道中
今日が金曜日だと気付いたのが夕方でした…
遅くなってすみませんm(_ _)m
翌朝、僕とジーンは王城の庭園で王族や宰相様、騎士や侍女達に見送られていた。
昨日はいなかったテリューシャ様や、旦那様で宰相様のご子息のオレガノ様もいらっしゃってくれた。
中々盛大なお見送りになっちゃったな。
「ユージェリス殿、また遊びに来てくれ」
「ええ、必ず」
「ユージェリス様、実は貴方様にお渡しするものがあるのです」
「渡すもの?」
「えぇ、ブルーノ、アレを」
「はっ!!」
すっかり立派になったブルーノが指示を受けて小走りでその場を去る。
僕とジーンは顔を見合わせながら小首を傾げた。
暫くして戻ってきたブルーノは、2頭の馬を連れていた。
どちらも艶やかな毛質をした青毛と黒鹿毛で、とても凛々しい子達だ。
「さぁ、お受け取り下さい」
「え?」
「昨夜、そちらのジーン殿から城の者が聞いたそうですか、これから馬を仕入れて出発するところだったとか。急拵えで申し訳ありませんが、馬具等も揃えてありますので、どうぞ連れて行って下さい」
「そんな、こんな立派な馬をだなんて!」
「実はな、ユージェリス殿。前々から其方にはあの男の失脚の礼として何かを送りたかったんだ。だが大々的にそちらの国へ感謝状や金銭を贈るのは好まないだろう?秘密裏に、尚且つ喜ばれるものを贈りたかった。受け取ってはくれないだろうか?私も乗った事のある子達だが、聞き分けが良くとても元気だぞ」
…ううん、そう言われちゃうとお断りしづらい。
確かにとても助かる、貸し馬屋は戻す手間もあったし、貰えるならそのまま自分の子にしちゃった方が愛着も湧くし…
「…よろしいのですか?」
「あぁ、名前も付けてみたらどうだ?」
「ジーン、候補ある?」
「良ければ2頭ともユージェ様がお付け下さい」
「うーん…じゃあ…青毛がノワール、黒鹿毛はブラン、かな?」
「素敵な名前です。由来などはあるのですか?」
「んー…精霊語の一種で、色を表すんだ。前にベティ様に教えて貰ったの。ぴったりかなって」
「いいと思います。ユージェ様はノワールですね」
「そう?」
「魔導具で隠す予定ですが、その髪色とそっくりですよ」
「我々もそれを思ってこの子に致しました。ジーン殿は瞳の色から似た子を選んだのです」
「お心遣い、痛み入ります」
成る程、既に決めていたのね。
僕らはブルーノから2頭を受け取った。
「よろしくね、ノワールちゃん」
「あれ?女の子ですか?ブランは?」
「ブランは男の子だよ。女の子だったらブリュンヌだったかなー」
「よく気付いたな」
「わかりますよ、女の子の顔ですもん」
僕がそう言って顔を撫でると、嬉しそうに擦り寄ってくれた。
うんうん、可愛いねぇ。
「…ユージェリス様、やはり女の子の扱いがお上手ですね…」
「顔見ただけで分かるとかすげぇな」
「まぁまぁ、あの子も嬉しそうな事」
「立派な青毛だから、男に見られる事が多かったもんなぁ」
「仲良くやっていけそうで良かったですわ」
ルーシャン様の発言にはちょっと突っ込みたかったけど、一旦スルーします。
あ、そう言えば…
「ガルデン様、一言よろしいですか?」
「ん?なんだ?俺からも個人的に礼を渡した方がいいか?何か欲しいものでも…」
「いえ、ただペネロペさんについて言いたい事があって」
「わ、私何かしてしまいましたか?!」
あ、顔真っ青。
言い方が悪かったな。
「すみません、訂正します。ガルデン様のペネロペさんに対する姿勢についてお伝えしたい事があるのです」
「俺の、ペネロペに対する?」
「えぇ、なんでも愛されてる事に随分タカを括ってらっしゃるようで」
「は…?」
「ですが良くお考え下さい。放置するのと見守るのは違うんです。貴方のそれは『放置』だ。自分以外の男のところへ行くはずがないと思うのは結構ですが、対処するのはペネロペさんです。それに疲れて判断を誤るかもしれませんし、無理矢理迫られて…なんて事もあり得るかもしれない。貴方の発言は牽制になってませんからね?人によっては煽ってると取られてしまいますよ?」
「…っ、ご忠告、感謝する…少々、過信していたみたいだな…」
「いえいえ。こんな事言いたくはありませんが、気の大きいところは前陛下の血かもしれませんね。少し気にされた方が良いかと」
「…それを言われると、物凄く嫌な気持ちになるな…確かに、あの男は歴代の王妃達を我が物顔で所有化していた節がある。俺は…ペネロペをそのように扱いたくはない。不安にさせてしまってすまないな、ペネロペ」
「い、いいえ…私がもっと上手くやっていれば良かったのですが…」
「お前は頑張っている。慣れない王弟妃教育で大変なのに、俺が何もしなかったから…これからは、何かあったらすぐに言ってくれ。勿論、目を光らせておくようにもする」
「ガルデン様…」
ラブラブですねぇ。
これで奪い取れると思っていた騎士や兵士達にも問題ある気がしてきたわ。
あ、何人か目を逸らしたり下向いたりしてる。
まぁこれが牽制になればいっか。
そして何故か侍女さん達から尊敬や好意の眼差しを大量に向けられている…
「まぁガルデン様が不甲斐ないなら、僕がペネロペさんをお守りしますよ?こんな美しい人に曇った表情なんて、似合いませんからね?」
そう言って茶化してウィンクしてみた。
ペネロペさんは少し頬を赤らめて嬉しそうに微笑み、侍女さん達は黄色い悲鳴を小さく上げた。
一方のガルデン様は顔面蒼白です。
「ゆ、ユージェリス殿、冗談だよな?ユージェリス殿に本気を出されたら俺も勝てる気しないんだが?!」
「ははははは!ガルデン、お前の完敗だな!精々ペネロペに振られないようにもう少し頑張る事だ」
「…はい、兄上…」
「うふふ、いい気味です事、お兄様ったら」
「あの『ペネロペは俺の物、愛されてるのは俺だけ』って自信が少しイラッとしてましたの」
「そ、そうなのか?!言ってくれよ!!」
「男性に意見を言うのはご法度でしたもの、言えませんわ。本で読んだ中にちょうどいい言葉がありましたから、シャーナルとルーシャンと話してましたのよ?」
「あぁ、アレですわね、えっと…」
「「調子に乗った女の敵」」
最後は王女達に打ちのめされちゃったよ。
ガルデン様はショックを受けたようで、膝から崩れ落ちていった。
そんな愉快(?)な王族と別れて、僕らはノワールとブランに乗り、王都を出発した。
「まさか食堂での話が宰相様まで伝わるとは思ってもみませんでした…」
「人の口に戸は立てられないねぇ…まぁ、いいんじゃない?手間も省けたって事で。ねー?ノワール、ブランー?」
2頭が嘶く。
同意してくれてるみたい、頭いいなぁ。
「最初はイナガール公爵領ですね。旦那様から身分証は預かって参りましたので、こちらを使用しましょう」
そう、他国に行くには身分証が必要になるんだよね。
貴族なら魔力と爵位、それと家紋などの提示で国境を越えられる。
後は僕がヴァイリー王国に初めて来た時みたいに、その国からの招待状(召喚状とも言う)を使って行くとかね。
普通の貴族は社交界デビュー時に魔力の登録をしてるから、そういう書類がなくても魔導具で精査すればいい。
社交界デビュー前は不用意に出かけるものじゃないから必要ないんだよね。
でも平民は身分証を用意しないと国は越えられない事になっていて、これが簡単ではない。
身分証は王城へ申請して、許可が出ないと貰えないんだよねぇ。
うちの国の場合は父様達魔法師団がその人を調べ上げてから発行する事になってる。
なので職権濫用、ユズキ名義とかも作って貰った。
詐称は罪になるけど、王族公認だからセーフです。
まぁ他国にバレたら面倒な事になるけどね?
出身はアイゼンファルド侯爵領、孤児で、リリエンハイド王立学院を卒院した成人済の狩人…それがユズキという人物。
…嘘は1つだけです、あはは。
ジーンも似たような内容。
…ジーンについては嘘はない、侯爵家所属ってところが書いてないだけで。
「出来るだけ進みたいから、抜けられそうならこの領地はスルーでいいかもね」
「随分足の速い子達みたいなので、それも可能そうですね」
「…敬語はやめてね?」
「…気を付ける」
「ユズキ、ね?」
「…ユ、ズキ」
「僕との関係性は?」
「同じ領地で育った、兄弟みたいなもの…」
「そういう事。頑張ろうね、兄貴?」
「…そうだな、ユズキ」
先行き不安です。
私事ですが、今日は誕生日です。