情報収集
「うーん、そんな怖がらなくても…」
あの後2人は、目にも留まらぬ速さで土下座した。
あーあー、おデコが地面にぶつかって痛そうだぁ…
「な、何卒!何卒命だけはぁ!!!」
「いや、そんな事しないけど…なんで僕、こんなに怖がられてるの?」
「い、いや、あの、例の王族関係者ですよ…ね…?」
「ここの王族と一緒にされるのは心外だなぁ」
「「す、すみまっせん!!!!」」
「いや、だから怒ってるわけじゃないから」
これじゃ話が進まないなぁ。
とりあえずちゃんと自己紹介しておくか。
「あのね、僕はユージェリス=アイゼンファルド。ヴァイリー王国先代国王陛下の末妹、アマーリア王女の孫だよ」
「「あ、アマーリア王女様の?!」」
お祖母様の名前を聞いて、2人が目を輝かせて顔を上げる。
な、なんだ?
「アマーリア王女様と言えば、王家の良心と呼ばれた百合姫!」
「まさかお噂の百合姫のお孫様に会えるなんて!」
「「お願いします!是非新しい陛下に!!」」
「いや、ならないけど」
食い気味に請われたから、食い気味に拒否った。
あーあ、そんな大の大人が半泣きにならなくても…
にしても、お祖母様って自国で慕われてたのか。
嫌ってたのは家族だけって事ね…
にしても、百合姫って…
「大体、そっちの王様が僕達リリエンハイド王国に喧嘩吹っかけてくるから来ただけなのに…」
「…え?き、貴国に、喧嘩?」
「僕、これでもリリエンハイド王国ではそれなりの立場にいるんだよね。なのに種馬になれって、ふざけてんの?」
「「ひぃっ…!!」」
あ、いけね、殺気出ちゃったっぽい。
難しいなぁ、調整しないと…
「た、種馬って、まだ若いのにそんな言葉…!!」
「生憎、見た目通りの頭はしてないんでね。届いた書状には『王位を継げ』とは書いてなかったし」
そう言って、僕は2人に例の問題になった書状を渡して見せる。
2人はビクビクしながらも受け取り、読み始めると段々顔色を白くしていった。
そう、あの書状って、よく読んでみると王女を娶れとしか書いてないんだ。
つまり、多分だけど種馬になって、王女の誰かが王子を産めば用済みって事なんだろう。
全く、ふざけてるよねぇ…
「…これ、やったの陛下の独断だよな?」
「多分…てか、絶対?宰相様含め、サルバト様や王女様方は知らなそう…」
「サルバトって?」
僕の質問に、少し困った表情で短髪の男の方が書状を返しつつ声を発した。
「えっと…ユージェリス様とお呼びしても?自分はブルーノと申します」
「じょ、ジョルンです!」
「構わないよ、ブルーノ、ジョルン」
「ありがとうございます。ユージェリス様はうちの国の内情をご存知で?」
「そんなに知らないかな。第1王子が怪我で、第2王子が廃嫡しててって事は知ってる。あとは王族がやけに純血主義で、配下の貴族達は実力主義って事かな?」
「それは間違ってないですけど、ちょっと違う事もあります。これはあんまり他国に言っちゃいけない事なんですけど…ユージェリス様は当事者ですし、聞いといた方がいいっす」
ほう、中々いい奴だな、ブルーノ。
ジョルンも黙ってるけど、めっちゃ肯定の意味で首振ってるし。
「サルバト様ってのは、第1王子の事です。実は隔世遺伝なのかなんなのか、サルバト様はアマーリア王女様と同じ『王家の良心』と呼ばれて民にも慕われてるんです。ですが落馬事故に遭い、体が不自由になってしまったそうで…それで、今は軟禁されてるって噂です。ここ1年以上姿をお見せになっていません。第2王子が廃嫡されたのはその通りで、今は何をしてるのやら…王女様方は何も知らないお姫様です。うちの国は女が勉強するのを王族が良しとしないですから、特にお姫様方はマナー講座くらいしか受けてないらしいですよ」
「…めんどくさそうな感じだな…」
「お会いした事ないんですが、多分、めんどくさいと…ちなみに貴族が実力主義なのは本当です。というより、実力がないと国を支えられないんですよ。だから貴族達は必死です。さっき俺達が話してた事、もしかして聞きました?」
「ごめんね、盗み聞きしてた」
「いえいえ!…それでまぁ、王族から承認が貰えないと何も政策が出来ないんで、頭良くならざるを得ないというか…出来るだけ身内も仕事が出来る奴で固めたいらしく、ジャンジャン平民を養子にしてくれるんですよ」
「養子に?それも王族から承認貰わなきゃ無理なんじゃ?」
「そこはもう、庶子って事にするんです。血が尊いって言い張る王族ですから、血を分けた息子ですって言えば承認するんですよ」
「チョロいな、王族」
「んで、もし女性で出来る人がいたら、その庶子と結婚させるんです。女性は表立って頭使う仕事出来ませんし、庶子なら平民と結婚しても問題ないですからね」
「成る程、それでその庶子と仕事させて、功績は庶子に全部持たせるのか」
「その通りっす。なんで殆どの貴族は平民に慕われてます。寧ろ自分から売り込みに行って買ってもらう奴もいますし」
それはいいな、その制度はうちで取り入れてもいい気がする。
そうすれば地位が欲しいロジェスなんかも爵位が取りやすくなりそうだし。
でもあれかな、この話がうちの国で知られてないのは、ヴァイリー王国の王族にバレないように黙ってるからか。
バレれば潰されるもんなぁ。
「成る程、内情は理解したよ、ありがとう」
「いや、その…こっちも下心があっての事なんで…」
「下心?」
「…これを機に、何かいい方向に持ってってもらえねぇかなって…」
あぁ、つまりは平民や貴族達は王族を潰したいけど、どうにも出来ないって言ってたな。
精霊玉、か…くだらないね。
「任せて、とは無責任な事は言わないよ。でも、生憎と負ける気はしないね」
「ユージェリス様…でも、“精霊玉”が…」
「ふん、使いたければ使えばいいさ。使える物なら…ね」
「「え?」」
「愛し子の僕に精霊玉?なんかの強制力さえなきゃ、向こうに従えさせるのは無理だね」
「「愛し子…?」」
ポカーンとする2人。
どうやらこっちの平民はうちの愛し子制度は知らないみたいだね。
「そこで何をしている!」
「ユージェリス様?どうかされましたか?」
そこへ突然、随分厳つそうな兵士とレリックが小走りでやってきた。
これが例の兵士長かな?
「レリック、ちょっと話聞いてただけだよ。いい話が聞けた」
「左様ですか、それはよろしかったですね」
「従者殿、こちらが例の…?」
「ええ、我がアイゼンファルド侯爵家のご子息様です」
「こちらが愛し子様…」
「「こ、侯爵家だったんすか?!」」
あ、身分は言ってなかったっけ。
2人がめちゃくちゃ驚いてる。
「まぁ侯爵なんて父の爵位だし、僕は次男だから継がないし、気にしないでよ」
「「は、はぁ…」」
「…しかし、貴方様は愛し子様だとお伺いしました。そのような方が…」
「構わないよ、兵士長殿。彼らには有益な情報を貰えたから、その対価を払わなきゃいけないくらいだ」
「「「対価?」」」
首を傾げる兵士3人。
レリックは察したのか、口元を隠して少し笑ってる。
僕は少し黒い笑みを浮かべ、マントを翻して3人に背を向ける。
「…《ヴァイリー王国精霊・ヴァイリーの名代を受け、リリエンハイド王国愛し子・ユージェリス=アイゼンファルドが貴国の王族を正しき方向へと導こう》…それが君達へ支払う対価だ」
「「「?!」」」
僕の体に、赤いキラキラした光が纏わりつく。
なんとなく、ヴァイリーの気配に近い気がした。
きっと僕が認められたからだろう。
ね?ヴァイリー。
ロジェスはユズキのクラスメイトです。