地雷と爆破
少々暗い&流血表現ありです。
結局あの後、チェルシー嬢とシンディとドロシーの3人と踊った。
チェルシー嬢は顔を真っ赤にさせながら緊張した面持ちだったけど、シンディとドロシーとは意外と楽しんで踊れたよ。
ちなみに最後にニコラへもう1回申し込んでみたら断られた。
というか、なんかよくわかんないけど背中を叩かれた、結構痛いの。
めっちゃ怖い顔で食べ物の名前をぶつぶつ言われた。
なんか呪われそうなので、今度何種類か作って献上しようと思う。
僕何かしたかな?
そんな感じで無事(?)に舞踏会を終えたわけです。
ガルフィ様やお祖父様達は暫く滞在するらしい。
代わりなわけじゃないが、陛下とベティ様が翌日からヴァイリー王国に向かっていった。
やっとサルバト様の王位継承が行われるらしい。
2人は招待を受けて出かけていったってわけ。
ついでに遠回りしながら向かって、王国の視察をするらしい。
なので1ヶ月くらいいないそうだ。
エドワーズ様は陛下達の代理でお留守番。
わからない事はガルフィ様に師事するらしい。
ちなみに僕にも招待状は届いたけど、ベティ様と揃って愛し子が2人も国にいないのは拙いってなったので、僕もお留守番。
ベティ様が帰られたら『ワープ』でお祝いに行こうと思ってる。
そんな2人が不在のある日、普通に授業を受けてからみんなでご飯を食べていると、突然目の前に『レター』が届いた。
「『レター』やん。誰から?」
「誰だろう?」
「もしかして愛の告白なんじゃなぁい?!」
「おいおい、メルヒー、んな馬鹿な」
「…否定は難しい。最近ユズキはモテる」
「え、そうなん?!羨ましいわぁ!」
クネクネと態とらしく振る舞うロジェス。
全く、メイーナも変な事言わないの!
差出人名がないんだけど…ルーファス達ではないよな?
特に悪い感じもしないし、危機察知スキルも反応しない。
とりあえず開けてみるか。
「えーっと…はぁ?!」
「な、なんだよユズキ!」
「ごめん、僕帰る!!」
「どないしたん?!」
「えーと、んーと…知り合いが危篤らしいから、早退するって先生に言っといて!!」
「「「はぁ?!」」」
「…気をつけて」
叫ぶ3人を他所に、真剣な面持ちでメイーナが僕に告げる。
どう解釈したかはわかんないけど、愛し子関係で何かあったと思ってるんだろう。
まぁ実際そうなんだけどさ。
食べかけのサンドウィッチを口に詰め込んで、その場から走り去る。
ここじゃ『ワープ』出来ないし、しょうがないから王城への専用通路を使う事にした。
普段から人通りの少ない場所だし、この通路の入出記録は学院長しか見ない。
しかも許可証所持か、現王族から見て三親等以内の血縁者でないと通る事も出来ないから、入る瞬間さえ見つからなければ問題ないのだ。
向かう途中で姿を隠して、そのまま通路に飛び込む。
一瞬抵抗はあったけど、そのまま通過出来た。
魔法を解きつつ全速力で走り、王城側の扉を勢いよく開く。
扉が開いた事により、側に立っていた兵士2人が緊張の面持ちでそれぞれの武器を構えて、僕を睨む。
「貴様、何者だ?!何故この扉を通過出来た?!」
しまった、姿を見えるようには戻してたけど、見た目が…!!
すぐさま無詠唱擬きで着替えて、髪色などを変えていた魔導具も外す。
アイテムボックスからいつものマントを取り出して、手櫛でザッと髪型を直す。
「…突然失礼する。私の名はユージェリス=アイゼンファルド。父であるルートレール=アイゼンファルドより招集を受けて登城した。どなたか魔法師団の方を呼んできてはいただけないだろうか?」
僕の姿を改めて確認した兵士達は、一斉に顔色を悪くした。
それもそうか、愛し子に武器向けちゃったんだもんね、気にしてないけど。
「い、愛し子様っ…?!」
「何故ここから…?!」
「は、早く師長か師団長クラスを…!!」
「ユージェ!!」
遠くから声が聞こえた。
そちらを見ると、兄様が慌てたようにこちらに走ってきてくるところだった。
「兄様!!」
「「ろ、ロイヴィス様!!」」
「すまない、彼は正真正銘私の弟だ。緊急事態につき、ここの扉を使用したんだ。悪いがこの事は王族以外には他言無用で頼む」
「しょ、承知致しました!!精霊様の名にかけて、必ず!!」
「同じくであります!!」
「ありがとう、聞き届けたよ」
汗を拭いつつ、息を整えてから僕を見る兄様。
不謹慎だけど、とっても色気があってカッコいいです、兄様!!
「やっぱりここから来たね、僕の読みは合ってたようだ」
「読み?」
「父様は『ワープ』で来ると思ったみたいだけど、ユージェは王城内に『ワープ』で来ない事にしたって前に言ってたからね。1度屋敷に帰るのも時間かかるし、学院からならここが最短だ」
「流石はお兄様です!」
リアルさすおに!
とりあえず小走りで移動する事にした。
王城内で全力疾走はあんまりよろしくないからねぇ…
「…父様からの『レター』は読んだね?」
「…うん、まさか、ガルフィ様が…」
「まだこの件は公にしていない。お2人ともお部屋にいて貰って、王族以外では父様と師団長クラス、それに騎士団長と副団長達までしか伝わってない。母様にはユージェと同じタイミングで『レター』を出したから、そろそろこっちに向かってると思うよ。全く、つくづくユージェが王妃様達と一緒に出てなくて良かったよ…エリア石が使えない分、こちらから遠くに『レター』を送る事は出来ないからね。早く開発を急がないとな…」
「それで、容体は?」
「芳しくはないね。使われたのがガルデリバルサ帝国の『呪いの剣』と言われてるものらしいから…」
「ガルデリバルサぁ?!あの?!」
「ユージェ、知ってるの?」
「…精霊達から聞いてる。あそこには奴隷制度っていうか、まぁそういう価値観を持った人間が王族なんでしょ?」
「うん、だからあまり他国から良い目は向けられてないんだ。奴隷には『隷属の首輪』を付けて飼い慣らし、殺す時には一刺しで死に至る『呪いの剣』を使う。まさかガルフィ様があんなものを持っていたとはね…」
そう、ガルフィ様は自殺を試みたらしい。
魔導具で張った『バリア』のドームに立てこもり、そんな剣で体を貫いたと。
知らせを受けた僕が急いでるのは、この為だった。
まさかそんなヤバイもの使ってたとはな…
そして例の誓約のせいで、ソフィア様も倒れられたそうだ。
多分、ガルフィ様はそれが狙いだったんだと思う。
この前の言葉…きっと、今回の件についてだったんだ。
もっと早く気付いていれば…!!
「あそこだよ、ユージェ」
小走りとは言えないスピードになったお陰か、目的の場所にはすぐに着いた。
扉の前にはアイカット嬢とアレックス様が立っていた。
「ユージェリス様!」「坊ちゃん!」
「失礼します!!」
ノックはせずにそのまま飛び込む。
「ユージェリス!!」「ユージェリス様!!」
血を流しながら倒れるガルフィ様。
『バリア』のせいで近付けないのか、周りを囲むようにしながら魔法を使う父様とランドール様。
どうやら聖属性持ちがここにいるようだ。
という事は、ソフィア様の方には女性のイザベル様と第6師団長のクルール様がいらっしゃるんだろう。
師団長で聖属性持ちじゃないのは、アレックス様とロイド様とアイスリーさんと、第4師団長のウィザー様だって聞いた事がある。
ちなみにウィザー様とクルール様には未だに面識がない。
「ユージェリス、頼む!!ガルフィ様を!!」
「任せて!!」
もしもの時の為に、アイテムボックスから大量のポーションを出しておく。
僕特製なので、効果は通常の1本MP500回復を超える1本MP1000回復だ。
そして美味しいフルーツ味。
「ガルフィ様には、言いたい事が沢山ありますからね!《リリース》!!」
解除魔法で『バリア』を外す。
『バリア』の解除にはMP5000くらい必要だから、父様でも出来なかったようだ。
一瞬の抵抗の後、パリンとガラスが割れるように砕け散った。
それにより、さっきまであまり効いていなかった父様達の魔法が届き、徐々にガルフィ様の顔色が良くなっていく。
そこへダメ押しの僕の聖属性魔法。
「食らえ!《ヒール》!!」
一層部屋の中が光り輝き、目に見えるようになる頃には顔色の戻ったガルフィ様が倒れているのみになった。
刺さっていた剣は僕の魔法の衝撃で抜けたらしく、部屋の片隅に転がっている。
父様とランドール様は膝から崩れ落ち、乱れた息を整えていた。
僕も少し呼吸が乱れているが、もうそんな事知ったこっちゃない。
「ゆ、ユージェ?!」
ドスドスと部屋の真ん中へ向かい、倒れているガルフィ様の胸倉を掴んで持ち上げる。
そしてそのまま、右の拳でガルフィ様の左頬を思いっきり殴り付けた。
あまりの光景に、それを見ていた全員が口を開けて目を点にしていた。
「起きろ!!クソジジイ!!てめぇ自分が死ぬ事で全てを終わらせようとしてんじゃねぇ!!聞いてんのかゴルァ!!」
「…あ、うん、聞こえてマス…」
いつの間にか目を覚ましていたガルフィ様が、ポカンとした表情でこちらを見ていた。
「ごめんなさい、は?」
「へ?」
「迷惑かけたんだからごめんなさいくらい言え!!」
「ご、ごめんなさい!!」
半泣きで叫ぶガルフィ様。
それでも僕のイライラは止まらない。
「あの人を変えられないからって、自分と心中で終わらせようとするな!仮にもアンタ、王だった男だろうが!!そんな奴が王妃だった奴と心中自殺とか、この国の恥になるわ!!他国に付け入る隙与えて嬉しいか?!」
「え、あ、いや、それに対しては対策を取った上で、そんなつもりは…」
「還暦越えてバカな事しか思い浮かばんのか!!それに身内からしたら悲しい、辛い以外のなんでもないわ!!というか、ベティ様なり、僕なりに相談すればいいだろ?!あの人なんとかしたいなら、なんとかしてみせるし!!」
「え…?でも、私が言っても変わらなかったんだから…」
「アンタ言い方が甘いんだよ!!遠回しに言ってわかる人じゃないだろ!!というか『魅了』の話を本人にしておけば良かったんだ!!こんな事になるなら、『魅了』に気付いた時点で反逆罪とか王族冒涜とかで処分なり処刑なりすれば良かったんだ!!」
「そ、それは、セテラートにとっては母だったし、それに誓約があったから…」
「だーかーらぁ!!それを愛し子に相談すれば良かったんだよ!!『魅了』を完全でなくとも封印出来たベティ様がいたんだろ?!もうちょい願ってなんとかしとけよ!!」
「い、愛し子様を個人の悩みに使うのは…」
「こんな大事になるくらいならそんくらいやるわ!!愛し子を神聖視し過ぎなんだよ!!いっそ愛し子を不審視してるエドワーズ様を見習え!!」
「「「「「え…」」」」」
あ、やべ、言っちゃいけない事言ったかも。
ちょっと頭に血が昇り過ぎたわ…
とりあえずそのまま床に軽く突き飛ばすようにガルフィ様を離す。
あー、ダメだ、ムカムカする。
自分で命を断つ人って、僕にとっては地雷だな。
自分が死ねば他の人が助かるって考えは嫌いだ。
しかも他に方法があるにも関わらず。
だからと言って、先輩みたいに自分が追い詰められてっていうのも嫌だけど…
でも…先輩と違って、今度は助ける事が出来た。
「…次は、あっちだな」
「ゆ、ユージェ…?」
「兄様、ソフィア様は?」
「え?1つ上の階だけど…」
「ありがとう」
そのまま部屋から出て、走る。
後ろから呼ばれる声もしたけど、よくわからなかったからスルー。
さっさと片付けてやる!!
暗いままで終わらせたくなくて、長くなっちゃいました…
あと2〜3話くらいしたらいつも通りの日常に戻る予定です。