精霊召喚
「これはどうだ?ユージェリス殿。嘘か本当かわからんが、建国の際に精霊様から授かったと言い伝えられている指輪だ。代々王太子妃様が王妃様になられる際の式典で付けられるものでもある」
そう言って宰相様が絢爛豪華な調度品の中から持ってきてくれたのは、リリエンハイドの髪色のように真っ黒な水晶の付いた指輪だった。
台座に嵌った状態のそれは随分立派なものに見える。
「嘘か本当かって、鑑定した事は?」
「一般人には鑑定不可と出るんだ。ちなみに王妃様も以前確認していたが、指輪として特に変わった表示はなかったそうだ」
「へぇー…」
ベティ様がわかんないなら、僕でわかるのか?
とりあえずジッと見つめてみる。
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【鑑定結果】
黒水晶の指輪
説明・黒水晶で出来た指輪。王位を継ぐ者の伴侶を認める指輪。(裏メニューあり)
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…うん?裏メニュー?
もう1度その表示をジッと見つめる。
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【鑑定結果】
黒水晶の指輪(精霊水晶の指輪)
説明・精霊リリエンハイドから初代王妃に贈られた指輪。精霊を呼び出す事の出来る召喚媒体。
使用方法・装着し、詠唱による召喚魔法を使用する。
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…おぅ、じーざす。
当たりじゃねぇか。
「…なんというか、僕って規格外だなぁ…」
「どうした?まさか何かわかったのか?」
「これ、使えそうです。持ち出しても?」
「まさか本当にこれが?!」
持ってきたのは半信半疑だった模様。
めちゃくちゃ驚いてるし。
とりあえずそのまま宰相様に持ってもらったまま、陛下の執務室に向かう。
途中でベティ様、父様、エドワーズ様に『コール』して、同じく執務室に来る様にお願いした。
執務室の中には陛下しかいなかった。
「なんだ、ユージェリス、遊びに来たのか?」
「ご無沙汰しております、陛下。実はお時間を頂戴したく、参上致しました」
「時間?今ならちょうど手が空いてるが…どうかしたのか?」
キョトン顔で首を傾げる陛下。
するとタイミング良く3人も執務室へやってきた。
「先日ぶりだな、ユージェリス」
「エドワーズ様、ご機嫌よう。ルーシャン様とか如何ですか?」
「ん?ん…ま、まぁ、な…」
珍しく頬を赤らめるエドワーズ様。
上手くいってるようで何よりです。
とりあえず全員揃ったので簡単に説明。
僕がガルデリバルサの件を知ったと知り、宰相様以外の全員が目線を逸らした。
黙って片付けようとしてくれた事は感謝してるけど、噂になるくらいなら先に教えて欲しかったよね。
「…それで、精霊様に尋ねると?」
「精霊ガルデリバルサはあの国の人間を嘆いていたと聞いています。もしかしたら事情を知っているかもしれません。ただ会った事はないので、とりあえずリリエンハイドに聞こうかと」
「さすがユージェねぇ、そこを使ってくるだなんて…」
「精霊様に直接お会い出来るのか…少し楽しみだな」
「私は祝福をいただいた件についてお礼を言えるだろうか?」
「どうでしょうか、ヴァイリーが体現した時には僕の防御魔法がなければ声すら発せられなかったようですし。とりあえず先に魔法はかけるようにしますね」
「ではユージェリス、早速始めてくれないか?」
「はい、陛下」
ささっと『ガード』をかけてから、指輪を借りて右手中指に嵌める。
どうやら自動伸縮機能が付いてるのか、ぴったりだった。
「さて…詠唱か…恥ずかしいな…」
「ユージェの詠唱って貴重よね、厨二病乙」
「余計に恥ずかしくなるから黙ってて下さい、ベティ様」
「…詠唱の何が恥ずかしいんだ?」
「詠唱を覚えている方が凄いのに…?」
「我々ではわからない事なのでしょうな…」
「ちゅうにびょうおつ…?」
やべ、これ以上疑問を持たれる前にさっさと済まさないと!
「では、いきます。《汝、方途を見出し我が問いに答えよ。想いよ、精霊の元へ届け、“サモン:精霊リリエンハイド”》!」
僕の言葉に呼応するように、黒水晶が光り輝く。
黒い光が一箇所に固まり、人の形を取っていき、僕の知っているリリエンハイドの姿が現れた。
『久方ぶりなのら、サガラユヅキ』
「やぁ、リリエンハイド。僕の事はユージェリスと呼んでよ」
『そうだったのら、ユージェリス。おぉ、そっちはササガワアイリなのら?久しぶりなのら、名前はベアトリスだったら?』
「え、えぇ、ベアトリス=リリエンハイドよ。リリエンハイド…とお呼びしても?」
『構わないのら。君らは我に傅く必要もないし、寧ろ我が謝罪するべき存在なのら。敬称などいらないのら』
まぁベティ様にはちゃんと説明してあるし、リリエンハイドに怒ってるわけではないから謝罪を要求する事もないだろう。
それよりも僕達が話してるのを頭を下げながらも驚愕の表情で固まってる4人が問題か…
いくら僕の『ガード』で防いでるとは言え、リリエンハイドの圧力…魔力の質?が凄いからか、現れて早々に跪いて無言を貫いている。
「リリエンハイド、聞きたい事があるんだけど?」
『どうしたのら?時間はあまりないが、答えられる事なら答えるのら』
「ガルデリバルサ帝国、なんかあった?」
僕の言葉に、リリエンハイドの眉間に皺が寄る。
『…なんか、とは?』
「僕を欲して、なんか陛下方に圧力かけてきてるらしいんだよね。正直、かなり困る」
『…どうやら、ガルデリバルサがこの国で言う愛し子とやらをよこさない事に不安と不満が募って、同じような人間を自国に呼び寄せようとしてるのら』
「「は?」」
ため息をついて、呆れたように言い放つリリエンハイド。
つい僕もベティ様も素の低い声が出てしまった。
どうやら4人も同じ気持ちらしく、固まっていた表情を崩してこちらを見ていた。
『この前も言った通り、あの国にもこの国で言う愛し子とやらが存在したけど、ここ数十年は現れてないのら。ガルデリバルサがあの国の現状を憂いて連れて来ないから、焦った現皇帝がユージェリスを欲してるのら。ベアトリスじゃないのは、きっとさすがに王妃を寄越せなんて言えなかったからなのら』
「…まさか、2人いるんだから1人くらいうちに寄越せって?あの国は何を考えてるのかしらね?」
ベティ様の声が心なしが怖い。
笑ってるのにおっかしいなぁ?
『元々なんて言われたのら?』
「書状が来たのよ、陛下宛にね。要約すると自国の貴族令嬢の婿に来い、それによって同盟を結んでやる、断ったらどうなるかわかってるな?って感じだったわね。全てが上から目線だったわ。国力なんか比べても、うちとそんなに大差ないのにねぇ?』
「なんならうちの方が上なんじゃないかな?貧富の差が激しいみたいだし、奴隷制度もある。貧しい生活を送る国民からの信頼とか皆無でしょ」
『その通り、あの国は破綻寸前なのら。周りの国はいつ攻め込むか機会を狙ってるのら』
「「「「んなっ…?!」」」」
あ、やっと声が出たみたい。
政治的な話だからか、咄嗟に反応しちゃったみたいだねぇ。
『そこの4人、発言は許可するのさ。もう少し力を抜くといいさ』
「…ご配慮、痛み入ります。名を名乗っても?」
『構わないのさ』
4人が順番に名乗る。
リリエンハイドは嬉しそうに笑っていた。
『うむうむ、うちの国はまともな奴らが殆どで頼もしいのら。真面目に過ごせなのら』
「「「「はっ、精霊様の名にかけて!」」」」
かったいなぁ、でも4人とも嬉しそうだわ。
「あ、あの、精霊リリエンハイド様。先日は私に対し、お言葉を賜り、本当にありがとうございました」
『あぁ、其方はユージェリスの友らしいから、特別なのら。これからもこの子を頼むのら。この子が愛し子になったのは我の責任でもある、其方はユージェリスを個人として見てくれてるのが我は誇らしいのら』
「あ、ありがとうございます!」
エドワーズ様、うっれしそぉー!
そうか、普通は精霊に対してこういう態度になるのか。
ちょっと適当な態度し過ぎたかな?
少し気をつけよう。




