騎士団長の婚約者
その後、色々と珍しいものとか買って早々にリリエンハイド王国へ帰還しました。
ジーン、その眼差し、そろそろやめてくれないかな…?
僕は逃げるように部屋に篭って、アイカット嬢用の美顔器と化粧水の作成に取り掛かった。
やっぱり魔法って便利だよね、必要な成分とか簡単に抽出出来るんだもん。
意外と前世で化粧品や化粧水について調べていたようで、記憶の中に色んな情報があって役立った。
リリエンハイド王国では見つからなかったホホバもヴァイリー王国にあったしね!
オイル抽出しまいた。
そこから色々作っては自分の肌に塗って試し、効果を実証。
1番良かったものにレモンとオレンジの香料を少しだけ混ぜて、仕上げはオリジナル魔法『ビューティー』と『キープ』でチート化粧水の出来上がり!!
やべぇもんが出来た気がする。
ってか精製水に『ビューティー』だけでも良かったんじゃないか?
ちなみにこの世界の化粧水ってそこまで高性能じゃないんだよね。
前世で言うフローラルウォーターみたいな感じ?
肌には優しいけど即効性はない。
ずぅーっと使い続けて効果が現れるタイプ。
なんなら無属性魔法の『クリーン』を使えば一応見た目は綺麗に出来るから、化粧水を使ってない人もいる。
でもやっぱり『クリーン』だけだと限界があると思うんだよねぇ。
もっちもちのぷるっぷるですっべすべなお肌は『クリーン』じゃ無理なんです。
それを可能にするのが僕作のこの化粧水!!
…自分用にも多めに作っておいた。
お金に困ったら売り出すかな。
と言うわけで、なんだかんだ化粧水作りは1週間かかった。
美顔器は瞬殺だったのに。
おばちゃんとこで買ったラッピング用品で可愛くデコレーション。
リボンでお花も作ったぜ!
そしてやってきました、いつもの王城。
お宅訪問はやめといた、まだ未婚の女性だからね。
ちゃんとジーンを伴って王城を闊歩する。
案内頼もうとしたら裏手で侍女さん達が争ってるの見えて断っちゃったんだよね…
キャットファイト、壮絶。
「ユージェ様、騎士団室をご存知で?」
「いや、知らない」
「え」
「確かこっちに騎士団の演習場があるって聞いたから、こっちかなぁと」
「…俺も知りませんよ、衛兵コースは王城に来ませんから」
「マジかぁ、どこかなー?先触れは出したから、後で迎え来るかもしれないけど、あそこで待つのは怖くて…」
「…声、丸聞こえでしたもんね。あれは王城の侍女としてどうなんすか」
「僕的にはアウトじゃないかなと思ってる。ちなみにジーン狙いの子もいたよ」
「え」
「愛し子の従者だもん、いくら平民でも地位は高位貴族相当でしょ。というか、卒院したら僕からジーンにお給料払わなきゃだし、なんか商売でもしようかなぁ」
「え?!ゆ、ユージェ様から?!」
「だって僕の従者だし、僕の都合で雇ったからね。連れ回してるのも主人なのも僕だよ?学生のうちは父様に払って貰うけど、卒院して大人になったら僕が払わなきゃ。まぁそれなりに今でも蓄えあるけどさ」
「…既に今でも凄い金額貰ってるんすけど…」
「じゃあ負けない!」
「やめて!!」
何さ、父様に張り合っちゃダメってか。
僕が何売っても儲かるんだろうなぁ、愛し子のネームバリューで。
それもつまらんから、製作者非公開でやってみるのもありかな。
「…あ、ユージェ様、演習場ですよ。何人か騎士や兵士がいるみたいです」
「本当だー」
開けた場所に着くと、金属のぶつかる音が響き渡っていた。
でもそれも僕に気付くと一斉に静かになる。
うーん、続けて貰って構わないんだけど…
「主人は皆様のお手を止めるために参ったのではありません。どうぞ続けられて下さい」
ジーンが僕の前に立ち、騎士達に続けるように促してくれた。
いいね、さすがジーン、仕事出来るね!
少し困惑したような騎士達だったが、僕の意思だとわかったらしく、練習を再開した。
ただまぁ、ちょっとぎこちないけど。
「従者殿、発言をお許しいただけるかご確認いただけますか?!」
突然僕達に近付いてきた青年に、ジーンが少し警戒する。
そして僕に目線で問いかけてきたんだけど…
なんか見覚えあるんだよなぁ、えっと…
「…あぁ、アイカット嬢…いえ、アイカット様のご婚約者様ですね」
「はっ!!第2部隊副隊長、リュシエル=カラフスタと申します!!」
そうそう、この人だ。
赤毛混じりの茶髪に、漆黒の瞳、細マッチョタイプの中々なイケメンさん。
垂れ目な感じが可愛いけど、この人があの情熱的なプロポーズをしただなんて、驚きだよねぇ。
「カラフスタ伯のご子息だとお聞きしています。改めましてユージェリス=アイゼンファルドと申します」
「ご、ご丁寧に痛み入ります!!」
父様から聞いたけど、カラフスタ伯爵は教育部門の副大臣をされているらしく、とても良い人なんだとか。
だからそのご子息ならとみんなでお祝いムードらしい。
「騎士団長から本日お越しになるとお聞きしております!差し出がましいようですが、騎士団室までご案内してもよろしいでしょうか?!」
「是非お願いします。実は諸事情で半分迷子状態だったんですよ」
「ま、迷子ですか…それでは、こちらへどうぞ!」
リュシエル様が先頭に立ち、道案内してくれる。
通りすがった何人かの文官さんなんかが僕達も2度見してた。
まぁ騎士団の人が案内してるのが僕って、どういう状態だって驚くかぁ。
暫く歩くと、大きな扉の前まで来て止まった。
「ここが騎士団室です。今の時間は騎士団長と左翼の副団長しかいないと思いますので」
「そうですか、よろしければご一緒にいかがですか?」
「いえ、私はまだノルマがありますので!御前失礼致します!」
90度の直角に頭を下げて、走り去っていくリュシエル様。
…やっぱ、まだ怖がられてるのかな?
騎士団の人って僕の事怖がってる節があるんだよねぇ、最初のスタンピードのせいで。
ちょっと切ない気持ちになりながら、僕は扉をノックするのだった。




