第1王子の奪還
所変わって、デルマール侯爵領なう。
母様、レリック、シャーリーは貴族御用達のカフェテリアでお茶して待っててもらう事に。
とりあえず3人は僕が作った魔導具持ってるし安全だと思う。
何かあれば僕に知らせが届くようにしてあるしね。
万が一誘拐されても、僕が召喚魔法で呼び寄せちゃえば問題ないと。
そして僕とブルーノは、領主館の前へとやってきた。
「…ユージェリス様、まさか正面から入るつもりですか?」
「まさか。僕この家の人間に会いたくないもん、裏から堂々と入るよ」
「バレるんじゃ…」
「僕に出来ない事はない!」
「あ、はい」
またもや諦めた模様。
そういう性格、嫌いじゃない。
「サルバト様は、一体どちらに?」
「うーん…多分だけど、屋敷の中じゃない」
「離れとか?あるように見えませんが」
「…もしかしたら、小屋かも」
「は?」
ブルーノが真顔になる。
やだ、怖い。
だってさぁ、検索結果が屋敷の敷地内の奥の端っこなんだもん…
ここからなんとなく見えるもので当て嵌まるの、あのオンボロ小屋じゃないかな?
とりあえず僕はブルーノの手を掴み、路地裏に移動する。
「よし、じゃあとりあえずこれから僕が許可するまで喋らないように」
「は、はい!」
「では…《アシミレイション》《シャットダウン》」
周囲と同化させて姿を消し、その上で気配も消す。
『シャットダウン』は空間魔法の1種なので、時空属性がないと出来ないんだよねぇ。
簡単に出来たら世の中泥棒で溢れかえっちゃうよ。
あ、ブルーノってばめちゃくちゃ動揺して挙動不審になってる。
でも言葉を発しないのは僕の言い付けを守ってるからだろう、偉い偉い。
繋いだ手をそのままに、僕は浮遊魔法を無詠唱擬きでかける。
ふわふわと体が浮き、3メートルはあった塀をいとも簡単に越える事が出来た。
もうブルーノは考える事をやめたようで真顔で無言だった。
そしてそんなブルーノを引きずって、オンボロ小屋の窓辺まで移動する。
カーテンは引かれてたけど、隙間から中を見る事が出来た。
…薄暗い部屋に、ベッドが1つ。
そこには誰かが横たわっているようだった。
ブルーノに目で確認を促すと、少し涙目になりながら彼は頷いてくれた。
…あれが、サルバト第1王子。
人気がない事を確認して、僕達は『ワープ』した。
そのまま防音魔法を張り、姿を現わす。
…どうやら僕達がいる事に気付かないほど、衰弱しているようだ。
青い顔で震えるブルーノの背中を軽く押す。
「…話していいよ」
「…っサルバト様!!」
僕の言葉に、涙を流しながら駆け寄るブルーノ。
彼が手を握っても、サルバト王子からは握り返されない。
でも微かにこちらの声に反応を示したようだった。
…さっさと手を打たないとな。
「ブルーノ、どいて。手遅れになる前に回復を試みるから」
「…はい…」
ブルーノが離れるのを待って、僕はサルバト王子に手を翳す。
さっきの『サーチ』とかでHPはちょっと危ないけど…いけるところまでは治さないと。
「…《ヒール》!」
体から力が抜ける感じ。
あー、やっぱりMPだけじゃなくてHPも使ってるよなぁ…
兎に角話せるくらいまでは回復させないと!
どれくらい時間が経ったんだろう。
多分数秒なんだろうけど、僕には随分長く感じた。
体の限界を感じて、『ヒール』の発動を止める。
そのまま近くにあった椅子にドサっと座り込み、鼻から垂れる血を袖で拭った。
…1日に2回も鼻血出すのなんて、初めてだなぁ…
ボンヤリする頭でそんな事を考えた。
「ユージェリス様!大丈夫ですか?!」
「…あんまり…」
「あ、あの、これどうぞ!」
ブルーノが焦ったように、腰に下げてた水筒を差し出す。
その好意に甘えて、水筒に入っていた水を一気に飲み干した。
ゔぁー、生き返るぅ…
「ありがとぉ…」
「…其方達は、一体…」
か細い声に、僕とブルーノは驚いて目を向ける。
そこには枝の様な腕をこちらに伸ばし、疑惑の眼差しで僕達を見る、1人の青年がいた。
どうやら峠は越えたらしい、でもまだ起き上がれないんだね。
「さ、サルバト様!!お加減はいかがでしょうか?!」
「…其方、その鎧…国境を守る兵士か…?何故ここに…」
「お迎えに上がりました!ここから逃げましょう!」
「迎え…?それより、国は…国はどうなった…?一体あれからどれくらいの時が経った…?」
「とりあえず、少し落ち着いて下さい。詳しい話はここから出てしましょう?」
僕が声を発すると、少し不思議そうな顔をしたサルバト王子が僕の方を見た。
「…何者だ…?」
「このような格好で失礼致します。リリエンハイド王国侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。諸事情により、貴方様を利用させて頂こうと参上致したのですよ…再従兄弟殿?」
再従兄弟、という言葉に反応したサルバト王子は、ため息をついてから少しだけ困ったように微笑んだ。
「利用とは…中々いい言葉であるな。良かろう、助けてもらった礼だ、必ず報いようではないか、再従兄弟殿」
どうやら僕の言いたい事を察したようだ。
流石は国民に好かれる次期国王であらせられる、聡明な再従兄弟殿で助かりますよ。