芽生えた恋心?
「あ、あの、ユージェリス様…父を紹介しても…?」
困ったように僕に問うチェルシー嬢。
うん、まぁそうなるよね。
どうすっかなぁ…
なーんて考えてたら、僕の前にルーファスとニコラが立ち塞がった。
え、何事?
「チェルシー嬢、公爵様にご挨拶させていただいても?」
「え、あ、はい!」
「…ご無沙汰しております、カルデラ公爵。ルーファス=オルテスです。昨年の花見の会以来ですね」
「…あぁ、オルテス公の。君も愛し子様と仲が良いのか…そちらは?」
「お初にお目にかかります、カルデラ公爵様。第3魔法師団長、フラメンティール男爵が嫡女、ニコラ=フラメンティールと申します。学院ではチェルシー様にとてもお世話になっておりますの。以後、お見知り置きを」
いつもとは別人のように、綺麗なカテーシーを披露するニコラ。
おいおい、本当に公の場ではすげぇな!
ちゃんとした貴族令嬢じゃん!
「あぁ、最近昇爵した師団長の…ご丁寧な挨拶、痛み入ります。バラク=カルデラと申します、どうぞこれからも娘をよろしく」
…自分とではないんだな。
結構権力を気にするタイプか、男爵令嬢如きって思ってる感じだな。
あー、僕の苦手なタイプじゃん…
にしても、咄嗟に庇ってくれたルーファスがイケメンで惚れそう。
まぁ惚れないけど。
ニコラも素早かったなぁ、びっくりだよ。
「勿論、チェルシー様とはユージェリス様同様お友達ですもの。ご存知ありませんでした?これからも今まで通り仲良くさせていただきますわ」
にーっこり、いい笑顔で公爵と対峙するニコラ。
え、そんな子でしたっけ?ニコラさん…
しかも、遠回しに自分を蔑ろにした公爵へ『あら、知らないの?あたしこれでも愛し子様とお友達と言える立場にいるのよ?貴方は話す事すら出来ていないけどね?知らないなんておっくれってるぅー!』と言ってるし。
権力大好きなおっさんに対して渾身の一撃だな。
事実、めっちゃ口の端をピクピクさせてるし。
引き攣っていらっしゃるぅー…
ニコラも学院でやっぱり虐めとか女同士のドロドロとかあったのかな…?
…いや、あの教室の人見る限り、チェルシー嬢もこんな感じだし、問題起こしそうな人はいない…ような…?
何よりナタリーがいるんだから、何かあればすぐに相談してくれるはず。
ニコラ、一体どこでそんな対処法覚えてきたの?!
「き、貴様…」
「そういえば」
「あ?」
ニコラを背に庇いつつ、ルーファスが珍しく微笑む。
やだ、めちゃくちゃ貴重な顔なんですけどー!
そして公爵、ちょっと化けの皮が剥がれかけてるよ?
成人前の子供にそんなに言い返されると思ってなかった?
残念、意外と僕達って単純じゃないんだよ。
「先程父から、陛下からの伝言を承りまして」
「へ、陛下の…?」
「えぇ、なんでも『ユージェリスと話したいという人間がいたら、全て王室に報告するように。直接私が仲介しようじゃないか』との事でした。なので後で陛下にご挨拶する際にお伝えしておきますので、それまでお待ち下さい」
「…っ!!」
おぉう、まさかの陛下、先手を打ってくれたのか。
助かりまーす!
公爵、段々と顔を真っ赤にして、今にも怒鳴りそうな雰囲気だな。
させるか、この2人を守るのは僕の役目だ。
周囲から見えないようにマントの影で指を鳴らす。
(…自分の庶子を認知すらせず、王都へ放置。自分との関わりを露呈しないために変装を強要。そんな人間が彼らに敵対するなら、僕は絶対にお前を許さない。勿論、今後庶子達に何か不当な扱いをするつもりなら、この国で生きていけないと思え)
「…っ?!」
一瞬で顔色を悪くする公爵。
そんな公爵を見て、首を傾げる3人。
ちなみにフローネはずっとオロオロしたまま僕の腕にしがみ付いてます、可愛い。
そう、僕がしたのは無詠唱擬きの『テレパシー』。
他の人には全く聞こえていません。
内容はメイーナに聞いた実際の話だ。
僕の親族が見つかったって話から、教室内で盛り上がった家族の話。
その中でメイーナがポツリと僕にだけ教えてくれた。
庶子だとは言わなかったけど、自分の父親がいつも側にいない事。
父親に会った事は2回程度しかなく、暴言を吐かれた事。
他にも母親違いの兄弟が数人いる事。
そしてナル君スタイルの時は店から出ない事を強要されたそうだ。
僕だけはメイーナの素顔を知ってるからと、いつもの無表情で淡々と語ってくれた。
…メイーナの表情のなさは、父親のせいな気がしてならない。
ナル君スタイルの時は、色々とストレスがはっちゃけてあんな感じなんだろう。
それってさぁ…ちょっと辛いよね?
僕の顔を見て、より一層顔色が悪くなる公爵。
そうだよねぇ、僕、めちゃくちゃ笑顔だもんね。
「…しっ、失礼させていただくっ!」
踵を返すように、僕達の前から立ち去る公爵。
ふふん、痛い所を突かれたってとこかな?
「…ユージェ、何かしたか?」
「なーんにも?それより、庇ってくれてありがとうね、ニコラも」
「いーのいーの、授業で習った事が役に立ったし!」
「授業?」
「コース選択授業でね、色々習ってるんだよー」
…マジか、恐るべし淑女コース。
「まぁ、ユージェとフローネ嬢に何もなくて良かった」
「最悪潰しにいくよ?僕」
「洒落にならないから自重してくれ、俺が何がなんでも守ってみせるから」
「…ルーファス様、カッコいい…」
ポツリと僕だけに聞こえた呟き。
バッと振り返ると、僕の後ろで少し頬を染めたフローネがルーファスを見つめていた。
…まさかのルーファスが義弟になる可能性が?!
まぁ芽生えたのはフローネちゃんですが。