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感涙の再会《side ヴァイリー王国宰相》

意を決して扉を叩き、入室する。

煌びやかな室内にも劣らない、とても美しい女性と少年が対面したソファに座ってこちらを見ていた。

私に気付くとそっと腰を浮かし、女性はカテーシーを、少年は一礼をした。

なんと様になったものだろう。

陛下と王妃にも見せつけてやりたい。

アイツらはここまで綺麗に出来ないだろうな。

一応王女様方は我々が教育にそっと介入しているため、礼儀作法や思想に問題はないはずだ。

勉学はさせる事が出来なかったので、流行りのものと称して沢山の物語を読ませた。

最初は童話のような御伽噺を。

大きくなるにつれて、その御伽噺の世界は有り得ないものだと気付かせるような内容の小説を。

最近では貴族間のドロドロした恋愛物なんかも読んでいるようで、随分貴族の裏事情には詳しくなったようだ。

たまに他国の情報なんかが入ってる小説も渡しているので、多分王妃よりもまともな女性と言えるだろう。

王女様方から感想を聞いた事はないが、たまに新しい本を所望されるくらいだから嫌がってはいないはず。

流石はサルバト様の妹君、もっとまともな環境で育てば素敵なレディになれただろうに。


閑話休題。


そして陛下曰く、そんな王女様方の夫候補のかの方は…とても爽やかな笑顔だった。

確かまだ13歳くらいのはずだが、なんて整った顔立ち。

アマーリア様にそっくりな侯爵夫人、マリエール様。

そしてそのマリエール様によく似ていらっしゃるユージェリス様。

あぁ、本当はこんな方々にお仕えしたかった…


「お待たせしてしまい、申し訳ありません。ヴァイリー王国宰相、ヴァジル=レ=ボーエンと申します。爵位は公爵を賜っております、どうぞお見知り置きを」

「リリエンハイド王国宮廷魔術師長アイゼンファルド侯爵の妻、マリエール=アイゼンファルドと申しますわ。先触れをせず、突然の訪問で申し訳ありません」

「いえ、近日中にいらっしゃる事はお聞きしておりましたので…それで、そちらは…」

「お初にお目にかかります。リリエンハイド王国宮廷魔術師長アイゼンファルド侯爵次男、ユージェリス=アイゼンファルドと申します」


にこり、と笑うその顔は、まさにアマーリア様の肖像画と同じ笑みだった。

つまり、それは…


作られた偽の笑み(・・・・・・・・)


「…ご用件は重々承知の上です。我々貴族の総意(・・・・・・・)としては、ユージェリス様をこちらの王国へ婿入りしていただくつもりはありません。王位継承権の破棄、という事でよろしいでしょうか?」


私の言葉に、少し眉を下げて微笑むユージェリス様。

どうやら私の言いたい事がわかるようだ。

この歳で察せられるとは…本当は王国に欲しい人材だな。


「破棄させていただけるので?」

「勿論でございます。お兄様のロイヴィス様に関しましても、私の方でこの件を処理させていただきました。決して貴方様にご迷惑がかからないようにしてみせます」

「…成る程、お聞きした通りの方のようですね」

「はい?」


下げていた頭を持ち上げると、口元を手で隠して忍び笑うユージェリス様の姿があった。

マリエール様も扇子で隠しつつ笑われているようだ。

一体…?


「諸悪の根源はただ1人、と」

「なっ…!!」

「あぁ、失礼、こちらの話です。これで心置きなくやれるな、と思いまして。宰相様に、1つお願いがあるのですが」

「…なんでしょう?」

「こちらの陛下への謁見をお願いしたいのです」


ユージェリス様が楽しそうに笑い、とんでもない発言をした。

陛下と謁見、だと?

折角来ている事を内密にし、適当に理由をつけて破棄の処理を済ませる予定なのに、か?!


「…お言葉ながら、それは少々…」

「第1王子の居場所を知っている、と言ってもですか?」

「なんっ?!」


続けての爆弾発言。

まさか、この方は全てご存知なのか?!

私は、どうしたら…!!


「…その辺にしておいてはくれまいか、ユージェリス殿。ヴァジルはもう歳なんだ、あまり負担をかけさせないでくれ」


聞き慣れた声に、驚いて周りを見回す。

まさか…まさか?!


「あぁ、もう喋ってしまうとは。もう少し反応を見てみたかったんですよ」

「そうは言っても、コイツは結構な胃痛持ちでな。このままだと倒れかねん。それに長らく髪の心配もしてて、気のせいか1年前よりも薄くなったようなんだ」


私の密かな悩みまで知っていらっしゃる。

あの陛下は知らない、私個人の悩みを…

私の心は歓喜に震えた。

視界はぼやけ、咄嗟に袖で拭う。

そのままユージェリス様の方を見ると…その横に、先程までは見えなかったお姿があった。

あぁ、あれは、我らが王…!!


「…っサルバト様!!」

「久しいな、ヴァジル。城を空けてすまなかった」


昔の面影を残してはいるが、かなりやつれてしまわれたサルバト様。

身嗜みは一応整えられているようだし、顔色も悪くはない。

だが今にも倒れてしまわれそうな細さだった。

私は咄嗟に走り出してソファを回り込み、サルバト様の足に縋り付いてしまった。

もう涙も止まらない。


「サルバト様…サルバト様…!!」

「おいおい、いい歳した男が泣くな、みっともないぞ?」

「サルバト様も泣いてたくせに」

「…何か言ったか?ユージェリス殿」

「いーえ、別にぃ?」


…お2人の距離の近さに少々不思議な気持ちを感じ、段々と冷静になる。

なんでこんなに気安いんだ…?

ポカーンとサルバト様を見上げると、苦笑しながらも色々説明して下さった。


ユージェリス様が国境の兵士達と協力して助けて下さった事。

足を切られていたという話を聞いた時には叫びそうになった。

そしてその足も治されてしまわれたユージェリス様…


…どう考えても、戦争になったら勝てる気がしない。

いや、するつもりはないけど、する可能性はあったのだ、陛下(あの男)のせいで。

そう思ってたら、サルバト様は私の気持ちを察したかのように同盟を結びたい気になったとおっしゃられた。


はい、サルバト様、早急に友好同盟を結んでしまいましょう!

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