感心する話術《side ジーン》
めちゃくちゃ遅くなりました、すみません!
俺の主人は怖いものなしだと思う。
「えー?そうなんすかー?凄い、さっすがぁ!」
「ガハハハハ!!そうだろうそうだろう?!まぁ飲め飲め食え食えぇ!!」
「わぁ、あざーっす!ご馳走様でーす!」
…かなりガタイの良くて人相の悪いオッサン達に混じって酒を飲む美少年とは、これいかに。
遡る事1刻ほど前、俺達は順調にヴァイリー王国内を駆ける事が出来て、予定していた領地よりも先の領地へと進める事になった。
多分ユージェ様が途中でブラン達に食べさせたクッキーらしきもののお陰だと思う。
ユージェ様曰く、疲労回復効果のあるものなんだとか。
その後ブラン達を馬屋に預けて宿を探す事になり、その街にある狩人の集会場へと向かった。
集会場では一般の依頼や特殊依頼なんかが掲示されている場所になっていて、狩人達はそこで仕事を請け負っている。
狩人に試験や免許なんかはなく、個人の魔力を集会場にある魔導具に登録するだけでいい。
それでその人が今までどんな依頼をこなしてきたか、なんかがわかるそうだ。
俺とユージェ様はリリエンハイド王国の魔法師団室で特別に登録してきたから、実際に集会場に来るのは初めてだった。
中に入ると、俺達を見る人達がかなり多かった。
まぁどう見ても新人に見えるだろうからな、特にユージェ様が。
髪色は変えられていても特に顔は隠していないから、目立つ目立つ。
「…なんか見られてる?」
「…ユズキは、整った顔立ちしてるからな。新人のお坊ちゃんが来たと思われてるんだろ」
「間違っちゃいないよねぇ。少し口調も変えておこうかなぁ」
ケラケラと笑うユージェ様。
そうして入口から移動しようとしたら、突然目の前にガタイの良いオッサンが1人立ち塞がるように現れた。
…殺気はなし、敵意もなし、か…?
「よぉ、ここはお坊ちゃんの遊び場じゃないぜ?」
「お坊ちゃんって、俺の事?」
「あぁ、随分お綺麗な女みたいな顔じゃねぇか。お遊びならやめといた方がいいぜぇ?その顔が傷付いたら泣いちまう女が何人もいるんだろ?」
「いやぁ、生憎そういう付き合いの女の子いないんすよ。男は顔じゃなくて中身って事なんすかねぇ?お兄さんは優しい人だし、モッテモテそう!」
「お、おぉ?そ、そうか?」
「あぁ!だって声かけてくれたのだって、俺を心配してくれてでしょ?そういう気遣いが出来る男って羨ましい!そこに痺れる憧れるぅ!」
「ま、まぁ、俺くらいになれば?気遣いなんて?朝飯前ってか?いや、今は夜だし夕飯前か?」
「そっか、もう夕飯の時間か!ねぇねぇお兄さん、美味しいお店知らね?この街来たばっかだし、色々教えてほしいなぁ?」
「よーし!なら俺のオススメの酒場に連れてってやろう!酒だけじゃなく飯も旨いぞ!」
「そうなの?やったぁ!じゃあお礼に1杯奢らせて!」
「おっ、お前も気前いいじゃねぇか!そういう奴はモテるぞー?」
「マジ?知らなかった!引き続きご指導お願いしゃーっす!」
…こうして周りの人達も巻き込んで、大衆食堂のような酒場にやってきた。
そしていつの間にかユージェ様が奢るという話から最初に話しかけてきた男…バルドさんが奢るという話になっていた。
ユージェ様の話術、やべぇ。
というか一人称とか話し方とか色々変えてて本当にユージェ様っぽくはないな。
気になった事もあるので、男達の飲み比べ大会が始まったところでユージェ様に小声で話しかけてみた。
「…ユズキ、すげぇな」
「ん?あぁ、ジーンも覚えてた方がいいよ。男は『さしすせそ』に弱いってね」
「『さしすせそ』?」
「『流石ですねー!』『知らなかったぁ!』『凄ーい!』『センスいいね!』『そうなんだぁ!』」
…そういや、今までの会話に使われてたような…
というか声色をジェリス姉ちゃんにするのやめてくれ、心の古傷が痛むから。
「まぁやり過ぎるとあざとかったりするけどさ。やけにこういう言葉を使う褒め上手の女の子には少し気をつけてね」
「…話が変わったな…」
「おっ?なんの話してんだぁ?飲んでるか?ユズキぃ!」
「飲んでまーす!でもご飯も美味しくってさぁ、流石バルドさんのオススメ!」
「だっろぉ?!ガハハハハ!!」
…丸め込まれてる。
というか、ユージェ様、酒飲めたのか。
成人したばっかなのになぁ。
ちなみに俺はザルだ、親父に似たらしい。
「…酒大丈夫か?」
「お腹ちゃぽちゃぽにならなきゃ平気。僕、酔わないしねぇ」
「え?」
「酒耐性スキル取れたから」
「…スキルってそんな簡単に取れるものじゃないと…しかも酒耐性スキルってめっちゃ希少スキル…」
「エール1杯飲んだら取れたよ。まぁ酒が好きなわけじゃないけどねー」
…相変わらず規格外だな。
ユージェ様のお言葉で言えばチートってやつか。
「あらやだ、バルドさん達ったら随分可愛い子連れてるじゃなぁい!やぁん、こっちの子も可愛いわぁ!」
「坊や達、ちゃんと成人してるのぉ?」
ボーッと飲んでいたら、店の姉さん達が来てくれた。
俺、可愛いのか…?
「この前卒院して成人したんだ、お姉さん、祝ってくれない?」
「あらあら、本当に可愛いわぁ!いいわよ、お祝いしてあ・げ・るっ」
そう言って姉さんの1人がユージェ様の右頬にキスをする。
「えー?ずるーい、あたしもお祝いするぅー!」
「あたしもー!」
そして頬や額に降り注ぐキスの嵐。
揉みくちゃになりながらもユージェ様は笑っていた。
…アレだけ好きにされて、照れたりとか、なんの反応もないのは凄いな。
というか、これうちの国でやったら処罰モノじゃ…?
愛し子様に対して無礼過ぎるだろ、本人全く気にしてないけどさ。
「良かったじゃねぇか、ユズキ!お前も俺みたいにモッテモテだぞー?!」
「いやぁ、お姉様方は恋愛対象としてじゃなく、愛玩的な意味合いじゃないっすかぁ。俺的には1人の男として惚れられたいっていうか…」
「言うねぇ!まぁお前はヒョロいし狩人としてはヒヨッコなんだから、もうちっと貫禄を磨いて出直しな!せめてジーンと協力して兎の自然級でも狩れるくらいにな!」
「はぁい、残念、精進しまーす」
…バルドさんよ、残念ながらこのお方は神話級すら瞬殺されるぞ?
アンタがどんだけ強いのかは知らんが、指1本で倒される事は目に見えてるからな?
「坊や達、どこから来たのぉ?」
「あぁ、えっと、隣のリリエンハイドから」
「まぁ!リリエンハイド?!あの国にはみんなとっても感謝してるのよぉ!」
「なんだお前ら、リリエンハイドから来たのか!そりゃあ親切にして良かったぜ!」
「ん?どういう事?」
「そっちの国の侯爵子息様があのクソ王をぶっ潰してくれたお陰で色々やりやすくなってなぁ!」
「うちも学問の道を諦めてた女の子達が勉強出来るようになったりしたのよぉ!」
「領主様やお貴族様達は元々優しかったけど、余裕が出来たのか前よりもっと住みやすくなったわぁ!」
「「「「リリエンハイド王国、バンザイ!!侯爵子息様、バンザイ!!」」」」
…さっきまでの綺麗な笑顔が一変、引き攣った笑顔になったな。
なんなら顔色も悪くなった気がする。
それにしてもここまで感謝されてるとか、本当に俺のユージェ様は素晴らしい。
マジで一生付いて行かせて下さい、敬愛してます。
間違っても恋愛でありません、はい。
「ユズキ、お前貴族じゃねぇの?侯爵子息様見た事あんのか?」
「はぁ?俺がお貴族様に見えるって?」
「…そうでもねぇな。顔は綺麗だけど、結構口は悪いしこんなとこ来ても平気そうだし。なんなら俺のこの態度に対しても怒ってるようには見えねぇしなぁ」
「やだなぁ、バルドさんに怒るわけないじゃぁん!」
「だよなぁ?!ガハハハハ!!」
…うちの主人、マジで心が広過ぎるだろ。
というか質問を上手く交わしたな。
「ジーンは見た事あんのかぁ?」
「…そりゃ、まぁ。俺らその侯爵様の領地出身だからな」
「マジかよ!っかぁ、羨ましいねぇ、そんないい男のいるとこ出身だなんてよぉ!将来安泰じゃねぇか、その領地!」
「…あの方は次男だから継がないし、領地とはそんな関係ないと思うけどね」
「あの手腕があって継げねぇのかよ!お貴族様ってのは意味わかんねぇなぁ」
あはは、と困ったように笑っているユージェ様。
詳しく説明出来るわけでもないし、ここは言葉を濁すしかないな。
「これからどこへ行くのぉ?」
「隣のスパイン公国の方向へ」
「あらあら、随分遠くへ行くのねぇ!」
「スパインか、気をつけろよ?あそこは色々勝手が違うからなぁ」
「どういう事っすか?」
「俺ぁ1度商家の護衛としてスパインに行った事があるけどよぉ、まず人間性が違うな。大らかっつぅか、適当過ぎるってか。時間は守らねぇけどやる気はあるっていうか…なんか不思議な国だったなぁ。店入って料理が出てこなくてもしょうがないって思わなきゃダメだぜ」
「…変な国だな」
そういうのって人としてどうなんだ?
普通に生活を送ってるだけなのに…
色んな国があるもんだな。




