将来の話
こうして和解(?)した僕達は、リリエンハイドから聞いた愛し子についての話を改めてした。
前世の記憶は殆どないが、知識としては残っている事や、それが領域の料理なんかとして扱われていた事も話した。
4人とも驚いて色々質問したりしてきたよね、答えたりしてちょっと疲れたよ。
そして色々話し終えて、ソファに座って一息つく。
「…ユージェリスが女装上手かったのは、元が女性だからだったんだなぁ…」
「そりゃ27年間女でしたから、所作くらいならまだまだ可能ですよ」
「あれで何人の男が泣いたと思ってるんだ。アレックスやランフェスだけじゃなく、あの場でお前を見た数名があの後ちょっとした恋煩いを起こしていたんだぞ?」
「まぁ見た目はマリエール様にそっくりだったしな…」
「覚えてないですけど、前世ではそんなにモテてないと思うんですが…やっぱり見た目ですかね?」
「ジェリスなユージェは見事に小悪魔系の美少女だったわね」
「ふむ、私は見ていないから、是非今度見せてくれ」
なんで遠い目をするんですか、父様と宰相様は。
そしてちゃっかり何依頼してるんですか、エドワーズ様は。
「さて、今回の話は今後国王、王太子、宰相のみの口頭で語り継ぐ事にしよう。書面に残すわけにはいかないからな。未来の愛し子様には最初に国王と宰相が会った際に謁見の間で伝えるものとする。異論はあるか?」
陛下の言葉に全員が首を横に振る。
しかしふと思い出したかのように、エドワーズ様が手を上げた。
「父上、聞いた後でなんですが、王太子は外しても良いかもしれません。自分で言うのもなんですが、所詮は王太子…変わる可能性だってあります」
「あぁ、そうだなぁ…確か以前、どこかの国で王太子や宰相子息なんかがどうしようもない男爵令嬢にうつつを抜かして廃嫡になった事もあったし、その方が良いかもしれん」
「「何それ、それなんて乙女ゲー?」」
凄いな、是非その話の顛末を聞きたい。
「「「「おとめげー?」」」」
「えーと、前世でそういう体験型の物語が流行ったんですよ。その男爵令嬢視点で進んでいくんです。恋愛する相手を選べて、それが王太子だったり宰相子息だったりして」
「若い女の子達の間でも流行ってたじゃない、そういうお話とか。きっとそれを元に作られた話だったのねぇ」
「あぁ、あったなぁ、そんなの。ローズマリーが読んでたような…」
あぁ、そういえば出会った時にナタリーがそんなドロドロなやつ読んでたな。
そして第2王女のローズマリー様も手を出してたのか、あれに。
…腐ってないとイイデスネ、腐腐腐。
そんな話をした、約1ヶ月後。
リリエンハイドが言っていた未来がそのまま的中した。
どうやら僕達が特に動かなかったため、この未来が選択されたらしい。
動いてたらどうなっていたのやら。
皇帝は処刑、殆どの貴族達もなんらかの処分が下ったそうだ。
やっぱりうちの国には殆ど影響がなかった。
強いて言うなら、海側の領地に何家族か亡命というか、移民として受け入れたくらい。
ただ1つ、僕から陛下にお願いした事があったので、それは崩壊させた国々に伝えられた。
『不当に処刑された者達の亡骸を探し出し、改めて正しく供養してほしい』と。
噂でそういう者達がいると掴んでいたという事にして、陛下経由で伝えて貰った。
どうやら城の地下に大きな穴があって、その中に大量の亡骸が捨てられていたらしい。
なんの亡骸かわからなかったが、うちからの申し出で理由がわかり、可能な限りは親族を探して引き渡すか丁重に埋葬してくれるそうだ。
周りの国々が良識的なところで良かったよ。
次に転生する時はもっと幸せになれるように、精霊の名前を使って詠唱で祈っておいた。
これでガルデリバルサも力を使って彼らを幸せに導いてくれるだろう。
きっとそれが『精霊ガルデリバルサ』としての最後の仕事になるんだろうな。
そして少しだけ時は流れて、今日はマーロ先輩とアリス嬢の卒院式です!
まぁ式に参加しないから、見送りのために講堂の外で待ってるだけなんだけどさ。
他にも何人か待ってる人達がいる。
マーロ先輩は無事、騎士になれる事になった。
衛兵と私兵は各領地でこれから試験や面接があるけど、騎士と兵士は卒院前にそれを行い、配属が決まる。
前騎士団長の時には賄賂やコネで入隊も出来たけど、今はアイカット様がそれを許さず、実力で騎士になれたんだとか。
流石です、しかもトップの成績だなんて!
ちなみにアリス嬢は王城に侍女見習いで入る事にしたそうだ。
近くにいれるっていいですねって言ったら、顔を真っ赤にさせていた。
「おっ!ユズキ!」
式を終えて出てきたマーロ先輩を見つけた。
声をかけてくれたのでそっちに近付く。
「ご卒院おめでとうございます、マーロ先輩」
「おう、ありがとな」
「マーロさん、ユズキ君」
アリス嬢も出てきた。
アリス嬢はあのカミングアウト以降、暫くはぎこちなかったけど、今では前と変わらず接してくれるようになった。
どうやらマーロ先輩には黙ってるみたいだけど。
「アリス様もご卒院おめでとうございます」
「ありがとうございます、ユズキ君」
「本当にユズキには世話になりっぱなしだったよなぁ。ま、これからもし何か困った事でもあれば相談しろよな、力になるからさ!」
「はい、ありがとうございます」
わしゃわしゃと僕の頭を乱暴に撫でるマーロ先輩。
アリス嬢、そんなアワアワしなくても大丈夫ですよー?
「マーロ先輩も早く騎士爵取って、アリス様を迎えに行って下さいね?」
「ゔっ…!そ、そりゃ、頑張るけどさぁ…」
「早くしないと、僕の方が有名になってアリス様を掻っ攫っちゃいますよー?」
「はぁ?!んなの絶対ダメだからな?!てかお前が有名とか何年先の話だよ!!」
「さぁ?もしかしたら来年辺りに一躍有名人になっちゃってたりして?」
「んなわけないだろ、俺の騎士爵の方が先だっての!」
あぁ、アリス嬢、意味がわかったのか下向いて笑っちゃってるし。
頑張ってほしいものですね、マーロ先輩には。
「なんか、平和だねぇ」
ニコラがチーズケーキを頬張りながらポツリと呟く。
今日は漆黒期最終日で、明日から最終学年として過ごす事になる。
という事でその前に恒例のお茶会をしていたんだよね。
今日はルーファスの家です。
勿論妹さんは不在。
「平和が1番ですよ」
「フラグが立ちそうだからそういうのは言っちゃダメだよ?ニコラ」
「フラグってなんだ?」
「伏線が回収されるって事。戦場で『俺、この戦争が終わったら結婚するんだ…』とか言ってる人が速攻死んじゃうとか、そういう感じの」
「あぁ、つまり今ニコラが『平和だねぇ、この平和がずっと続けばいいのに』とか言うと問題が起きたりするって事ぉ?」
「そういう事ぉ」
「成る程、勉強になった」
「ユージェ君は色々な言葉をご存知ですのね」
まぁ前世の知識ですけど。
というか、この世界って言霊が強いから、本当に起こり得るんだよねぇ…
…だからナタリーの予言も当たったのか…?
ひぃ、怖い怖い!
「そういえば、みんなの進路はどうするんだ?俺は今年の後半から休みは父と一緒に王城で宰相の仕事について少しずつ学んでいく事になるが」
「僕はすでに仕事してるからなぁ」
「え、そうなの?いつも授業受けてるじゃん」
「エドワーズ様が王太子になったからねぇ。基本は親父殿や兄貴が平日付き添ってくれてるけど、休みの日は僕が真面目に影やってたりするよぉ?」
「今日はいいんですの?」
「エドワーズ様に外出予定がなければ問題なし、いぇーい」
「緩いなぁ。あたしはとりあえず領地に戻って領主の仕事を学ぶよ。結婚してもしなくても、女男爵になる可能性もあるからね」
「あら、そうするとあまり会えなくなってしまいますね…私はまだお相手は決まってませんが、一先ず花嫁修行に入りますね。行儀見習いでどこか高位の貴族のお屋敷に入るかもしれませんが、まだ決まってませんの」
「あぁ、就職するわけじゃないんだ?」
「これでも伯爵令嬢ですから、その辺のお店で雇って貰えるものでもありませんわ」
「ティッキーディッキーなら雇ってくれるんじゃないか?」
「あれはあたし達ってより、レオが欲しいだけでしょ。または知識的にユージェとか」
「ニコラ、ちょっと黙ってくれるかなぁ?鳥肌が止まらないんだよねぇ」
未だに苦手なのか、レオは。
「ユージェは結局狩人になるの?」
「んー、狩人やりながらジーンとジャルネに行って、とりあえず欲しいもの手に入れたら帰ってくるよ。途中でも『ワープ』でたまには帰ってくるからさ」
「じゃあ月1でまたお茶会しようよ!ユージェ、あたしも拾って『ワープ』してくれない?」
「いいよ、国境のとこなら行った事あるしね」
「やったね!」
「ジャルネから帰ってきたらどうするんだ?」
「エドワーズ様には一貴族として扱って構わないって言ってあるし、仮面外してちゃんと奉仕活動でもするかなぁ。王国内回っておけば、とりあえずどこでも駆け付けられるようになるし」
「偉いねぇ、ユージェは」
「通常時はやる事はないからね。スタンピードとか災害とかがなきゃ、愛し子なんてただのお飾りだし。後はなんか正体隠して商売でもするかな。従者達に給料支払えないし、万が一結婚したら無職なんて拙いでしょ」
「愛し子様は望めば国から金出すって聞いたが?」
「やだよ、そんなの、悪いじゃん」
「偉いねぇ、ユージェは」
ニコラ、なんか親戚のおばさんみたい。




