興味と脅威《side ヴァイリー王国第1王女》
お父様に呼び出されて、私達姉妹は謁見の間に集まりました。
こう言ってはなんですが、お父様、顔が気持ち悪いですわ。
ニヤニヤニヤニヤと、我が父ながらため息が出るほど。
「テリューシャ、シャーナル、ルーシャン。今日はお前達の未来の夫に会えるであろー」
「「「は?」」」
未来の夫…?
まさか、ヴァジルが教えて下さった隣国の侯爵子息の事ですの?!
あまりの事に、シャーナルとルーシャンも扇子の影で口を開いて固まりました。
いくら女性が勉学の出来ない国とは言え、ヴァジルやお兄様達のお陰で沢山の書物は読ませていただく事が出来ました。
そこで知り得た知識は御伽噺だけでなく、世界情勢や他国の情報などもあり…
どれだけうちの国が愚かであるか、よくわかっているつもりでした。
なので早々に百合姫様のように他国へ、または理解して下さる臣下の元へ降嫁させていただき、その家で勉学に励んでから影ながら支えられたらと思っておりましたが…
いつまでも降嫁の許可が降りず、婚期を逃すかと思っていた矢先に例の事件。
まさかあの『精霊の愛し子』様に手を出そうとするとは。
かの方の逸話はお兄様から寝物語として遠い昔に少しお聞きした事があります。
精霊様に愛された人間。
唯一対話する事の出来る人間。
誰も敵わない力を持った精霊様の化身。
幼い頃は本物に会いたいと思ったりもしましたけど、大人になった今ならわかります。
他国のそんな重要人物になど、会いたくはないと!
だって私達、キチンとした教育を受けさせていただいていないのですよ?
粗相なんかして、怒らせたりしたら国が滅ぶんですのよ?!
そんな怖い方、会いたくないですわ…
なのに、なのにこの男はなんというバカな事を…!!
顔色を悪くしたヴァジルから聞いた時には、3人して気絶して崩れ落ちましたわ…
「中々の美形らしいぞ?良かったのぅ!」
嬉しそうに言う陛下に、呆れてものも言えませんでしたわ…
「リリエンハイド王国アイゼンファルド侯爵夫人、マリエール=アイゼンファルド様、並びにご子息ユージェリス=アイゼンファルド様、ご入場です!」
扉横の兵士からの声に、私達は緊張した面持ちで姿勢を正す。
兎に角、かの方達のお怒りを買わないようにしないと。
少なくとも私達はこの男と同類ではないと示さなくては!!
そして重々しい雰囲気の中、現れたのは肖像画の大叔母様そっくりな女性と、幼い頃に読んだ絵本に出てきた王子様だった。
サラサラの銀髪に、艶やかな黒髪が1束。
綺麗なお顔は肖像画で見た大叔母様の面影を残した美少年。
それでいてスラリとした体躯に、品の良さ。
3人とも、つい立場を忘れて惚けてしまいましたの。
…ってダメですわ!!
惚けてどうするんですの!!
あぁ、シャーナルも持ち直しましたわね、偉いですわ!!
ルーシャン!!目をお覚ましなさい!!
何を本気の乙女の顔をしているのですか!!
いくら1番歳の近い16歳だからと言って、高望みはいけませんわ!!
「余が国王、グラディウス=バル=ヴァイリーであろう。近う寄れ、苦しゅうない、発言を許す」
「ありがとうございます。お初にお目にかかります、マリエール=アイゼンファルドと申します。グラディウス陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「うむ、マリエールは美しいのぅ!叔母上にそっくりじゃ。我が国におれば、余の側室として迎え入れたであろうに!」
「まぁ、オホホホ」
あぁっ、マリエール様の目は笑っていらっしゃらない!!
当たり前ですわ、なんて言い方なのでしょう!
あまりに女性を軽視し過ぎですわ!
しかも他国の侯爵夫人へ敬称もなしとは!!
「して、その方がユージェリスか?中々いい面構えじゃ、お主と娘達の子はさぞ美形になるであろー!」
しーつーれーいぃー!!!!!
ユージェリス様になんって失礼な!!!
婚姻についてはお断りされていたはずなのに、なんでそんな事言えるんですかねぇ?!?!
…いけませんわ、少々荒ぶり過ぎました…
「改めまして、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。此度の一件に決着を付けるため、馳せ参じました」
いやぁぁぁ!!声も素敵ですわぁ!!!!
そしてにっこりと微笑むユージェリス様。
もうダメ、本当にカッコいい…
こんな出会いでなければ、アプローチ出来たものを…
あぁ、シャーナルとルーシャンも顔が完全に乙女ですわ…
もう仕方ないですわよね…これはもう…
「ん?決着、とな?」
「はい、陛下。結論から申し上げますと、私の王位継承権は破棄、婚姻の話は白紙、そして…」
ユージェリス様の体の周りに、赤い魔力が纏わりつく。
なんて膨大で威圧のある魔力なんでしょう…!!
あまりの魔力に、3人して目が覚めました。
ルーシャンがシャーナルの腕を掴み、シャーナルが私のドレスの端を摘んでいます。
どうやら少々怖いようですね、私もですが。
「グラディウス=バル=ヴァイリー。貴方はヴァイリー王国精霊ヴァイリーの怒りを買ったとして、名代である精霊の愛し子、このユージェリス=アイゼンファルドが断罪させていただく」
ニヤリと不敵に笑うユージェリス様に、不覚にもときめいてしまったのは私だけの秘密です。
宰相や第1王子など、周りの人達が一生懸命隠れて育てたので、中々いい子の3姉妹。
幸せにしてあげたい。