デートのお誘い
お茶も終わって訪れたのは、貸し馬屋だった。
流石に歩いてあの山進むのは大変だからねぇ。
メイーナも可愛い格好してるし、汚さないようにしないと。
「おじさん、1頭貸しておーくれ」
「お、ユズキじゃねぇか。なんだ、彼女か?」
「同級生なんだ。ちょっと遠乗りしたいから、2人乗れる子貸してくれる?」
「いいぞ、ほら、アイツ持ってけ」
「ありがと」
実は顔見知りなんだよね。
前に体調を崩して道の隅に蹲ってたのを助けてあげて以来、こうやって顔を出して馬と遊んだりしてたんだ。
使う事があったら助けてもらった恩返しって事で、1回タダで貸してくれるって言ってたから、今回甘えてみました。
「…馬、乗るの?乗れるの?」
「ちゃんと支えるから大丈夫だよ。狩人コースで乗馬もしてるからさ」
乗れないと遠くに狩りにいけないという事で、実は乗馬も授業で習ったんだよね。
まぁ僕の場合は元々乗馬スキルがカンストしてるからなんの問題もないんだけどさ。
指定された馬を撫でてから、ヒラリと跨る。
うん、いい馬だ、これなら大丈夫そうだね。
少し不安そうなメイーナだったが、僕が手を差し出すとすんなり掴んでくれた。
そのまま引っ張り上げて、僕の前に横乗りさせる。
「ん、大丈夫そうだね」
「ど、どこ捕まれば…?」
「僕に寄りかかってれば大丈夫だよ。心配ならこの手綱を片手で握ってて?」
「う、うん…」
言われた通りに少し寄りかかってくれたメイーナ。
左手で手綱の真ん中を握り、右手で僕の胸あたりの服を軽く摘んでいた。
まぁ少し歩いて慣れれば緊張も解れるかな?
おじさんに挨拶しつつ、僕達は門の横の塀伝いに歩き出す。
王都を囲む塀の内側は大きな通りになっていて、そこでは馬も馬車も通っていい事になってる。
あとは王城に繋がるメイン通りも通っていい。
あんまり通る人はいないからかなり目立つけどね。
なのでこのまま屋敷の裏手の森まで行く事にしたわけです。
「どう?馬に乗った感想は」
「…意外と痛くない、ちょっと面白い」
「まぁ僕上手いからね。森に入ったら少しスピード上げるから、今のうちに慣れておいてね」
「わかった」
そうこうしてる間に屋敷横まで着いた。
あ、ジーンが隠れてこっち見てる。
僕は目線で侯爵領へ向かう事を伝えると、少しニヨニヨしながらサムズアップしてくれた。
「んじゃ、森に入るよ。不安になったら僕にしがみ付いてくれれば大丈夫だから。くれぐれも暴れないように」
「うん」
そう言うと、さっきよりも僕に寄りかかってきたメイーナ。
本当は後ろに乗せた方が僕に捕まりやすいんだろうけど、何かあった時に守りやすいのは腕の中なんだよねぇ。
その後も順調に森を進み、例の岩戸の前にやってきた。
なんなくそれも開けられて、軽く馬を走らせながら洞窟を進んでいく。
洞窟を抜けて少し進めば、そこは慣れ親しんだ侯爵領だった。
「…本当に、侯爵領…?」
「そ、山を突っ切れば近いでしょ?」
「驚いた…」
そのまま領地入口の衛兵所へ寄り、馬を預ける。
入領の申請をしようとしたら、まさかのそこにいたのはリリーのお兄さんのカジェスさんだった。
ラッキー、余計な詐称しなくてもいいじゃーん。
「カージェスさんっ」
「…え、あ…ゆ…?!」
「お久しぶりでーす、ユズキでーす」
「…ゆ…ず、き、君…お疲れ様です…」
「あれれー?顔色悪いですねぇ、お疲れですか?」
「…あー、うん、まぁ、今日は人が多くて…ははっ…」
「そうですか、大変ですねぇ。あ、申請お願いしまーす」
「…はい、ユズキ…君と、お友達のメイーナさんね。じゃあこれに手を翳して…うん、大丈夫です。ようこそ、アイゼンファルド侯爵領へ。楽しんできてね」
「はーい」
カジェスさんに手を振って、改めてメイーナと腕を組む。
メイーナもカジェスさんに会釈してた。
にしてもあれだな、先に連絡入れとけば良かったか。
侯爵領はいつも以上に賑わってて人も多かった。
「おぉ、人多いなー。メイーナ、逸れないようにね?」
「うん」
あちこちで客引きとかもしてる。
うーん、いいね、うちの領地が盛り上がってる所を見るのは。
「愛し子様も大絶賛!フライドポテトはいかがですかー?!」
「なんの!うちは愛し子様だけじゃなく侯爵様だって召し上がった事もある老舗のジュース屋だよー!」
…商魂逞しいなぁ。
最近は領民とも距離が近くなったからか、客引きにも使われてるのか、僕は。
まぁ全然構わないけどね。
そして僕の名前出した所は中々人気だなぁ、おい。
「…本当に、来た事ある?」
「ん?愛し子…様が?あるんじゃない?最近は良く領地内をフラフラしてたりするらしいし」
「ふぅん…」
うーん、疑っておりますな。
というか、メイーナには教えたっていいんだよね。
今日、どっかのタイミングで話そうかなぁ…
「あ…ユズキ、あれ」
「ん?」
メイーナの指差す方向を見ると、そこにはサーカスの人が2人で曲芸をしている所だった。
あれだね、前世でいうトスジャグリングってやつだ。
中々盛り上がってる。
その向こうにはフープを駆使して新体操のように踊っているお姉さんがいたり、クラウンがコミカルな表情と動きでお客さんを笑わせていた。
どこかで演奏してるのも聞こえるから、バンド演奏もやってるのかな?
「どれ見る?」
「…手前の2人から見たい」
「じゃあ行こうか」
嬉しそうに頷くメイーナ。
意外とこういうの好きなんだねぇ。
出来るだけ前の方に移動して、ジャグリングを鑑賞する。
「さーて、そろそろお客さんにもやってもらおうかな?やりたい人ー!」
へぇ、観客一体型か。
誰かやる人いるのかなー?
「お、じゃあそこのお兄さん!こちらへどうぞー!」
…なんで僕指差されてんの?
って、メイーナがなんか手上げながら僕を指差して指名してるし!
「メイーナさぁん?!」
「楽しみにしてる」
「どうぞー!」
2人組に引き摺られる僕。
マジかよ、流石にジャグリングはやった事ないわ。
でも…こういうのもなんだけど…
「「「「おぉー!!!!」」」」
出来ちゃうのが僕なんだよねぇ。
流石イケメンチート。
掌サイズのボール3つくらいなら簡単に回せた。
お手玉みたいなもんだしね。
「凄いね、お兄さん!初めてなんでしょ?そんなに上手く回せるなら、僕らと一緒にパフォーマンスも出来そうだ!今から曲を流すから、それに合わせて回してみてよ!どれでやる?ボールのままでもクラブでもいいよ!」
「はぁ…じゃあボールのままで」
そんな事を言っていると、どこからともなくギターを持ったおじさんが現れた。
どうやら同じサーカスの人らしい。
そして曲が始まったんだけど、結構アップテンポだな?!
とりあえずリズムに合わせてボールを3つくるくると空中へ放る。
ちょっと楽しくなってきた。
両隣でお兄さん達はクラブとリングを使って色々技を繰り出していた。
技とか知らないんだよなぁ…
そのままでは地味なので、回し方を変えてみた。
円を描くように回していたのを、クロスさせるように回す。
曲のタイミングに合わせて変えてみると、結構ウケが良かった。
「さぁ、そろそろ終わりだよ…ポーズを決めてみてね」
こそりとお兄さんが呟く。
うーん、ポーズねぇ…なら、まぁ、カッコよく決めてみますか。
終わりそうな雰囲気だったので、1度両手で持ったボールを3つとも高く真上に放り投げた。
その場でバク宙して、着地して、ズレた眼鏡を直してから3つのボールをキャッチ。
そしてちょうど曲が終わり、溢れんばかりの拍手をいただいた。
「君、本当に凄いね!良ければうちのサーカスに入らないかい?!」
「君なら大歓迎だよ!」
「いやぁ、まだ学生なんで遠慮しときます。卒院後もやる事は一応決まってるんで」
「そうか…残念だよ。気が変わったら僕ら宛に『レター』くれよ!ちゃんと近くまで迎えに行くからさ!」
「ありがとう」
お兄さん達と握手を交わし、メイーナの元へ戻る。
おーおー、無表情ながら見開いた目をキラキラさせて、まぁ可愛い事。
「ユズキ、凄い」
「お褒めに預かり光栄です、お嬢様」
気取って執事のように頭を下げる僕。
顔を上げると、珍しくクスクス笑うメイーナがいた。
「…お嬢様なんて、初めて言われた」
「ま、お嬢様でしょ、本当ならね」
「…でも、私は、お嬢様じゃなくて良かった。こうやって過ごす方が、楽しいから」
…普通の貴族令嬢じゃ、簡単に出歩く事も出来ないもんな。
僕は普通じゃないからフラフラしちゃうけど。
メイーナが貴族令嬢だったら…まぁ、義姉?のチェルシー嬢との距離感と変わらなかっただろうな。
あの娘とデートする事はきっとないだろうし。
「…じゃあ、まぁ、お嬢様じゃないメイーナさん。引き続き僕と普通のありふれたデートでもしませんか?」
「…はい、喜んで」
冗談っぽく手を差し出してみたら、意外と楽しそうに微笑むメイーナが手を重ねてくれた。
恋人繋ぎとかじゃないけど、これはこれでなんか恥ずかしいな。
少し赤らんでいるであろう顔を隠すように、僕はメイーナと繋いだ手を引いて次の演目を見に行くのであった。




