祝福の言葉
息を吸って、心を落ち着かせる。
最初は、ベティ様から。
続けて僕が、という風に交互に言葉を紡ぐ。
「《新たなる王太子に祝福を》」
「《次代の王に祝福を》」
「《精霊の愛し子、ベアトリス=リリエンハイドの名の下に》」
「《精霊の愛し子、ユージェリス=アイゼンファルドの名の下に》」
「《今ここに、王国の為に尽くすと誓え》」
「《今ここに、住まう民の為に尽くすと誓え》」
「「《其方の覚悟を今こそ示せ》」」
やった!間違えずに言えた!!
さっき聞いただけのぶっつけ本番だからどうしようかと…!!
僕とベティ様の手から、暖かい光が灯される。
「精霊様と、2名の愛し子様の名にかけて、エドワーズ=リリエンハイドは王国の為、民の為にこの身を尽くすと誓います」
「《その言葉、ベアトリス=リリエンハイドが聞き届けた》」
「《その言葉、ユージェリス=アイゼンファルドが聞き届けた》」
「「《其方の未来が幸多からん事を》」」
灯された暖かい光がエドワーズ様の体に降り注ぎ、浸透していく。
なんとも幻想的な光景だった。
何人もの人々が息を飲んでその光景を見つめていた。
これで、僕の出番は終わり。
「感謝致します…我が母と、我が友よ」
…終わらなかった。
まさかのエドワーズ様がベティ様の手を取って、手の甲にキス。
その後に立ち上がり、僕に拳を突き出してきた。
…もしかして、愛し子になりたくなかったって話のせいかな?
決まった台詞の愛し子としてではなく、僕に祝ってもらいたい、と…
しょうがないお方だなぁ。
少し呆れたように笑ってしまったが、許して下さるだろう。
その拳に合わせるように、自分の右腕を突き出した。
「…《友の末永い幸せを願っています、エドワーズ様》」
僕の言葉に、先程よりも強めの光が拳の間に発生した。
そしてそのままエドワーズ様の体を包む。
『友の願いを聞き届けたのら』
会場内に、鳴り響いた音。
あの声は…リリエンハイド?
呆気に取られている間に、光はエドワーズ様に吸収されていった。
目を見開いたまま、固まるエドワーズ様。
というか、会場全体?
とりあえず宰相様も固まっちゃってるから、僕が一旦締めてもいいかな?
「…精霊様に願いは聞き届けられた。エドワーズ王太子殿下、継承おめでとうございます」
僕が拍手をすると、我に返った人達からチラホラと拍手が増え、会場全体を包み込む程の大きさになった。
エドワーズ様も我に返り、貴族達の方へと頭を下げる。
その間にベティ様の手を取って、席に戻る事にした。
「…ユージェ、今の…」
「リリエンハイドですね。全く、突然なんだから」
「凄いわねぇ…今度、私も会いに行こうかしら?」
「いいんじゃない?時間作って行きましょうよ」
「えぇ。それにしても、さっきのエドワーズったら…」
「何か?」
「…陛下も継承の時、同じようにキスしたのよ、手の甲に」
「…似てないと思ったけど、そういうところは似てるんだねぇ…」
小声でしみじみと、僕達は陛下とエドワーズ様の血を感じるのであった。
程なくして、継承の儀は恙無く閉幕となった。
そのまま食べたり飲んだりのパーティーとなる。
生憎僕は不参加だけどね。
なんでって、知ってる人少ないし。
父様と宰相様、アイカット嬢…新騎士団長や魔法師団の面々は仕事。
母様も挨拶回りがあるから、僕が付き添うとちょっと面倒な事になるだろうし。
レオのお父さんのハロルド様は基本的に外に出てる事が多くてあんまり話した事ないし。
ナタリーのお父さんのスタンリッジ伯は僕と会ったら挙動不審になるのが目に見えてる…というかこっちもそんな話した事ないよね、この前の押しかけ婚約者候補事件くらいだし。
デイジー、ドロシー、シンディの親も別になぁ…
ダティスさんの親は知らないし。
まぁそんな感じで早々に逃げ出したよね!
ちなみにお咎めなしなのは愛し子特権です!
そして家で紅茶飲んでまったりしてます。
飲み終わったら着替えるかなー?
「放送見てましたけど、ユージェリス様、とてもカッコ良かったです!!」
「そう?ありがとう、ジーン」
紅茶を入れてくれたのは執事服を着たジーン。
まだ着慣れてないからなのか、動きがぎこちない。
今日はレリックもいないし、紅茶の入れ方を教えてもらったからと頑張ってくれた。
うん、まぁ味は合格かな?
入れるまでは手付きが覚束なくて冷や冷やしたけど。
「あの頭に直接響くような声って、精霊様のお声なんですね…」
「あぁ、やっぱ放送見てる人にも聞こえたんだ?」
「はい、しっかりと。不思議な感覚でした」
ふぅん、会場内と聞こえ方が違ったんだ。
「…あ、そういえば、忘れてた」
「何をですか?」
「ベネッタさんにご挨拶に行かなきゃ」
「いや、母ちゃん…じゃなくて、母の事はいいですから…」
「いやいや、大事な息子さんを貰ったんだから、ちゃんと挨拶くらいしないと」
「その言い方、語弊があります!」
「いやぁ、でも僕をお嫁さんに貰ってくれるって言ってたんだし、寧ろ貰っちゃったんだから…」
「やめろぉー!!!!」
頭を抱えて蹲るジーン。
どうやらダメージがデカいようだ、あはは。
僕は残りの紅茶を飲み干し、徐に席から立ち上がる。
「よし、行くよ」
「へ?」
「この格好のまま、侯爵領行って、ベネッタさんにご挨拶だ!」
「えぇー?!?!?!」
こういう事は目立ってナンボでしょ!!
侯爵領の面々に、ジーンは僕のものだと見せつけないとね!!
涙目で僕に縋り付きながら横に首を振るジーンなんて、知ーらないっと!!
目立つの嫌とかいいながら、変なところで目立ちたがり屋のユージェリス。