雑魚と騎士と姫君と
教養の授業で、マナー講習が増えてきた今日この頃。
地味にスキルが発動したり、元々の貴族としての矜持があるので、やけに高い評価を貰ってる僕です。
そんなこんなで、今日は9雷29日。
明日は通常の休みで、明後日からはまた地の10日間…漆黒期だ。
ちなみにこの前の水の10日間はルーファスと一緒にレオの家でお泊まり会をした。
ナタリーとニコラはデイジー達も呼んで、ナタリーの家でお泊まり会をしたそうだ。
中々面白かった、特にレオの家って諜報員の家系だからか、珍しい文献とかヤバそうな文章とかが隠し扉の向こうに沢山あって。
珍しくハロルド様もいて、許可を貰ったので全部読ませてもらった。
いや、子供に許可するなよって感じの血生臭い内容の物もあったけどね。
『愛し子様の頼みは断れませんよぉ』ってニヤニヤしながらレオと同じ顔で言われた。
あの人はあんまり関わってないから、何考えてんのかよくわかんないわ…
ちなみにルーファスは読んでないし、隠し扉の事は知らないままです。
僕が持ってきたケーキ食べてて気付いてないとか、それでいいのかルーファス。
夜中には年頃らしく恋バナをした。
なんと、レオとナタリーの婚約話が出ているそうだ。
でも本人達はそんなに乗り気じゃないから、全く進まないそう。
お互いいい人がいなかったら結婚しようかと言っているらしい、それでいいのか。
ルーファスは見合い話は多いけど、どれも断ってるそうだ。
なんでも嫌悪感しかないらしい、妹の影響か…
閑話休題。
そして今回の漆黒期は予定がまるでない。
たまには家でうだうだしようかなぁ…
そんな事を考えて、昼休みに校内をふらふらしてた。
そのまま中庭に出ると、何か人集りが出来ていた。
不思議に思って人集りの中に入って、中心を確認すると…
「だから、嫌がってんじゃないっすか!!」
「貴様!!誰に向かって口を聞いている!!この平民如きが!!」
…マーロ先輩と、赤毛の人が言い争ってた。
というか、マーロ先輩の後ろにいるの、アリス嬢じゃね?
「いいからその女をこちらへ寄越せ!!」
「彼女は物じゃないんだ、そういう言い方はやめていただきたい!!」
「ま、マーロさん、私は大丈夫ですから…」
「いいえ、言わせていただきます!!大体アリス様は貴方の求婚をお断りしているはずだ!!それをいつまでも身分を傘に追いかけて…男として恥ずかしくないんすか?!」
「なんだとぉ?!その女は俺の物だ!!貴様には関係ない!!」
「いーや、関係ありますね!!彼女は俺の恋人だ!!口出す権利はある!!」
マジで?!
マーロ先輩、アリス嬢と付き合ってんの?!
あ、アリス嬢、顔真っ赤にして俯いちゃった。
…恋する乙女って可愛いなぁ…
さっきの発言も許せないし、俄然2人を応援したくなったわ。
「き…貴様ぁ!!平民の分際で俺の物を盗るとはぁ!!」
瞬間的に、嫌な予感がした。
これは久々に発動した危機察知スキルだ。
僕は人集りから飛び出して、赤毛野郎とマーロ先輩の間に割り込む。
そしてそのまま僕達を囲むように『シールド』を展開する。
結論から言って、僕の判断は正しかった。
赤毛野郎が呪文を唱えていないのに、突然炎の塊が頭上から現れて墜落した。
でも僕の『シールド』は破れる事なく、炎の塊は衝撃を残して消えていく。
辺りは騒然として、悲鳴などが響き渡っていた。
どうやら何人かが教師を呼びに行ったらしく、走り去っていった。
「…な…き、貴様、アレを防いだ、だと…?!」
「…ゆ、ユズキ?」
「ユズキ君…」
振り返ると、アリス嬢を守るように抱きしめてるマーロ先輩の姿が見えた。
うん、流石先輩、騎士の鏡です!!
「ご無事ですか?」
「あ、あぁ、ありがとう、大丈夫だ」
「はい、なんともありませんわ…ありがとうございます」
「それなら良かったです」
「おい、貴様、誰だ!!黒服という事は平民か!!俺を誰だと思っている!!」
「すみません、女性に乱暴を働こうとするような人の名前はちょっと…」
「お、俺は公爵子息、ジャンジャック=バークレーだぞ!!平伏せ!!」
…バークレー…
あぁ!あのクソ元騎士団長の息子か!!
アイカット嬢の義理の弟だっけ…あの方も大変だな…
「この学院は貴族、平民共に平等が原則。平伏す謂れはありませんね」
「なんだとぉ?!」
「それに貴方は攻撃魔法を使うべからずという規則を破った。これは停学、退学対象となるものです」
「ふっ…俺は攻撃魔法など使っていない!!これは俺の身を守るこの魔導具がやった事だ!!コイツらが俺に悪意を向けてきたから発動しただけで、俺に責任などない!!」
赤毛野郎…ジャンジャックが腕に嵌めている悪趣味な金の腕輪を見せびらかすように掲げる。
…ん?コイツアホなの?
だって僕の鑑定結果には…
「…別に『バリア』が付与されてるわけでもない、ただの念じれば生じる『ファイヤ』が付与された腕輪じゃないですか。それは貴方の意思とみなされて、処分対象ですよ」
「は…?」
腕を掲げたまま、口を開けて固まるジャンジャック。
すると見る見るうちに顔が青ざめて、少し震えているようだった。
「…き、貴様…鑑定スキルを…?」
「その様子だと、真実を知っていたようですね。諦めて先生方に捕まって下さい」
遠くから見える学院長と数人の先生方が、こちらに向かって走ってきていた。
…相変わらず学院長は遅いな…
僕はそちらへ向かうために、ジャンジャックの横を通り過ぎる。
その時に小声で告げるのを忘れない。
「…これ以上、アイカット嬢に迷惑をかけないでもらおうか。処分には口を出させてもらうぞ、ジャンジャック=バークレー」
「…っ?!お、お前…何者だ…?」
「…お前のだーいすきな、権力者様だよ」
一瞬だけニヤリと笑い、その場を去る僕。
まぁあれだけじゃ僕が誰かなんてわかんないでしょ。
そして先に到着した先生方に拘束されるジャンジャック。
一足遅れて、学院長が僕の前にやってきた。
「ゆー…ユズキ君!!」
「こんにちは、学院長」
「え、えぇ、ご機嫌よう…あの…」
「先にアリス様をマーロ先輩の付き添いで休ませていただけますか?僕が調書受けますので」
「そ、そう?では、そうしましょうか。お2人には後で受けて貰いますからね」
「「は、はい」」
そう言って、僕は学院長と例の学院長室へ行く事になった。




