王子の行方と切ない気持ち
「あぁ、鼻血なんて出して…!!一体何をしたの?!レリック、貴方が付いていながら!!」
「申し訳ございません!」
レリックを怒りながら『キュア』で鼻血を止め、『クリーン』で綺麗にしてくれる母様。
レリックは90度以上のお辞儀で平謝りしてる。
いやぁ、僕が悪いんだけどねぇ…
とりあえず僕も誤謝り、母様とシャーリーには今までの経緯を『メモリー』で見せる。
その間にジョルンが水を持ってきてくれたので、見せ終わってから一気飲みした。
「…そう、サルバト王子が…ユージェリスちゃんにとっては再従兄弟に当たるお方ね。それで、どちらにいらっしゃるの?」
少し悲しげな表情をしてから、母様が王子の所在を尋ねてきた。
兵士長達も気になるようで、こちらをソワソワと見つめている。
うーん、それがなぁ…
「…それが、結構近くにいるっぽいんだよねぇ…」
「「「「「「は?」」」」」」
「南の方なんだけど…多分半刻も離れてないところ」
「…南というと、デルマール侯爵領になります」
「…でるまーる…」
…うーん、聞き覚えが…なんだっけ?
小首を傾げて考える。
「ユージェリス様、ナタリー様の件かと…」
「…あぁ、あの人のところか」
あの頭の回らない三男坊か!
よくそんな家の領地に隠そうと思ったな!
「確かデルマール侯爵って、貴族からは使えない認定だけど王族は重宝してるってとこじゃなかったか?」
「あぁ、領民が年々減ってるってところかぁ」
…つまりあれか、言われ仕事しか出来ないから頭の回る貴族達には邪魔者扱い、でも王族的には言った事をやってくれるからいい駒だと…
「じゃあ気にせず探せばいいね。あんまりそこには長居したくないし、さっさと済まそうか。個人的には今日中に王都に帰りたいし」
「…今日中って無理じゃ…」
「僕に不可能はない!」
「あ、はい」
どうやらブルーノは諦めた模様。
「…愛し子様、でしたらこのブルーノを一緒にお連れ下さい。土地勘はありますし、何より我が王国の者なので皆様が知り得ない内容にも精通しているかと思います」
「せ、精一杯頑張ります!」
兵士長の言葉に、慌てたようにビシッと敬礼するブルーノ。
うん、まぁ手伝ってもらおうかな?
「よろしくね、ブルーノ。じゃあ、とりあえずレリックと一緒に御者の方に乗ってよ」
「レリック殿、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願い致します」
ブルーノとレリックは歳も近そうだし、結構打ち解けてる模様。
これから通る道やデルマール領の話などをしている。
先に母様とシャーリーと馬車の中に戻ろうとしたら、何故か兵士長が母様を呼び止めた。
「あの、マリエール様…発言をお許し頂けますでしょうか?」
「ええ、よろしくてよ。何かしら?」
「…実は、その…アマーリア様は、そちらの王国で、幸せに…暮らされていたのでしょうか?亡くなられたとはお聞きしていたのですが…」
「…母は、不遇の人でした。認められない国で必死になって、やっとそこから抜け出せたかと思いきや、夫の愛情は十分に与えられず…それでも、あの国であの国のために働いていた母は、とても幸せそうに微笑んでいましたよ」
「…そうですか…」
「貴方は、母をご存知なのかしら?」
「…幼い頃に、お会いした事があります。マリエール様とそっくりなお顔立ちと髪色…そして、ユージェリス様と色味の似た碧眼。何よりお優しいお方でした。私のような者にも平等に接して下さった…もし、もし私がそちらの王国へ行く事がありましたら、霊前に花を手向けさせていただければ幸いです」
「ええ、是非。お待ちしてるわ」
兵士長が母様に頭を下げる。
…なんとなくだけど、兵士長からしたらお祖母様は初恋とかそういうのだったのかもな。
最後に見せたあの切ない笑顔は、どこかで見た事のある愛しさを含ませたものだったから。