パレードの名残
「逆恨みだな」
「逆恨みね」
「逆恨みだよ」
「逆恨みとはな…」
以上、王城に戻った僕達に向けられた陛下、ベティ様、父様、宰相様のお言葉でした。
陛下は乾いた笑いで、ベティ様は微笑んでるけど目が死んでる。
父様と宰相様は呆れた表情でため息をついていた。
「えーっと…僕の予想は当たり?」
「そうね、概ね合ってるわ。奴らはガルデリバルサの元王弟と取り巻き貴族達で、うちがユージェを渡さなかったから滅亡したとかほざいてたわ」
「ここまで手引きしたのが騎士団長の義弟だな。まぁ今は勘当されて平民だから、騎士団長に責任はないが」
「爆弾…というものだったか?アレは過去の愛し子様…いや、向こうの貴族間では『ネギト』と呼ばれていた人々から得た情報で作られたらしい」
「ねぎと?」
「…鴨が葱背負ってくる、の葱に人で『葱人』が由来だそうよ」
「うっわ、胸糞悪い。つかダセェ」
「その言葉の意味はベティから聞いたが、同感だな」
「人扱いでない事は聞いていたが、まさか葱とは…」
「それで?僕がネギトの可能性があるから、それならうちの国の物だって屁理屈で寄越せと言い?陛下達が拒否したから周りの国の攻撃に耐えられなかったと言い?僕さえいれば滅亡する事もなかったと?バカなの?」
「バカだな」
「バカね」
「バカだよ」
「バカすぎる」
あ、宰相様、頭抱えちゃった。
そうだよねぇ、この後の処理とかめんどくさいよねぇ…
ジーンまで『アイツらバカ過ぎるだろ』って顔してるし、黙ってるけど。
「えっと、爆弾について知ってたのは元王弟ですか?」
「あぁ、書類や書物なんかには残してないそうで、王族のみが伝え聞くらしい。元王弟は影武者が本人だと思われて処刑されたようだ。今、例の周辺諸国に連絡を入れたから、じきに迎えが来るだろう」
「うちではジャンジャック…今はジャンと名乗ってるらしいけど、そいつの後処理があるわね」
「まぁ普通に考えれば死刑だな。愛し子様、王太子、隣国の姫君への襲撃に加担したんだ。しかも王都を火の海に変えようとしていた…情状酌量の余地はない」
「全く…漸く幸せを掴んだ彼女が可哀想でならん。表向きは病死とするしかないな、醜聞は避けてやらねば」
あー、そうだよね、何も知らなかったアイカット様が可哀想だわ。
とりあえず今回ジャンジャックが捕縛された事は伝えていないらしい。
僕が『キャリー』で引き渡した先にいた兵士達はアイツの顔を知らなかったらしく、そのまま父様達に渡ったと。
ガルデリバルサの4人組はそのまま城の地下にある罪人用の牢屋に入れられて、兵士達が監視してるらしい。
それでアイツは…これ以上兵士達にバレないように、アレックス様とアイスリーさんの2人が父様の命で別の牢屋に入れて監視してるとの事だった。
兵士達から騎士団長であるアイカット様にバレる可能性もあるからねぇ。
今回の事、王城の図書室に納められる公式な文章には『元ガルデリバルサ帝国からやってきた5名』と記載する事になった。
資料の改竄だって?
王族の見る事の出来る歴史書には正しい事を書く事にはなってるから、許して下さい。
「会ってもいい?」
「アイツにか?構わんが、何を言うつもりだ?」
父様が首を傾げる。
死刑になるなら、もう会う事もないだろうけど、せめて最後に言っておきたい。
陛下の許可も得て、僕は父様と一緒に地下牢へやって来た。
ちなみにジーンは地下牢の入口で待機してくれてる。
「あれ?師長に坊ちゃん」
「あぁ、終わられたのですね、お疲れ様です」
「お疲れ様です、ちょっとお邪魔します」
「奴はどうしてる?」
「暴れて意味不明な言葉を吐き捨てるんで、とりあえず拘束して奴の周りだけ『サイレント』かけてます。うるせぇんですもん」
「『アイツのせいで』とか『俺の物を』とか、そんな感じの事を言ってるようでしたけどね」
「ふぅん…ちょっと、失礼しますね?」
2人の間をすり抜けて、牢屋の真ん前に立つ。
中には血走った目をこちらに向けるジャンジャックがいた。
「…君さ、僕言ったよね?『これ以上アイカット嬢に迷惑かけるな』ってさ。君の耳は節穴だったのかな?」
「…!!…?!」
「なーに言ってるか聞こえないなぁ?まぁ煩くなくていいか。とにかくさ、僕の大事な人達を傷付けようとしてたんだ、少しは反省してほしいわけよ」
「…!!…!!」
「…無理か。まぁ君があの石持ってなくて良かったよ。持ってたらその意味のわかんない怒りのせいで最悪な事態になってたかもだし。本当にさぁ…」
僕は付けたままだった仮面を外して、前髪を改めて掻き上げる。
ジャンジャックは僕の顔を見て、叫ぶのをやめた。
そして困惑の面持ちでこちらを見つめて、何かを呟いているようだった。
「…っ?!」
「自分のしでかした事の重大さ、あの世で後悔しな。お前の逝く先は、お前の大好きなお貴族様やお前の貶した平民のような人間ではなく、きっとただの虫ケラだよ」
「…っ!!………」
父様達が息を飲む音が聞こえた。
あれ?なんか僕、そんなに怖い顔してた?
振り返るとみんなの顔色が悪かった。
「…もう大丈夫です、帰りましょうか」
「あ、あぁ…」
「…坊ちゃん、怖ぇ…」
「お怒りのユージェリス様を見るのは2回目だが…相変わらずの殺気ですね…」
え?そんなに?
「…殺気を放ったつもりはなかったんですけど…」
「え、じゃあただ睨んだだけ?クッソ怖かったんすけど?」
「ほら、罪人をご覧下さい…気絶してますよ?」
「え?」
振り返ると…うん、見なきゃ良かったレベルの気絶した奴がいた。
白目剥いて泡噴いて…気のせいかな、下半身が濡れてない?
うわぁ、匂いそう、とりあえず『カバー』で塞いどこ。
「坊ちゃんって睨み利かすと師長がキレた時とそっくりっすね」
「そんなところが父様に似てるって言われても複雑なんだけど…」
「うむ…」
「ま、まぁ、それでもユージェリス様はカッコいいですから、ね?」
アイスリーさん、それフォローになってます?
とりあえず後の事は2人に任せて、僕は父様と牢屋を出た。
「そういえば、奴は来世で人間になれないのか?」
「あぁ、さっきの話?リリエンハイドが言ってたんだけど、命を粗末に扱う人間は次の生を人間以外の虫とか動物とかで過ごす事になるんだってさ。しかもガルデリバルサと関係持っちゃったし、アイツは精霊達に認められないでしょ」
「成る程な、そう言う事か」
「出来れば蚊とかになって、追いかけ回された挙句にプチッと潰されてほしい」
「中々過激だな…そんなに嫌いだったのか?」
「…うーん…人としてはどうでもいいんだけど、アイツの憎悪の先がいただけないんだよねぇ…」
アイスリーさんが言ってた『アイツ』は、多分マーロ先輩かユズキ、そして『俺の物』って言うのは、アリス嬢の事だろう。
今、2人はこの王城にいる。
もし、万が一、この王城の地下にあるエリア石にその憎悪が反応しちゃったら?
今は封印してあるからそんな事はないだろうけど、それでも…
「…大切な人達に危害が及ぶなら、僕だって容赦はしないよ。さっきので戦意喪失してくれればラッキーかな?」
「…まぁ、トラウマにはなったかもな」
えー?そんなにー?
意識してやったわけじゃないけどなぁ。
そして次の日、学院に通うと話題はルーシャン様で持ちきりだった。
まぁ突然あんな風に現れたら驚くよねぇ。
「それでね、ルーシーさん、手を振ってくれたのよ!」
「俺にも振ってくれた!」
「あの方が未来の王妃様なら、本当に嬉しいよな!」
うんうん、いいねぇ、受け入れられてるねぇ。
…あ、アッシュ君、めっちゃ顔色悪い。
そうだよねぇ、ルーシャン様と全く絡まなかったからねぇ。
多分ルーシャン様もアッシュ君を覚えてはいないだろう。
「それにさ、愛し子様も素敵だったよねぇ!」
「あたし、微笑んで手を振ってもらっちゃった!」
「えー?!羨ましーい!」
…あぁ、そういえばメルヒーは妹さんとメイーナと一緒にいたなぁ。
妹さんの声聞こえたから、反応したんだっけ。
「それに従者の人もカッコ良かったよね!」
「あぁ、あの眼鏡の人?あの人、平民出身で学院の卒院生なんでしょ?凄いよねぇ、愛し子様の従者なんて!」
「なんでも侯爵領の人でもあるんだって!ユズキ、知ってる?」
…やべ、話振られちゃった。
「あー、うん、ジーンさんね。知ってる知ってる」
「凄ーい!知り合いなんだ!ねぇねぇ、ジーン様ってどんな方なの?どうやって愛し子様の従者になったの?」
「是非聞かせてくれ!」
うわ、アッシュ君まで釣れちゃったよ。
ってかメルヒー、ジーン様って。
「…なんか、ジーンさんが幼い時に侯爵様のお屋敷に行った時にお会いになったらしいよ。それで愛し子様が気に入られたとかで、自分の従者に勧誘したんだとか」
「くっ…!やはり忍び込むしかないのか…!!」
「いや、そんな事したらあかんやろ。捕まるで?」
「招かれてなのか迷子とかの偶然なのかはわかんないけど、小さい子供だから許された事だろ?」
「俺らもうすぐ成人する歳だし、『迷子で入っちゃいました!』で済む問題じゃないだろうなぁ…」
確かに、今勝手に入ってきたら即逮捕か追い出しだわ。
そんな顔しても無理だぞ?アッシュ君。




