誕生日当日
そして迎えた誕生日当日。
僕は早々に学校から帰って着替えて、ジーンを連れたまま1度領地に飛んだ。
そして仮面とマントを付けた愛し子装備で、領地内のメイン通りを笑顔で手を振りながら闊歩する。
なんでかと言うと、パーティーまでの時間に空きがあるし、領地内で『愛し子様誕生記念祭』ってのを勝手にやると聞いたからちょっと覗いてみようかなって思ったから。
勿論領民達には内緒にしてて、突然現れた僕に会場は騒然としていた。
僕だけじゃなく、ジーンも目立ってたね。
この前のご挨拶騒動でジーンの噂が広まったし、余計にだろう。
小さな噴水広場まで行き着き、噴水の段差に上る。
「皆さん、今日は僕の誕生日を祝ってくれて、ありがとう。そしていつも領民として父や兄を支えてくれていて、本当に感謝してます。これからもよろしくね」
僕がそう言うと、広場が歓声と共に拍手喝采。
めちゃくちゃ盛り上がったよね。
手を振られたから振り返したりした。
前にジーンに言われて、僕も考えたんだよね。
やっぱり、領民との距離感が少し遠いなって。
ロイ兄様は最近領主の仕事を引き継いで視察のために歩いたりしてるけど、結構気さくに話しているらしい。
フローネもあのメアルさんの孤児院に訪問して、子供達と遊んだりしているらしい。
慈善事業の一環だよね。
それを考えると、僕って領地で全然何もしてないわけで。
もうちょっと仲良くなりたいなって、欲が出ちゃったわけ。
せめてもう少し距離感を縮めたい。
僕が姿を変えないで出歩けるくらいには。
多分今やると、領地が騒然とする。
まともに買い物とか出来ないと思う。
「愛し子様?!」
人混みの中から飛び出てきたのは、なんとリリーの兄のカジェスさんだった。
「あぁ、カジェスさん、こんにちは」
「あ、こ、こんにちは…って、なんでここに?!」
「パーティーまで時間があったので、お祭り見に行こうかなって」
「いや、それなら一言いただければ…」
「お、おい、カジェス!!お前、愛し子様となんでお話してんだよ?!」
あ、カジェスさんが数人の同僚に囲まれてる。
僕は段差から降りて、その輪の中にそっと潜り込んで、カジェスの横にニョキッと現れてみた。
同僚さん達が叫び声を上げたけど、気にしません。
「カジェスさんは僕のメイドのお兄さんなんで。でも、皆さん、普通に僕に話しかけてくれていいんですよ?」
「へ…?よ、よろしいんですか…?」
「…ユージェリス様は寛大なお方だ。別にアンタ達が攻撃でもしない限りは処罰したりなんかしねぇよ」
ジーンが輪の外からそう告げると、同僚さん達が顔を見合わせてから僕に向かって頭を下げた。
「…愛し子様、お誕生日おめでとうございます」
「お、おめでとうございます!」
「おめでとうございます!!」
「ふふふ、ありがと!」
僕が素直に笑顔で感謝を告げると、同僚さん達は顔を上げてポカーンとした。
領民の人達もポカーンとしてる。
「…愛し子様って、案外普通…?」
「おい、バカ!何言ってんだよ!」
「いやでも、なんか思ってた感じじゃなかったって言うか…」
「あれだな、ご長男のロイヴィス様と雰囲気似てるな」
「ご息女のフローネ様にも似てるぞ?」
「いやいや、愛し子様って兄妹なんだからそりゃ似てるだろ」
「「「「そうだ、愛し子様ってお2人と兄妹だわ」」」」
まさかの兄妹だと思われてなかったのか。
それほど『愛し子』ってのは特殊というか、異質なのかねぇ…
とりあえず、僕達がキチンと兄妹だと認識した皆さんは、比較的フレンドリーに祝いの言葉を口にしてくれた。
これで少しは距離が縮まったといいな!
その後はジーンに頼んで昔買ってきて貰った飴を買ってきて貰った。
明日月組のみんなと食べようかと思ってね。
僕が料理作ると、水準以上のものが出来ちゃうから、そこは自重します。
というか、みんなが料理とか持ち寄ってくれるらしいからそんなに用意する必要ないんだよね。
ちなみにジーンはお金を支払った後に僕のお使いだと告げたそうだ。
すると店主さんは顔色を変えて受け取れないとお金を戻そうとしたらしい。
でも流石ジーン、僕が嫌がると思ったからキチンとお金は受け取らなかったそうだ。
代わりにオマケとして飴や新発売のグミ(僕的には硬いゼリーって感じ?)を渡されたそうで貰ってきてた。
まぁそれならしょうがないかな。
そして王都の屋敷に戻って、パーティーが開かれた。
セイルとドリー達が腕によりをかけて作った料理は中々美味しかった。
友人達も大満足のようだ。
そうそう、なんと今日はリリーとラウレアちゃんも来てくれたんだよ!!
ラウレアちゃん、大きくなってた…成長って早いね…
くそぅ、1年ってすげぇな、生まれたての赤ちゃんがふらふら歩くようになるのかよ。
兎に角可愛くて、人見知りされなくて本当に良かった。
抱っこしたら満面の笑みを浮かべてギュッと抱きついてくれたので、僕は半分くらい体が蕩けたと思う。
そして、プレゼント発表の時間。
両親からは乗馬セットを貰った。
今度狩人コースで馬に乗ると言っていたからだそうだ。
ちゃんと見た目は高く見えないような、それでも上等なものだった。
兄様と義姉様からも学院で使える筆記用具セット。
見た目はシンプルだけど、めっちゃ書きやすくて手に馴染むやつだった。
フローネからは手作りのクッキーとスティックチーズケーキ。
どうやら僕がいない間に練習したらしく、とても美味しかった。
なんと料理スキルがレベル5になったとこっそり教えてくれた。
普通に店開けるじゃないか、うちの妹凄い。
使用人達からは新しい平民セット服とエプロン。
これは半分定番と化してる。
とっても助かるし嬉しいけどね。
リリーからはラウレアの手形が付いた手紙を貰った。
手紙と言っても殆ど読めない線ばっかりのものだけど。
なんでもリリーがラウレアに僕への手紙を書くかと聞いたら返事をしたそうだ。
そしてペンを渡したらこんな感じに書いた、と。
そしてサインの代わりに絵の具で手形をドン!
…何それ、愛しい、可愛い、大事にします。
デイジー、シンディ、ドロシー、ダティスさんからは調理器具セットを貰った。
いつも厨房にあるやつ使ってたから、自前のって持ってなかったんだよね。
フライパン、小鍋、まな板、包丁の4点セット。
しかもダティスさんが彫刻スキルを持っているそうで、全部に僕の名前と家紋が彫られていた。
そして驚いたのが、ルーファス、レオ、ナタリー、ニコラからのプレゼント。
ペンダントなんだけど、なんと4人で作ったそうだ。
4人ともまさかの画力がなく、要望だけ纏めてレオが泣く泣くあのティッキーディッキー姉妹()に作画を依頼し、素材を用意。
それを元に錬金スキルを取得したルーファスが製作。
細かい装飾は彫刻スキルを取得したニコラが手を入れて。
これまたびっくりするんだけど、ナタリーが付与スキルを取得したそうで、4人の魔力を合わせて『リフレクション』を付与してくれたそうだ。
よく出来たな、あれMP3000くらい使うんだぞ?
複数人で行う合同付与ってのは勉強したけど、全員の気持ちや息が合ってないと上手く出来ないって聞いたし…
…そこまで僕の事を想ってくれるなんて。
ちょっと泣きそうになったのは秘密だ。
師長の父様や補佐官の兄様も驚いていた。
マジマジと見てから、4人に作成方法なんかを根掘り葉掘り聞いてて止めに入ったわ。
いくら2人でも、僕の親友達を困らせるのは許しません!!
そんなこんなで、とても楽しい誕生日を送る事が出来た。
来年もまたこうやって祝ってもらえるといいなぁ。
…いや、フラグじゃないよ?違うからね?