本気出したらわかるかもしれないけど、愛し子の魔力全開で放出したら目立つから…多分、この国全土に降り注いでるというわけではないだろうしね。無事な動物もいたわけだし…あ、もしかしたらさっきの兎も、感染はしてるかも…?」
「…え、それ不味くないですか…?」
「…でもみんな食べてるんだよねぇ…?もしかして、加熱したら平気なのかな…後で鑑定してみるか…最悪コレ付けて食べよう」
僕はアイテムボックスから2つの指輪を出す。
親指に付けるタイプの、少しゴツいやつ。
「これは?」
「付けてる対象人物の体から異物を排除出来る指輪」
「また凄いものを…」
「前にベティ様の誕生日にあげようと思って試しに作ってみたんだけど、これ、ポーションも効かなくなっちゃったんだよね…」
「異物ってレベルじゃないじゃないですか」
「効果強過ぎたからお蔵入りしたんだよ」
「…とりあえず、付けておきましょうか。多分大丈夫なんでしょうけど。この街の人も普通ですからね」
「お揃い…だね♡」
「…思ってもない事言わんで下さい」
ジト目で睨まれてしまった。
最近ジーンもあんまり動揺しなくなっちゃったなぁ。
揶揄い甲斐がない、つまらん。
今度はジェリスでやるか。
次回でスパイン公国編終わりです、短い(笑)