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臨時放送《sideルートレール》

パパ目線2つ目。

部屋を退室し、その足で大広間へ向かう。

すでに師団全員が揃っていたので、その輪に近付く。


「師長!さっきのアレなんすか!」

「まだその話引きずってるのか」

「いやだって、めっちゃいい匂いだったんすよ?!」

「確かにあの匂いは素晴らしかった。私もなんだったのか教えていただきたいものですね」


アレックスの言葉に、ランドールが続く。

ランドール=ローゼンは子爵家の出身で、アレックスと同じ師団長の1人だ。


「ご子息からの差し入れとおっしゃっていましたが、作られたのは侯爵家の料理長ですか?気になりますねぇ、あの中身」

「…臨時放送が済んだら教えてやる」

「言いましたね?!絶対っすよ?!」


さすがに今は言えん、『領域の料理』だなんて。


「陛下、王妃様、ご入室致します!」


ジェイク=オルテス宰相閣下から、大きな声で伝えられる。

師団は列を整え、片膝をついて頭を下げた。

扉が開き、お2人が入られて奥へと進み、王座に腰掛ける。

その横に宰相閣下が立たれた。


「全員、面を上げよ。突然の放送になってしまい、すまんな。今回の件では臨時の報酬が出る、それで手を打ってくれ」

「陛下、まだ私も内容を聞いておりませぬ。一体何が起こったというのですか。ご説明下さいませ」


宰相閣下が少し困惑気味に陛下へ進言する。

まさか宰相閣下にも伝えていなかったとは…


「…ついに、新たな愛し子様が見つかった」

「なんと?!誠にございますか?!」

「本当よ、ジェイク殿。私も昨日会って、確認したわ」

「王妃様がそうおっしゃられるのでしたら、本物なのですな…ローレンス様が死去されてから、5年ですか…して、新たな愛し子様はどちらに?」

「それをこれから発表するのだ」

「先に教えていただけないので?」

「放送前にいらぬ混乱を招きたくないのでな。それに彼奴はまだデビュー前だ」


陛下の言葉に、大広間が騒つく。

ローレンス様とは、5年前に亡くなった先代愛し子様でウルファイス伯爵家前当主だったお方の事だ。

あの方は特殊で、ローレンス様以外にウルファイス伯爵家を継ぐ者がおらず、特例で愛し子様が当主になられたんだったな。

確かローレンス様が愛し子様と発覚したのは王妃様と同じく成人の儀が終わった後だったから、発表もすんなり終わったと聞いた事がある。

…ユージェリスはまだ5歳だ、情報は出来るだけ漏洩しない方があの子のためだ。


「では、今回はどのように発表なさるので?」

「どのような立場の人間かという事などだな。名前を態々発表はしない。まぁ気付く者はすぐに気付くであろうが、貴族間への正式な発表はデビュー時にしようではないか」

「承知致しました。それでは、魔法師団、準備をせよ」

「はっ」


宰相閣下の言葉に、我々は動き出す。

全員で円になり、右手を天へ掲げる。


「行くぞ、お前達」

「「「「「《エリア》」」」」」


白い光が天高く立ち上がり、天井のステンドグラスを通り抜ける。

そしてそのまま王国全土へ広がっていく。

…やはり、中々にキツイ。

全員で体からほとんどの魔力を放出させないと、王国全土には届かない。

…ユージェリスだったら、もしかして成人する頃には1人で賄えるんじゃないか?

政治的利用は違法行為だが、万が一の際には手伝ってもらえると助かるな。

そんな事を考えていると、体からの魔力の放出が止まった。

無事に王国全土に『エリア』が行き渡ったらしい。

その状態から、俺は宰相閣下に目線を向けて、軽く頷く。

宰相閣下は気付いたらしく、陛下へ頭を下げた。


「陛下、準備が整ったようですので、中央へ」

「うむ」


宰相閣下に促され、陛下が我々の円の中央へ向かう。

複数人で円形発動した魔法は、中心地に立つ人間へと発動委託する事が出来る。

つまり、後は陛下自身が『エコー』を使えば、王国全土へ響かせる事が出来る。


「それでは、いくぞ。《エコー》」


陛下の周りに白い光が現れる。

どうやら発動は上手くいったようだった。


「リリエンハイド王国全国民に告ぐ。予はセテラート=リリエンハイドである。動きを止め、今から話す事をよく聞くように。これは王命である」


部屋中に響くような声に、少し顔を顰める。

通常の声プラス『エコー』の声が響き、大広間では必要以上の大音量になってしまっていた。

…いくら魔力を温存したかったとはいえ、『シャット』でも使っておけばよかったな。

あ、王妃様と宰相閣下使ってる、ずるいぞ。


「皆の者に朗報だ。ローレンス=ウルファイスが5年前に亡くなって以来、『精霊の愛し子』は王妃ベアトリス=リリエンハイドのみとなっていた。しかし、先日ついに新たなる『精霊の愛し子』が現れたのだ。だが新たなる『精霊の愛し子』はまだ社交界デビュー前のため、詳細は伏せる。本人がデビューを果たす際に、改めて発表するので暫し待て。わかっているとは思うが、『精霊の愛し子』に必要以上に接触したり、利用しようとすることは、予が許さぬ。…大事な予の近しい血縁者だ、肝に命じておけ」


…それを言ったら、誰だってわかるんじゃないだろうか。

王族でデビュー前なのは、第一王女と第二王子と第二王女。

三親等以内で言えば、陛下のご兄弟は俺の妻、マリエールただ1人なので、うちのユージェリスとフローネだけ。

先代陛下のご兄弟はご結婚前に病死されていたから、先代王妃様のご兄弟関係のお子様…つまり陛下の従兄弟が3人いる程度。

だがそこまで陛下との関係性があるわけではないし、その従兄弟達の子供でデビュー前が2〜3人いたかどうかだ。

『近しい血縁者』と言った事から、少なくとも三親等以内。

そして陛下のお子である王女様方が愛し子様ならば、陛下や王妃様が直々に守れる分、発表しても問題はないはずなので、王女様方ではないと推測できる。

そうすると当てはまるのは、陛下と関わりのある我が侯爵家が最有力候補となり、ユージェリスとフローネしかいない。

…かなり絞られるな、ほぼ答えだ。


「放送は以上だ。手を止めていたものは仕事に戻れ。皆の者、そなたらに精霊様の加護があらん事を、《ブレッシング》」


陛下が言葉の最後に祝福を与える。

あの魔法は歴代の王族のみが使用出来るとされるものだ。

放送の最後に使用する事で、正統な王族からの放送であったと証明する。

でないと、勝手に王族の名を使われてありもしない内容を吹聴される可能性があるからな。


そして陛下が円形発動の中から去り、王座へと戻る。

我々も円形発動を解き、先程と同じ隊列に戻る。

全員疲労の色が濃いが、陛下の言葉に驚きを隠せないようだった。

…何人かは俺の事を見ているな。


「魔法師団、ご苦労であった。今日は帰ってゆっくり休め」

「陛下、お言葉ではございますが、我々に愛し子様のお名前をお教え願いますでしょうか?」

「…まぁ、魔法師団も無関係というわけではないか。よかろう、この事は他言無用だ。よいな?」

「「「「「はい、精霊様の名にかけて」」」」」

「…新たなる愛し子様は、そこにいるルートレール=アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドだ」


大広間に騒めきが広がる。

なんだか全員の視線が俺に向いてる気がするな。


「お前達に詮索してくる輩もいるだろうが、答える必要はない。寧ろそいつらの事はさっさとルートレールに報告し、野放しにするんじゃないぞ」

「陛下、少しよろしくて?」


陛下の言葉に続くように、王妃様が言葉を発する。

陛下は頷き、発言を許可した。

真剣な眼差しの王妃様が、こちらを向く。


「…王妃としてではなく、『精霊の愛し子』として、貴方達に告げておきます。あの子を困らせるような事をしてみなさい。全員…《無事でいられると思わない事ね》」


王妃様の言葉に、部屋全体の空気が張り詰めた。

なんなら多少息苦しくさえ感じる。

これが愛し子様の力…


「以上よ、今日はご苦労様」


王妃様が微笑んだ瞬間、空気が戻った。

そして陛下と共に退室する。

残っていた宰相閣下は息を吐き、俺を見据えた。


「ルートレール殿、この後の会議については?」

「伺っております。妻も参りますので、共に参加予定です」

「マリエール様もか…わかった、闇の1刻に水の間にて行う。遅れないように」

「承知致しました」


宰相閣下も退室する。

残されたのは師団だけになった。


「…というわけだ、解散」


俺は一言だけ発し、その場を後にしようとする。


「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ?!」


でもアレックスに左腕を掴まれて、逃げられなくなった。

ついため息が出る。


「…なんだ、アレックス。もう帰っていいんだぞ」

「まだ混乱してて帰れないっすよ!え、師長のご子息が愛し子様って本当なんすか?!」

「陛下の言葉を疑うのか?事実だよ」

「滅相も無い!でもまだ受け入れられないっつーか…」

「アレックスに同意見です、師長。さすがの事に、変な声出しそうでしたよ」

「それはみっともないからやめてくれ。ほら、私は妻を迎えに行かなくてはならないんだ、離せ」

「そんなっ…!あ、えっと、さっきの話!放送が終わったら教えてくれるって言ってた、あの箱の中身なんだったんすか?!」

「そうそう、贈り物と言われていたあの…は…こ…あれ…?あれって確かご子息からって…」


ランドールの言葉が次第に詰まる。

そうか、気付いたか。

さすがは師団長、理解が早くて助かるよ。


「え?ランドール殿、どうしたんだ?」

「…師長、まさかあれは…」

「…すまんな、お前ら。私にはアレを説明する事が出来ないんだ。まぁ、強いて言うなら…とてつもなく美味かったぞ?『領域の料理』は」

「「「「「?!」」」」」


俺がニヤリと笑って告げると、その場にいた全員が目を見開いた。

あのアレックスでさえ口を開けて固まり、俺の腕から手を離す。

平民出身だが、お前も知っていたのか。

まぁ知識がなければこの師団でやっていけないからな。


全員が呆けているその隙に、俺は大広間を退室したのだった。

次回からいつも通り、ユージェリス目線です。

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