表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/363

ガルフィ様の独白〜2〜

「…それでまぁ、遺言というわけではないが、第2夫人の弔い終わった後に妻の元へ行ってみたら…全く悲しんでいなくてね。第2夫人の事よりも、息子に仕事を引き継いだ事で彼に暇な時間が出来た事が嬉しくて仕方なかったようだ。それを見て、本当に気が狂いそうになったようだよ、彼は」


…ん?待って、なんかおかしい。

これってガルフィ様の話で、第2夫人ってアマーリアお祖母様の事だよね?

つまり妻ってソフィア様の事で…


え?

なんでガルフィ様がソフィア様を憎む(・・・・・・・・)発言をしてるの?

あんなに愛おしそうにしてたのに?


「そこから彼は、自分を偽る事だけに力を注いできた。言葉巧みに息子へ自分と妻を国外へ行かせるように仕向け、妻の扱いが上手い数人を引き連れて旅に出るようにした。そこから徐々に彼女への指摘を始めたんだ。否定は彼女の最も嫌う事だったから、考えを改めさせるのには苦労したようだよ。途中では一思いに殺してしまおうかと思ったらしい」


はははっ、と軽く笑うガルフィ様は、正直怖かった。

だって、いくらなんでも…


「でも、殺せないんだよねぇ。本当、昔の彼は馬鹿だった。耐毒効果のある魔導具のアクセサリーや防御付与されたものなんかをプレゼントしてたんだから。しかも所有者しか外せないものだし、何より結婚の際に交わした婚約の誓いが拙かった」


あの奴隷契約的魔導書類か!!

あれやったの?!?!


「彼らの誓約内容は内密にされていたけど、大まかに2つ。1つが『不変の愛』、変わらず相手を愛し続ける事。もう1つが『刻の共有』、どちらかの命が尽きる際にもう1人も一緒に生を終えるという誓いだ。これのせいで彼は妻を殺そうとしても半強制的に妻の()が体を蝕み、手が止まる。そして例え動けたとしても、彼女を殺せば彼も死んでしまう。正常な状態なら結ぶ事はなかった誓いだね」


この内容も知らなかったようで、全員顔面蒼白だ。

それもそうだ、一国の主が妻の死と共に死ぬかもしれなかったんだから。

突然陛下と王妃を失う事にでもなっていたら、国の混乱は免れなかっただろう。

だから王妃時代、ソフィア様って殺されなかったのかな…

ガルフィ様が意思とは関係なく一生懸命守ってたから…


「全く、本当に彼は疲れてしまったようだ。せめて子供達には迷惑のかからないようにしようと頑張ってるようだけども。あと、彼女を公爵令嬢にした(・・)のも悪かったよねぇ。子爵令嬢のまま(・・・・・・・)ならここまで我儘にならなかったかもなのに」


…ん?ソフィア様、子爵令嬢だったの?

前に陛下が『元々公爵令嬢』って言ってたのに…

小首を傾げていると、それに気付いたお祖父様が小声でそっと教えてくれた。


「…私達くらいの年代くらいしか知らんが、ソフィア様の生まれは子爵令嬢だ。社交界デビュー時に心奪われたガルフィ様の命で、7歳で子供のいなかった公爵家へ養子に出されている。ガルフィ様が当時の公爵とソフィア様の実の母である子爵夫人の不倫を捏造し、公爵家に責任を取らせる形でな。勿論デマだが、王家の決定を覆す事は出来なかった。元々怪しい噂もあったらしい。そこでこの件には緘口令が引かれ、子爵家はお取り潰し。ソフィア様はその捏造を信じ、金持ちになれるという理由もあって喜んで従ったそうだ」

「…『魅了』の力って酷過ぎません?」

「…公爵が子爵に恨みがあり、また国を乗っ取るためにソフィア様に魔法印を刻んで駒にした、という話も私と前宰相の間であった。公爵も子爵も今では亡くなり、真相は闇の中だがな」

「もうやだ、昔のこの国真っ黒でドロドロ過ぎる…」


そんな暗い時代に飛ばされてきたのか、ベティ様は…

いや、それよりもその前からいた愛し子のローレンス様が可哀想か…

どうやら僕の呟きが聞こえてしまったようで、ガルフィ様にはクスリと笑われた。

もうなんか、あっちのお祖父様怖いんですけど。


「さて、随分長い事独り言を話してしまったな。まぁこれで最後(・・・・・)だから」


にっこりと笑い、さっきまでの愛おしそうに見つめる目をした。

その視線の先には、両手で危なっかしくティーカップを持つソフィア様と、心配そうに付き添いながら手慣れた様子で別のカップを持つお祖母様の姿だった。

もしかして…ガルフィ様にはソフィア様の姿が見えてないんじゃないかな?

じゃなきゃこんな目は出来ないはず。

あの瞳には、一体誰が見えているんだろう。


「ガル!見て!私お茶煎れられたのよ?!」

「あぁ、本当だ。もし我儘が叶うなら、そのお茶は私が飲みたいところだな」

「え、本当に?!じゃあ飲んで飲んで!お孫ちゃんにはララのもあるし!」

「そうか、ありがとう」


そう言って嬉しそうなソフィア様からティーカップを受け取り、一気に飲み干すガルフィ様。

美味しいよ、なんて側から見たらイチャイチャしている光景も、さっきの話を聞いた後だと多少の違和感を感じた。

ティーカップをお祖母様に渡し、ガルフィ様がこちらを向き直す。


「では、私達は挨拶回りの続きをしてくるよ。ファスナー、付いてきてくれ」

「…御意」

「ララティエは彼にそのお茶を。暫くは家族と一緒にいるといい。ファスナーも途中で戻すから」

「承知致しました」

「じゃあね、君達」


ガルフィ様が軽く手を振ってから僕の横を通り過ぎていく。

ちなみにソフィア様は僕に見えない位置でべったりとガルフィ様の腕に抱きつきながら歩いていた。


「…これが私の罪だよ、君も気をつけるように。さらばだ、彼女の血を受け継ぎし可愛い我が孫よ」

「っ?!」


僕にだけ聞こえるような小声で、ガルフィ様が呟いてからすっと頭を撫でていく。

触れるだけだったその手はすぐに消え、3人は人混みの中へと消えていった。


僕がこの言葉の本当の意味を理解したのは、もう少し時間が経ってからだった。




「…少し、驚いたな」

「…えぇ、まさか母が愛されていたなんて…絶対に、死の淵まで信じていなかったでしょうね…」

「貴方達、一体なんの話をしているのです?」


父様と母様の言葉に、眉間に皺を寄せて尋ねるお祖母様。

どうやら父様がさっきまでの話を『メモリー』で見せてあげるようだ。

にしても、さっきの話って他の人に聞かれてないよね?

僕達からみんな距離取ってたからな…


「…誓いについては全く存じ上げませんでしたが、あぁ、こちらについては、身に覚えがあります」


お祖母様が深いため息を吐く。

身に覚え?


「…当時、私はアマーリア様の仕事の秘書をしていましたからね。今思えば、確かにアマーリア様を見る陛下の…ガルフィ様の目は、少し違っていました。そしてそれを、アマーリア様は心底嫌がっていたものです」

「「「え?」」」

「あの方は愛される事を知らないのです。民や娘…マリエールさんを愛する事は知っていても。友愛や親愛は受け取れても、恋愛感情は受け取る事をしなかったお方ですから」


…なんだろう、ちょっと親近感。


「…なんだかユージェリスに似ているな、そういうところは」

「そうねぇ、やっぱりユージェリスちゃんはお母様似だったのねぇ…」


え、まさかの発言。

2人とも、そう思ってたの?

ていうか恋愛感情苦手な事バレてた?!


「意外とわかりやすいぞ、今の顔とかもな」

「もう少し隠せるように気をつけましょうか、ユージェリスさん」

「まぁまだ成人前だし、せめてロイヴィスちゃんくらいは隠せるように頑張りましょうね」

「あぁ、ロイヴィスは比較的頑張ってるな、めんどくさがりなところを上手く隠してやり過ごしてる」

「あら、そういうところ、あの子はガルフィ様に似てるのかしら?」

「やだわぁ、性格面で私と旦那様に似てる要素が欲しいぃ〜」

「陛下を忘れるところとかは似てたぞ、マリエールと」

「まぁ、そんなところが。なら私達に似てるところも欲しいですわね」

「この子達が歳の割にしっかりしているのは、お義母様達に似ていると思いますよ」

「それなら嬉しいですね」


僕を放置して話をする3人。

いやいや、ちょっと待って、意外と僕って顔に出てたの?

ポーカーフェイス頑張ってたと思ったのに…

って、兄様がめんどくさがり屋?!

そんなバカな!!

僕やフローネがお願い事をしても、全く嫌な顔しないでやってくれたりしたのに…


あぁもう、よくわからない…

疲れた僕の頭に、お祖母様の煎れてくれた紅茶の甘さが染み渡るようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] お茶飲んじゃまずいんじゃ。この作品にはこんなドロドロは似会わんなー。まぁストーリー上必要だとは思うけどね。 [一言] そろそろユージェにも決まった相手が欲しいですね。ラブラブが見たいで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ