謎の肉塊《side ルートレール》
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式場内にいたロイドと宰相閣下に陛下達を任せて、騎士団長と共に馬で王都中央を駆ける。
王都内は混乱していたものの、突然消えた魔物に動揺するくらいで済んでいた。
…ユージェリスが素早く離れてくれたお陰だな。
「師長…!!ユージェリス様はどちらへ…!!」
「…人のいない場所、それに私達がすぐに向かえる場所に移動したはずだ。この辺りで当て嵌まるのは…クウィートの森前か、ザダグラズ平原…ただし、ユージェリスがザダグラズ平原に行った事はない」
「…では、クウィートの森前…!!」
「…急ぐぞ!!」
門番は私達の鬼気迫る勢いに押されたのか、止められる事はなかった。
それもどうかと思うがな、職務怠慢だぞ?
そして四半刻もしないうちに、クウィートの森まで辿り着いた。
そこで私達が目にしたものは…
「…あれ?父様、もう来たの?」
…中々血塗れになりながらもケロリとしたユージェリスと、あれ?これ元々なんだったっけ?という気持ちにさせる肉塊であった。
…あれ?本当にこれなんだった?
「ユージェリス…えっと、まさかそれ、さっきの鳥の魔物か…?」
「うん、ちょっと今日は元に戻す事は考えずに八つ当たりさせてもらった。はい、これ魔石ね。ちょうど今取ったばっかりなんだよー」
「あ、あぁ、ありがとう…」
両手で持たないと落としそうなほどの大きさの魔石を、ひょいっと渡された。
…この子を怒らすと本当に怖いな…
我が子ながらドキドキしてしまう。
「ユージェリス様、流石です!」
「ありがとうございます、アイカット様」
騎士団長?!
なんでそんなにキラキラした目でユージェリスを見てるんだ?!
…あぁ、彼女は本当に、2代前の騎士団長である御母堂にそっくりだ。
見た目からはそう見えないが、かなり脳筋なところがあり、強い者がカッコいい!みたいな考えが根底にある。
少し現実逃避をしている間に、鳥の魔物の死骸は魔石をなくして消えていった。
「報告書は後で出すね」
「…頼む」
「では、ユージェリス様、帰りましょう」
「じゃあ父様の馬に乗せてもらおうかなー」
「…ん?『ワープ』で帰らないのか?」
「『愛し子が魔物を討伐した』って目に見えてわかる方が王都民も安心するんじゃない?」
…成る程、我々が王都を離れた事は噂になっているだろう。
何せあんなに堂々と中央を駆けてきたのだから。
ユージェリスと共に堂々と帰れば…まぁ、わかるだろうな。
「じゃあ、行こう?」
「待て、ユージェリス、流石にその格好は綺麗にしてくれ?!返り血酷いからな?!」
「…おぅ、中々やっちゃった…綺麗にしまーす」
気付いてなかったのか?!
頭から血を被ったような状態なのに…
何をどうしたらそうなるのか、後で提出される報告書を見るのが怖くなってきたな…
指を鳴らして姿を清めたユージェリスは、ひらりと私の馬に跨る。
うむ、不敬になるので言えないが、ユージェリスは本当に王子様のようだな。
そんな事を考えながら私もユージェリスの後ろに跨って、騎士団長とともに王都へと戻っていった。
先程よりも少し時間がかかったが、漸く王都前まで戻ってきた。
「ユージェリス様、仮面はされないので?」
「あぁ、もう成人したし、外そうかと思って。今日からは隠す必要もないですからね」
「そうですか。でもお気をつけ下さいね?きっとそのお姿を拝見した女性陣から囲まれる事になるやもしれませんから」
「そこは微かに残った愛し子権限で囲まれないから大丈夫ですよ」
いや、確かに無闇矢鱈と愛し子様に話しかけてはいけないという制限はあるが、挨拶程度なら処罰の対象外だろう。
というか貴族として挨拶しないのは無視している=敵視していると取られかねない。
そこから詰め寄ったりしてくる可能性もあるんだが…まぁ、ユージェリスなら大丈夫か。
多少は私も注意して見ておこう。
「騎士団長、すまないが私とユージェリスの分も門を利用した事後申請をしておいてくれないか?」
「承知しました」
門に辿り着いた際に騎士団長に頼む。
これで私達は馬から降りる必要はない。
…そして、段々と門の周りが騒がしくなってきた。
どうやら私と一緒に乗っているこの子が愛し子様だと気付いたようだ。
初めての素顔に、人集りも増えていく。
「師長、終わりました」
「では行くか」
「はい」
用の済んだ騎士団長も馬に跨り、そのまま一緒に人集りの方へ進む。
やはりと言っていいのか人集りが割れて、特に問題なく進めてしまった。
ただまぁ、視線は凄いけどな。
「手でも振った方がいいかな?」
「…好きにしなさい」
はぁい、と少し気の抜ける返事をした後で、ユージェリスは微笑んでから軽く手を振った。
…なんという事でしょう、次々と女性達が黄色い悲鳴を一瞬上げてから崩れ落ちていくではありませんか。
「…人が、笑顔で人を殺す瞬間を初めて見ました」
「アイカット様、かなり語弊があります。殺してません、多分気絶されただけですから」
真顔で感心する騎士団長に、同じく真顔で否定するユージェリス。
これはゆっくり歩いて被害を拡大するよりかは、さっさと王城に戻った方が良さそうだな…
「…走るぞ、捕まりなさい」
「ん?はーい!」
いい返事だ、流石私の自慢の息子。
騎士団長と共にスピードを上げて馬を走らせながら、ふと疑問に思う。
…ロイヴィスはそんな事ないが、ユージェリスは少し軽くないか…?
確か王妃様曰く『ちょっとチャラい』だそうだが…
育て方間違えたか?
いや、でも精神年齢は前世を含めれば私と同年代なわけで育てたってわけでもない…?
そんな事を考えているうちに、私達は王城に辿り着いた。
入口の承認板に手を付いて、私と騎士団長は入城許可を済ます。
ユージェリスは…今日は先触れで申請していないから、私と新規申請だな。
とりあえず馬を騎士団長に預けて門衛のところへ向かう。
「すまない、息子の入城申請を行いたいのだが」
「師長!お疲れ様です!えっと、息子さん…ですか?ロイヴィス様ならすでに…」
「次男だ」
ユージェリスの背中を押して門衛の前に立たせる。
にっこりと微笑んだユージェリスに、門衛は完全に固まっていた。
「…師長、次男様というと…?」
「何回か会っているだろう?ユージェリスだ」
「こんにちは」
これはいかんな、本当に固まってしまった。
私の権限で強制入城するか…?
「父様!ユージェ!」
「ロイ兄様!!」
王城の中から小走りでロイヴィスが現れた。
ユージェリスは嬉しそうに大きく手を振っている。
「さっき僕が申請しといたから、そのまま入れるよ」
「助かった、流石だな、ロイヴィス」
「王妃様からユージェが討伐に行ったって聞いてたから、きっと来るだろうなと思って」
うむ、いい読みだ、流石私の自慢の息子。
固まったままの門衛は放置して、さっさと入城する。
陛下の執務室へ向かうと、陛下、王妃様、宰相閣下が揃っていた。
「ご苦労だったな、ユージェリス。ここにいるという事は片付いたんだろうが、報告を聞いてもいいか?」
「はい、陛下。とりあえずこちらをご覧下さい」
ユージェリスが指を鳴らすと、全員の前に1枚の書類が現れた。
…成る程な。
「階級としては災害級。ただあの鳥自体うちの国には元々いない種類のものでした。生息地は報告書の通りです。なのでどこかの生息地で魔物化し、ここまで飛んできたものだと思われます。襲ってきた理由ですが…推測に過ぎないんですけど、僕やベティ様達の魔力に惹かれたのかな、と」
「魔力にか?何故そう思う」
「魔物が魔力に惹かれやすい、という研究データは昔からあるが、実際に魔力を放出しても態度が変わらない個体もいたという結果だったはずだぞ?」
「…アイツ、多分なんですけど…他国、またはうちの国で人を食ってると思います」
「「「「「「なっ…?!」」」」」」
「…殴って蹴り付けた時に、アイツの吐瀉物からこんなものが出てきたんです」
そう言ってユージェリスが取り出したのは、ハンカチに包まれたアクセサリー類だった。
女性物と、男性物…破片もあるが、大体4〜5個くらいあるだろう。
「魔物は人を襲います。それは常識ではありますが、食べたという事例を聞いた事はありません。可能性として、なんですけど…アイツ、襲って、そのまま偶然食べて…もしかしたらその食べた人の力というか、魔力を吸収したんじゃないかなって…」
「…それが本当なら、大変な事だぞ…?」
「唯一の救いは、魔物に知性がなくてよかったという点だけか…」
「知性があれば、人を襲って食べるようになるだろうな。それで力を強められると確信すれば…スタンピードよりも酷い事が起きよう」
「どうして力が強くなると思ったの?」
「んー…個体差かもしれないけど、災害級にしては強かったんですよね。まぁフルボッコにはしましたけど…鑑定して天災級じゃなかったので、結構驚いたというか。または、食べられた人の『怒り』を魔石が取り込んだか、かな…」
「…調べる価値はあるが、調べようがないな…」
「…実証実験なんて出来ない案件ですな…」
「その可能性がある、という話で一旦進めた方が良さそうね。それとその遺留品かもしれない物…それの持ち主を探してみて、生きているかを確認する方がいいかしら?」
「そうですね。ただ溶けてあまり形が残っていませんし、鑑定して誰の物かわかるかどうか…ユージェリス様は鑑定されましたか?」
「いえ、まだです。とりあえず回収しただけで…じっくり時間かけて見ればわかるかなぁ程度だと」
「とりあえず私が見るから、何かあればユージェにお願いするわ。多分これじゃかなり集中しないといけないでしょうし。ユージェはもうここまでで大丈夫よ」
「え、いいんですか?」
「折角卒院したばかりだし、なんならお友達とのお別れも済んでないでしょう?あの場で変装解いたのも見られてるだろうし…」
「そうだな、後は我々が調べるから、お前は他の事…自分の事をすればいい」
そうだった、折角の成人したばかりと言うのに、こちらの仕事を押し付けてはいけないな。
ユージェリスが成人後に1〜2年旅に出る事は陛下方と相談し、認知した事。
そして戻り次第国内を巡回し、問題が起きた際にすぐに動けるようにしてもらう。
これはユージェリスと国の間で決めた事でもあった。
愛し子様の不在とは、国の有事に関わるからな。
それを遅らせるような事をするわけにはいかない。
「…じゃあ、わかった事があったらその都度教えて貰えますか?」
「勿論だ。捜査で手伝いを願い出るやもしれないから、その時はよろしく頼むぞ」
「はい!」
うん、うちの子、本当にいい子だ。




