進み過ぎた時間
まさかの髪色で来れなかっただけとか。
そりゃ、あんな真っ赤な髪の幼女がいたらめちゃくちゃ目立つけどさぁ…
「…魔法で髪色変えるとか、ウィッグでも良かったんじゃないの?」
『向こうで魔法は使えないのら。ちゃんとした実体があるわけじゃないから、ウィッグも難しいのら』
あぁ、そっか、人間じゃないんだもんな、この子達。
すっかり忘れてた。
『…おぉうっ!サガラユヅキ、そろそろ帰った方がいいのら!』
「え?なんで?まだここに来て1刻も経ってないし…」
『…あー、終わっちゃったのら…悪い事したのら…』
「だから何が?!」
『ふむ…あぁ、そうか、サガラユヅキ、早めに帰った方が良さそうなのさ。こことの時間のズレが酷い事になってるのさ』
「時間のズレって…え、向こうではどれくらい経ってるの?まさか1ヶ月とか?!」
『…もうすぐ10ヶ月経つのら。あ、経ったのら』
「現在進行形ー?!」
え、ちょっと待ってよ、時間のズレ酷すぎない?!
10ヶ月って…え、僕もうすぐ第2学年って事?!
いくらなんでもいなくなりすぎでしょ!!
『とりあえず、今すぐ送るのら。10ヶ月分の体の成長は戻ったら進むのら。それに合わせて服も直しておいてあげるのら』
『何かあればまた来い、と言いたいところだが、こういう事も起こるのさ。次来る時はズレが甘い時を願ってるさ』
「いやいや、まだ聞きたい事があるんだけど?!」
『今回は諦めるのら!とりあえずヴァイリー王国の事を片付けてくるのら!うちの国もこの10ヶ月で色々あったから、家族に話を聞いた方がいいのら!では行くら!《ーーーーーーーーーーーーーー》!』
『さらばさ』
リリエンハイドから聞き取れない言葉が発せられる。
あれが本物の精霊語ってやつかな?
それに伴って、僕の意識は次第に暗く落ちていくのだった。
それにしても…急過ぎませんかねぇ…
目を開くと、そこは見慣れた自分の部屋だった。
とりあえず部屋の真ん中で上向いて倒れていた模様。
うーん、本当に急過ぎるわ。
コンコン、ガチャリ。
「失礼しま…す…」
タイミング良く部屋に入ってきたのは、フローネ付きのセリスだった。
床にいる僕を見て、固まってる。
「やぁ、セリス、今日何日?」
おや?声が少し変わった?
え、もしかしてこの期間で声変わり終了のお知らせ?!
「きっ…」
「き?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
えぇー?!
なんで叫ぶのさぁ?!
なんだかセリスの悲鳴(?)を聞きつけたようで、バタバタと大きな足音が聞こえ始めた。
「セリス?!どうしましたか?!」
「なんだなんだ?!」
「セリスさん?!」
集まったのは、使用人達ばかりだった。
シャーリーに、セイルに、ドリーなどなど。
「ゆ、ゆ、ゆ…!!」
「どうしたんです、落ち着きなさい!ユージェリス様のお部屋で一体何…が…?」
セリスの肩を掴んで落ち着かせようと声をかけてるシャーリーが、床に寝転ぶ僕に気付いた模様。
しっかりばっちり固まってる。
「…ユージェリス、様…?」
「「「「え?」」」」
そして遅れて気付く他のメンバー。
「ただいま、シャーリー。それで、今日は何日?」
とりあえずもう1回聞いておく。
すると突然、シャーリーがポカンとした表情そのままに、だぁっ!と涙を流し始めた。
いやいやいや、なんでなん?!
驚いて飛び起きて、ポケットのハンカチを手にシャーリーに近付く。
「しゃ、シャーリー?泣かないでよ、どうしたの?」
「ど、どうしたのじゃありませんっ!!今まで何をされていたのですかぁ!!」
両手を顔に当てて、号泣するシャーリー。
セイルとドリーもなんだか涙目だった。
あれ?セリスがいつの間にかいない…
「何って言われると難しいけど、精霊に会って色々話を聞いてきてて…僕的には1刻も経ってない感覚ではいるんだけど…」
「ユージェリス様、今日は3雷30日…ロイヴィス様のご卒院式の日になります。ちなみに開会は光の10刻からで、先程始まったくらいですね」
「へ?」
ドリーが教えてくれた日は、本当に僕が精霊を召喚した日から10ヶ月以上経っていた。
それに、なんだって?
兄様の卒院式?!
晴れ舞台じゃないか!!
「ちょ、父様達は?!」
「皆様式にご参列しに行かれましたよ」
「…僕も行かなきゃ、だって兄様の晴れ姿だよ?!見なきゃダメじゃん!」
「え、でもユージェリス様、お体とかは大丈夫ですか?なんか背も伸びて声も少し低くなられたような…」
「大丈夫、めちゃくちゃ元気!シャーリー、ちょっといい服出して!あ、サイズ合うかな?!」
「ぐすっ…はい、大体ですが、大きめのサイズもご用意しておりましたからございます…すぐに用意致します」
「ごめんね、ありがとう!」
「あー、じゃあ俺達は皆様が帰ってきた時の夕飯の準備を始めるか。きっとロイヴィス様の卒院祝いと、ユージェリス様の帰還祝いになるだろうからなぁ。昼は食べて来られるって旦那様が言ってたし」
「そうですね、多分セリスさんがレリックさんに先付で連絡を入れてると思いますし、僕達は僕達の仕事をしましょうか。あ、その前に僕、妻に連絡してきますね」
「おう、先に厨房行ってるわ」
そう言って、セイルとドリーは部屋から出て行き、他の使用人達も元の仕事へと戻っていった。
シャーリーはクローゼットで服を見繕ってくれている。
兄様、待っててね!
今すぐ行くから!