精霊との邂逅《side ヴァイリー王国第1王女》
「やはり無理でしたね」
ユージェリス様がにっこりと微笑まれます。
真っ赤だった顔を真っ青にしながら陛下がユージェリス様を見て、ガタガタと震え出し、口をパクパクとさせています。
「どうかされましたか?何か言いたい事でも?」
「…っそ、其方、うちの娘達は可愛いであろう?!それを3人も娶れるのじゃぞ?!」
はぁ?意味がわかりません。
どうしてそんな話になるのでしょうか…
まさか、私達でユージェリス様を懐柔するおつもりなの?
今の流れではどう考えても無理でしょうに。
「確かにお3方とも、貴方に全くと言っていいほど似ずにとても聡明でお美しいですが…」
はぅっ!!
そ、そんな褒められると期待してしまいますわっ…!!
「私を種馬扱いする義父がいる家庭になど、入りたくはありませんね」
にっこり、とブリザードを吹雪かせて笑うユージェリス様はとても絵になりますわね。
あらやだ、ちょっとした現実逃避をしてしまいましたわ。
「そ、それは…!!」
「さて、そろそろ貴方がその場所にいる必要はありませんね。さっさと譲っていただきましょうか」
「そ、それなら誰が国王になると言うのだ?!余以外、適任者がいないであろー!!」
「いるじゃないですか、きちんと貴方の血を受け継いだ方が」
「娘達は無理じゃぞ?!まだ法は簡単に変えられんからなぁ!!」
「嫌ですね、貴方の血を受け継いだ方なら、あとお2人もいるじゃないですか」
自分の子供を覚えてないんですか?とでも言いたげに、ユージェリス様が不思議そうに小首を傾げます。
「あ、彼奴らなど、とっくに使い物にならんわ!!残念じゃったな!!」
「…まさか、お兄様を…?」
顔面蒼白で、ポツリと呟くルーシャン。
シャーナルの顔色も良くありません。
多分…私もでしょうけど。
あぁ、目眩がしてきましたわ…
長女として、第1王女として耐えて参りましたが…そろそろ気持ちを保つのも、限界です。
足に力が入らなくなって、私はフラリと後ろに倒れかかりました。
「…おっと、大丈夫か?テリューシャ…今まで良く頑張った」
突然背後からしっかりと肩を抱かれ、倒れるところを防がれました。
…聞き慣れた声に、私の視界がぼやけていきます。
「…遅いです、サルバトお兄様…」
「悪い、だがこれでも頑張ってるんだぞ?なんたって立ってるのがやっとなんだからな」
お兄様の言葉に、驚いて振り返ります。
最後に見たお兄様とまるで別人のように痩せこけていらっしゃいました。
私を支えていた反対の手には、杖で体を支えていて…
驚きのあまり、扇子を落としてしまいました。
もう、手で直接開ききった口を隠すしかありませんわ。
「お兄様…そのお姿…」
「後で詳しく説明するさ。ちょっとそこでガルデンと一緒に待ってなさい」
「「「え?」」」
サルバトお兄様の言葉に驚き、指差す方向を確認するために私達は後ろを振り返りました。
そこにはなんと、先程まで置いてあった椅子の1つに顔色の悪いガルデンお兄様が座ってるではありませんか!
軽く手を振っていらっしゃいますけど、絶対体調悪いですよね?!
「「ガルデンお兄様!!」」
シャーナルとルーシャンが泣きながらガルデンお兄様に駆け寄ります。
へらりと笑うお兄様はいつも通り軽い印象を与えますが、それでもやはり辛そうです。
「ガルデンはまだ回復しきっていない。あそこから動けないんだ、側にいてやってくれ」
そう言って、サルバトお兄様が杖をつきながらヨロヨロと歩き出し、ユージェリス様のお隣に立たれました。
まさか、既にお2人はお知り合いなんですの…?!
「サルバト…貴様、何故…?!あ、足はどうしたのだ?!」
「我が再従兄弟殿が治して下さったんですよ、父上」
ニヤリ、と黒い笑みを浮かべて、お兄様が杖で勢い良く陛下を横に吹っ飛ばすように殴りました。
まさかの光景に、姉妹で呆けてしまいます。
陛下はよくわからない奇声を上げていました。
フラつくお兄様を支えるユージェリス様…
歳の離れたお2人ですけど、友情のようなものが感じられますわ。
ちなみにガルデンお兄様は半分気を失っておられて、ヴァジルが揺さぶりながら呼びかけています。
あぁ、ユージェリス様のお母様…マリエール様が、どうやら魔法で治癒して下さっているようです!
素敵…あんな女性のようになれたら…
「あまり無理しないで下さいよ、サルバト様。まだ完治してないんですから」
「すまんな、ユージェリス殿。1発でも自分で入れないと気が済まなくてな」
「…ぐぅぅ…!!サルバト、貴様ぁ…!!」
「あぁ?まさか今のが痛かったなんて言わないだろうな?私の方が痛かったぞ?なんせ突然足を切られたんだからなぁ」
…え?足?
わ、私、聞き間違いかしら?
お兄様の足は、どう見ても2本揃っているように見えますのに…
「さて、ユージェリス殿。早速“精霊玉”を使ってみようと思うのだが」
「はい、どうぞ、サルバト様」
いつの間にか、陛下からユージェリス様の手に渡った赤い水晶、“精霊玉”。
それをお兄様が受け取り、軽く服で拭いてから親指を噛み、滲んだ血を“精霊玉”に塗り付けました。
その瞬間、先程と同じ赤い魔力がお兄様達を包み込み…
『…ふふふ、何やら面白い事になってるのさ。よくぞ私を呼び出してくれたさ。国の魔力を遮断するのも面白そうだったが、腐っているのがコイツだけなら話は別なのさ』
頭に直接響くような、膨大な魔力。
あまりの力の差に、私達は自然と立っていられなくなり、その場にへたり込みました。
立っているのは、ユージェリス様のみ。
「やぁ、先日ぶり、ヴァイリー」
『私としてはついさっき会っていた感覚なのさ、サガラユヅキ』
「ここではユージェリスって呼んでくれるかな?その名はここの名じゃないんだ」
『あぁ、すまないのさ。以後気をつけるのさ』
ユージェリス様が親しげに会話する先に現れたのは…真っ赤な影。
シルエットで言えば、長いポニーテールの小さな女の子。
但し、この世のモノとは思えない魔力に、透けた体が、私達に精霊様だと物語っているようでした。
『さぁ、ユージェリス、そして私を召喚せし真の王族…其方らが私の“精霊判定玉”に問う事柄を述べてみるのさ?』
ニヤリ、と笑うそのお顔は影にも関わらず先程のユージェリス様やお兄様とそっくりの、美しくも真っ黒な笑みでございました。
体現したヴァイリーのイメージとしては、ハ◯レンの真理の扉の前で出会う人型みたいな感じです。
輪郭と口元で表情がわかるといいますか…
説明下手ですみません(笑)