国境での有益な情報
そしてあれから3日後。
お外は真っ暗で街灯の明かりがいつも以上に輝いて見える、そんな光の10刻です。
まぁ街灯なくても周りは見えるんだけどね、謎現象だから。
僕と母様、シャーリーとレリックという少人数で昨日から馬車に揺られてる。
レリックは御者も兼ねてます。
にしても遠いよなぁ、ヴァイリー王国。
これはニコラもしょっちゅう王都に来れなかったわけだわ。
あぁ、そう言えば漆黒期1日目にはルーファス達が家に突撃してきた。
僕が戻ったって知らせをレオ経由で聞いたらしい。
そりゃあもう、凄い剣幕だった。
ちなみにナタリーは怒りながらも半分泣いてた。
ニコラは怒るよりも心配してくれた。
ルーファスは単純に超怖かった。
レオは精霊界について聞きたがって目を輝かせて迫ってきた。
ある意味レオが1番怖かったかもしれない。
とりあえず話せる範囲だけにして、ちゃんと心配かけた事を謝った。
ついでにニコラには例の魔導具の誤作動(?)について話して、陛下が感心してたって言ったら恐縮してたよね。
多分ロイド様は陛下から直でお褒めの言葉を賜ってそうだ。
ちなみに今回のヴァイリー王国への訪問について話したら、ナタリーは自分のせいかと慌ててた。
いや、どちらかと言えばナタリーのお陰で問題に早く気付けたんだけどね?
4人からは頑張れと励まされ、帰ってきたらまた遊ぼうと約束をした。
「ユージェリスちゃん、最初は私に任せてくれるって事でいいのよね?」
母様がヴァイリー王国に入る前に、最終確認を行う。
その目はやる気満々だった。
…殺る気、ジャナイヨ?
「うん、まずは母様に全てお任せする。それで意味不明な事言い出したら、一瞬で制圧して潰す。最悪国がなくなってもいいって精霊のヴァイリーが言ってたし!そしたらさっさと帰ろうね、帰りは転移魔法だから早いよぉ!」
「…ユージェリス様、何やら物騒な発言ですが…」
「しょうがないわ、向こうが悪いんだもの」
「奥様…」
シャーリーが心配そうにため息をつく。
やだなぁ、最初を母様に任せてる時点で譲歩してるってばぁ、ふふふ。
そこから数刻して、やっとヴァイリー王国との国境門に辿り着いた。
レリックが門で受付や確認を済ませてくれている。
「…なんだか、兵士さん達の表情が浮かないわねぇ」
「左様でございますね、やる気もあまり感じないといいますか…」
2人に倣って、窓の隙間から外を覗き見る。
確かに全員、顔色があまり優れない。
仕事のやる気もないのか、兵士なのに武器を所持していないようだった。
ちょっと気になるので、指を鳴らして話し声を盗み聞く事にしよう。
『…随分立派な馬車だな、リリエンハイド王国の貴族か?』
『なんでもうちの王位継承権をお持ちの方が乗ってるらしいぞ』
『マジかよ、もしかして継いで下さるのか?!』
『いや、どう考えても破棄しに来たんだろ…誰がこんな国…』
『あーあ、新しい陛下が他国からいらして下されば、この国も変わるだろうに…』
『王族全体的にダメダメだもんな。いくら貴族がマシでも、最終決定する王族がダメダメじゃなぁ…最近の上位貴族の流行り、知ってるか?』
『流行り?なんだよ』
『如何に王族の目を掻い潜って大切な案件の承認を貰うか、だそうだ』
『気の毒過ぎる…』
『確か兵士長も伯爵家の四男とかそんなだったよな…気の毒過ぎる…』
『平民で良かったというべきか、なんというか…』
『なんで貴族達は謀反とかしないんだろうな?平民がやらないのは、地方貴族とかは良い人達が多いからって聞いた事あんだけど…』
『なんでも王族には“精霊玉”ってのがあって、それで貴族達が手出し出来ないって聞いたなぁ』
『なんだそれ、初耳だぞ?』
『まぁ俺も噂で聞いただけなんだけどさ、“精霊玉”ってのは、精霊様が今の王族を王族として認めた証ってやつらしい。それを持ってる奴に危害を加えると、精霊様が召喚されて危害を加えた奴らを罰するんだと』
『マジかよ、そんなん信じてんの?』
『昔、罰せられた貴族がいるって噂だ。だからやろうにも出来ないんだろ。それがなければ今頃この国は王政撤廃してんだろ、どっかの国みたいに』
『それでいいと思うけどなぁ』
…なんか、結構重要な事聞いちゃったな。
もしかしてこんなところでも幸運スキルが発揮されたんだろうか。
にしても、“精霊玉”ねぇ…?
ヴァイリーはそんな話してなかったけどなぁ…
暗記スキルも反応ないし、書籍にはされてないものだな。
ただの噂と取るか、事実と取るか…
…どうやら、この国の王族は嫌われてるらしい。
王族ってどこまで含まれるんだ?
もうちょい詳しい事聞いてから敵陣地に行きたいなぁ…
「母様、ちょっと待ってて。有益な情報聞けそうだから、出てくる」
「あら、気をつけてね?」
「はーい」
簡単に許してくれる母様も凄いな。
僕は気配を消して、『ワープ』でさっきの兵士達の後ろに跳ぶ。
うん、気付かれてないね。
「兵士長なら知ってんのかな?」
「教えてくれねぇだろ、本当だったら国の極秘事項だろ?」
「えー?でも僕知りたいなぁ」
「そう言うなって、兵士長だって立場ってもんが…え?」
「え?」
「ん?」
2人が固まって、ギギギっと油の足りないロボットみたいに振り返る。
やっと僕と目が合う2人。
にっこり微笑むと、2人の顔面は蒼白で脂汗が噴き出るのであった。