ロールキャベツ男子
僕、覚醒。
目を覚ますと、そこはベッドの上でした。
そりゃそうだ、ベッドで寝たもんな。
でもなんか、お腹に違和感。
体はスッキリしてて、魔力は回復したっぽい。
でもお腹が…
「…ユージェリス様?」
お腹が…めっちゃ空いてる?
と、疑問に思いながら、声がした方を向く。
そこには目を見開き、ポカーンとした表情のリリーが部屋に入ってきたところだった。
…あれ?ロイ兄様とフローネがいない?
本読んで待っててくれるって言ってたのに。
あ、もしかして夕飯に行ったのかな?
うわぁ、そんなに寝ちゃったのかぁ、そりゃお腹も空くわぁ。
「…おはよう、リリー。お腹空いたんだけど、僕の夕飯はあるかな?」
「…おはようございます、ユージェリス様。残念ながら夕飯はありません、今は朝ですから」
…朝?朝?!
え、マジか、あのまま朝まで寝ちゃったの?!
うわぁ、兄様達に悪い事したなぁ、待たせ過ぎた…
「…勘違いなさっているようなのでお伝えしますが、今日はあれから4日後の朝になります…明日は、ユージェリス様のお誕生日ですよ」
「は?」
…4日後…?
え、何、また僕寝込んじゃったの?!
「中々起きられなくて、屋敷中慌てましたが…王妃様から連絡がありまして。愛し子様になられた後、暫くは体が精霊様と馴染むまで寝る時間が多くなるから、自然に起きるまで寝かせておけばいい、と。眠気には逆らわず、好きなようにさせておくようにと言われまして。ですがこんなに寝られるとは…」
「ご、ごめん…」
「いえ、ユージェリス様が悪いわけでもないので、お気になさいませんように。無事に目が覚めて良かったです。こちらにお洋服を置いておきますので、お着替えが終わりましたら少々お待ち下さいませ。私はセイルさんに朝食の準備を頼んで参りますので」
「ん、わかった。ありがとう、よろしくね」
少し微笑みつつ、リリーが一礼して退室する。
そうか、まぁこの体ってユージェリス君のだしな。
魂と体が馴染むのに時間がかかるのか…
そりゃそうだわ、とりあえず着替えよう。
ベッドから降りて、服を脱ぎ捨てる。
…お風呂入ったほうがいいかな?
でも4日入ってない割には髪もベタベタしてないし…
あぁそっか、前も寝込んでたけど、魔法で綺麗にしててくれたのか。
『クリーン』ってやつかな、掃除したり、体の汚れを取ったりするみたいだし。
とりあえず着替えるだけでいいや。
髪も梳かして、右側を耳にかける。
左耳にイヤーカフがある事を確認して、準備完了!
…まだリリー戻ってこないな。
待っててって言われたし…
あ、ゴミ箱(仮)がある!
父様と母様のかな?
運んでおいてくれたんだ、良かったぁ。
ちょっと漁ってみよう。
箱を開けて中を見る。
どうやら2人のが一緒に入ってるみたいだ。
「…おぉ、なんか短剣も入ってるんだけど!危ないけど、カッコいいなぁ。あぁ、母様の装飾品がいっぱいある、これいらないのかなぁ?もったいない…」
「流行遅れのものなどは再利用して領民へ配るのよ。あからさまに壊れてるものも、スキルなどを使って新たに作り直したりするのです。全てを捨てるなんて、さすがにしないわ」
「母様!」
声に驚いて振り返ると、そこには扉を開けた母様が立っていた。
どうやら廊下にはシャーリーとリリーもいるみたいだ。
「そっか、良かったぁ」
「ユージェリスちゃん、具合はどう?さっきリリーとすれ違ったら起きたって聞いたから…」
「もう大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「いいのよ、元気ならそれでいいの。ほら、ご飯食べに行きましょう?」
「はい」
母様が手を差し出してくれる。
僕はその手を取り、一緒に食堂へと歩き出した。
「そういえば、ロイ達の魔導具を見たわ。凄いわね、あんな立派なものが作れるなんて」
「今日は母様達の分を作るから、もらってくれる?」
「もちろんよ!実はね、ちょっと羨ましかったのよ」
母様がお茶目にウインクする。
うーん、麗しいです、母様!
食堂に着くと、驚いたように父様が近付いてきてくれた。
「ユージェリス!もう大丈夫なのか?」
「心配かけてごめんなさい、父様。もう元気だから、大丈夫だよ!」
「そうか、それなら良かったよ」
「ねぇ、父様。あの後からなんかあったりした?ほら、僕関係で…」
「まぁ公にはなってないから、探りに来てる奴らがいたくらいだな。あとはユージェリスとフローネの縁談を勧めてくる奴とか…」
「「縁談?!」」
席についていたフローネと僕の声が被る。
え、もしかしてフローネも聞いてなかったの?
「縁談については、デビュー前だからまだ早いと断ってるよ。それにうちは陛下同様に恋愛結婚派だからな、政略結婚をさせるつもりはないと言っておいた。そしたらデビューが済んだらお互いに会わせて恋愛させればいいとかほざいてきてな。全く、口だけは達者な奴らだった」
「お、お父様、私…」
「あぁ、いいんだ、フローネ。私からの紹介で会わせる事はしないよ。デビューしてから、自分で見つけてきなさい。まぁ出来れば学院に行って貴族籍の者である方がいいが、別にキチンとしている人なら平民だって構わないさ」
おぉ、父様すげぇ。
一応うちって侯爵家だし、それなりに位が高いところじゃないとフローネは嫁げないと思ってた。
僕は次男だし、愛し子だからある意味放任だけど…
…というか、例えば僕が好きな人に告白して、『愛し子だから』OKされる可能性もあるのか…?
えぇー…それは嫌だなぁ…
「後はロイヴィスにも縁談の話があったな。愛し子様本人じゃなくとも、縁つづきになりたい輩からな。まぁロイヴィスにはすでに相手がいるから、そちらは断りやすかったけど…」
「え?!兄様婚約者いるの?!」
父様の言葉に驚いて、席についている兄様を見る。
突然話を振られたからか、とても驚いた顔をしていた。
「え、あ、うん、いるよ。婚約者っていうか、好きな人が。デビューの日に出会ってね、一目惚れしちゃって。つい声かけちゃった。今は週に1回お互いの家に遊びに行って、文通もしてるんだ。月に1回くらいは王都でお忍びデートしてるんだよ、護衛付きだけど」
照れたように顔を赤くして、兄様が教えてくれる。
えぇー…兄様可愛い…
じゃなくて、すでに義姉様候補がいるとか、衝撃だ。
兄様は草食系だと思ってたけど、結構グイグイいくタイプなんだねぇ…
なんだっけ、こういうのをロールキャベツ男子って言うんだっけ?
「ロイヴィスちゃんは旦那様に似たのね。そういうところそっくりよ」
「マリエール!」
ふふふ、と笑いながら衝撃発言をする母様に、慌てたように父様が言葉を遮った。
え、何その話、めっちゃ聞きたい。
馴れ初め?馴れ初めですか?!
僕とフローネのキラキラした目を受けて、父様が眉間に皺を寄せる。
うわぁ、どうしても言いたくないんだなぁ。
「そ、それより、早く朝食にしないか?ユージェリスが目覚めた事を陛下達に報告せねばならんからなっ」
そさくさと席につく父様に、フローネの顔は不満気だった。
僕的には今、根掘り葉掘り聞かなくたっていい。
…今度、母様に聞けばいい話だし。
「ユージェリス…何を考えている?」
「別に?僕の義姉様になるかもしれない方に、今度会ってみたいなーと思っただけ」
あ、いかん、ニヨニヨするのを抑えきれない。
父様は怪訝な顔をしている、疑ってるな。
まぁまぁ、お気になさらずに、父様!