告白
次のフープを操るお姉さんも見事なものだった。
この世界の人ってスキルのせいか身体能力高いから、こういう演目なんかだとそれを遺憾なく発揮するよねぇ。
その横のクラウンはお惚けた動きをしながら手元で小さなボールを操っていた。
握ったボールが消えたり、どこからともなく戻ってきたり。
無詠唱なわけじゃないから、多分手品の類いだろう。
…実は僕、クラウンは苦手だ。
というか、ピエロが怖いのです。
前世からなんだろうけど、あの口は笑ってるのに目が笑ってない感じが嫌なのです。
「ユズキ、どうかした?」
「ん?いや、別になんでも。それよりメイーナ、お腹空かない?」
「ちょっと空いた」
「じゃあ何か摘みに行こうか」
頷くメイーナを連れて、クラウンから離れる。
適当に屋台で買って、近くのベンチに腰掛けて食べる事にした。
軽く落ち葉を払って、ハンカチを敷いてあげる。
「はい、どうぞ」
「…本当に、ユズキは扱いが上手い」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
実はこういう教育をしてくれたのはレリックだった。
特に兄様にはしっかりやってたね、跡取り問題もあるから。
教育はレリック、採点はシャーリーでした。
「美味しい」
「なら良かった」
屋台の料理…小さなハンバーガーは気に入ってくれたようだ。
僕がセイルに教えた(?)ハンバーガーは、今ではアイゼンファルド領の名物になっている。
触れ込みは『愛し子様方絶賛!王妃様思い出のハンバーガー』。
…まぁいいんじゃない?嘘ではないよ。
食べ終わった僕らは、1番賑わっている広場へとやってきた。
子熊の玉乗りや犬が逆立ちで障害物競走してたり…
ここは動物がメインみたいだ。
「凄い、いっぱい」
「動物の調教スキル持ちがいるのかな?結構沢山いるね」
ぽすんっ。
突然、膝カックンを食うかのように膝の後ろから何かがぶつかってきた。
まぁそれくらいじゃ僕は倒れないけどね。
振り返って、下を見ると…
「ゆーちゃ!」
「ラウレア?!」
なんと、僕の天使ラウレアがおめかししてにっこり笑顔で抱きついてきていたのだ!
か、可愛い!!
「ラウレア、ママはどこ行ったの?パパは?」
「まーま、ぱーぱ、あちいく!ゆーちゃ、らうとぎゅー!」
「…えーと」
だよね、2歳ちょっとだもんね。
簡単には答えてくれない模様。
「ユズキ、その子は?」
「んー、僕の知り合いの子なんだけど…確か父親は今日仕事でいなくて、母親か祖父母がいると思うんだけど…」
「ラウレアー?!どこなのー?!」
「あ、いたわ」
一旦メイーナと繋いでいた手を離して、ラウレアを肩車する。
視界が高くなって楽しくなったのか、ラウレアは無邪気に笑ってた。
「ラウレア、ママいた?」
「ままー?あ、いたー!まーま!こちよー!」
「ラウレア!あぁ、よかった、すぐ側にいたのね…すみません、娘をありがとうございました」
深々と頭を下げるリリー。
僕だって気付いてないのかい。
それほど焦ってたのね、しょうがないか。
「リリー姉さん、僕だよ」
「へ…?あ、ゆ…!!ゆ…ずき、君…?」
「ラウレアが僕見つけて突進してきてね。しっかし良くわかったよねぇ?」
「わかうー!ゆーちゃは、ゆーちゃ!」
凄いな、愛の力かい?
そりゃたまにはこっちの変装で会いに行ったりしてたけどさ。
一方リリーは目を白黒させていたが、僕の隣に見知らぬ女の子がいる事に気付き、すぐに立て直した。
「ユズキ、君。そちらは…?」
「同じ学院に通う、メイーナ。今日は2人で遊びに来たんだ」
「…メイーナです」
頭を下げるメイーナ。
リリーは僕から話に聞いてた子だとわかったらしい。
「あぁ、貴女が。私はリリーと申します」
「リリー姉さんは僕の姉みたいなものでね。幼い頃からずっと一緒だったんだ。さっきのカジェスさんはリリー姉さんのお兄さんなんだよ」
「成る程」
「ユズキ君、また遊びに来て下さいね」
「うん、また行くよ。ラウレア、またね?」
「やーだよ!ゆーちゃとあしょぶー!」
「こーら、邪魔しないのよ?ママと遊びに行きましょうねー」
ラウレアはジタバタと暴れるが、リリーはそんな事気にもせず抱き抱えて去っていった。
今度遊びに行く時は何かお土産でも持ってってあげよう。
「…可愛いね」
「だろ?懐いてくれるから余計に可愛くてさぁ、つい甘やかしちゃうんだよね」
「…ユズキの甘やかしって、凄そう」
「そうかな?」
「今日の接し方見てて、そう思う」
「どういう事よ」
なんで目線を逸らした、メイーナ。
「そう言えば、卒院式の話、聞いた?」
「話を逸らしたな?いや、なんかあったっけ?」
「卒院生発表について」
「あぁ…もうそんな時期か」
卒院式では、卒院生による卒院生発表というものがある。
式の最後で3年間学んだ事を活かしたパフォーマンスを行うのだ。
毎年交代で貴族科と平民科が交互に行う。
兄様の時は平民科だった。
各々の得意属性で花や鳥などを作り出し、それが会場を舞っていた。
中々綺麗だったね。
そして兄様と2歳違いの僕の代も、当然平民科なわけで。
そろそろ演目を決める必要があるというわけだ。
「演目に制限なかったんだっけ?やる時間とか」
「ない、でも学院長の許可が必要」
「まぁ危なくないなら大体認めてくれるんでしょ」
「それで、メルヒーやサナン達がセリウス先生に色々確認してた」
サナンは星組の子だ。
何回か話した事がある、メルヒーと仲の良い子。
というか…
「ん?もう案出してるの?教室で話し合ってないけど」
「…話し合った」
「え?」
「ユズキが帰った後とかに、みんなで話し合った」
「ちょっと待って、なんで僕仲間外れにされてるの?!」
「…バレたら、阻止されそうだったから」
おい、なんでまた目線を逸らした?!
何やろうとしてるの?!
「…阻止、するのは僕だけ?」
コクン、と頷く。
つまり、僕的に困る事なの…?!
「…今日のデートは、メルヒーが面白がって決めたのもあるけど、半分くらいは私がその事をユズキに伝えるために仕組んだ」
「…じゃあ、ローグナー達も知ってて…?」
またもやコクン、と頷く。
いやいやいや…マジ何しようとしてるの…?!
「…それで、何を…?」
「…寸劇」
「は?」
「短めの、お芝居をするって。数人が演者で、残りが魔法を駆使して効果音とか背景を担当」
「…それ、別に僕が止めるほどの事じゃ…」
「…ユズキは、演じる側」
「は?」
「題材は『エーデル姫とガルド魔王』」
「え?」
「ユズキは、漆黒の騎士役」
「ん?」
「…頑張れ」
…ドウイウコトカナー?
ユズキの正体に関する告白ではなく、メイーナ達からの事後報告でした。




