ハンバーガーセット
またもやお料理回。
2人に屋敷を案内してもらった次の日、僕は朝からトイレで悩んでいた。
何故なら…
「…どうやってすればいいんだろう」
昨日はトイレに行かなかった。今日になって猛烈に行きたくなった。
だがしかし。
…どうやってすればいいのかわからない。
あれか?立ってするべきなのか?
でも初めてでそれってハードル高いわ。
…うん、諦めた、座ってしよう。
ちなみに昨日の夜はお風呂でも悩んだ。
リリーが洗ってくれるとか言い出して、全力で拒否した。
なんか物凄く恥ずかしかったから。
そして服を脱いで、がっつり見てしまった。
…まぁ、5歳だしね、こんな感じだよね。
今更恥じらうほどではないけど…まだちょっと抵抗があった事をお知らせします。
「…ふぅ、スッキリした」
手を洗って、トイレから出る。
ちなみにトイレは部屋にある。
お風呂は1階だった。
鏡で身だしなみを確認して、部屋から出る。
「おはようございます、ユージェリス様」
「おはよう、リリー。行こうか」
「はい」
食堂へ向かうと、すでにみんな揃っていた。
「おはよう、ユージェリス」
「おはよう、ユージェリスちゃん」
「おはよう、ユージェ」
「おはようございます、ユージェお兄様」
「みんな、おはよう」
僕が席に着くと、料理が運ばれてくる。
運ばれてきたのは…
「…あれ?フレンチトースト?」
なんと、フレンチトーストだった!
フレンチトーストのお皿に、果物と蜂蜜が載っている。
他にはコンソメっぽい色の野菜スープがあった。
まさかセイル、昨日の今日で組み込んでくるとは…
「レリック、これは?」
「昨日ユージェリス様が作られたものを真似て作ったそうです」
「おぉ、ではこれが『領域の料理』なのか!それは楽しみだな」
「お父様、『領域の料理』とはなんですの?」
「あぁ、フローネはまだ習っていないのか。後で本を貸してあげるから、確認してみなさい」
「はい、お父様!」
ほう、父様は答えを教えてくれないタイプか。
でもその方がいいよね、自分で調べた方が覚えやすいし。
そしてみんなでフレンチトーストを実食。
というか、この世界には『いただきます』と『ご馳走様』ってないんだな。
いや、前世でもあの挨拶自体は日本だけか。
「美味い!」「「「美味しい!」」」
僕以外の4人が驚きの声を上げる。
僕的には…まぁ、満足かな。
これなら全然あり。
ただ強いて言うなら、フレンチトーストが少し焼き過ぎなのと、野菜スープに一味足りない。
中火だったのかな、弱火じゃないとふわふわ綺麗に出来ないのに。
野菜スープは本当に野菜のみで作ってるんだろう。
ウインナーとかベーコンとか、ちょっと肉の旨味が欲しいかも。
「なんだこれは、甘いパンがこんなにも美味いなんて!」
「柔らかくて甘くて…本当に美味しいわ!」
まぁいつものパンがスコーン並みにポソポソで硬いからなぁ…
卵液染み込ませたら、そりゃ柔らかくなるわ。
「「おいひーい」」
ロイ兄様とフローネが口に詰め込みながら、幸せそうに言う。
うん、いい笑顔だ。
「ユージェリス様、いかがですか?」
「ん?うん、いいと思うよ。まだ完璧とは言えないけどねー」
「おや、手厳しい。私も味見はしましたが、とても美味しかったですよ?」
「本物はもっと美味しいからね。僕が作った物すら紛い物だもん」
「本物…ですか…それは、とてつもなく美味しいのでしょうね」
あ、本物って言葉に反応してる。
きっと精霊界とか色々考えてるんだろうな。
実際には前世の話ですが。
「ユージェリス、こんな凄いものが作れるんだな。また何か作っておくれ。そしたらセイルが頑張るだろうからな」
「後でベティ様への贈り物を作るつもりなので、また覚えてくれるんじゃないですかね」
「おぉ、それは楽しみだ。私の分も作っておくれ、陛下の目の前で食べてくるから」
「はい、父様」
父様、どれだけ陛下に嫌がらせしたいのさ。
絶対王妃様もやるでしょ、いい笑顔で。
…でも協力します!
「お兄様、私も食べたいです!」
「僕も!」
「何人分かになるだろうから、余った分なら食べていいよ」
「「わーい!」」
うん、2人とも可愛い。
「あぁ、そうだ、ユージェリス。今日の昼頃、愛し子様の件を国民全員に発表するから、もしかしたら少しバタつくかもしれない」
「どうやって発表するんですか?」
「私を筆頭に、宮廷魔術師総出で国全体に『エリア』をかける。その後に『エコー』で陛下のお声を響かせるんだ」
「『テレパシー』ではないんですね」
「『エコー』の方が消費魔力が少ないんだ。出来るだけ負担を減らすんだよ」
そうか、国全体なら大変だもんな。
いくら宮廷魔術師とは言え、範囲が広ければ広いだけ負担になるよね。
「基本的に、ユージェリスの周りは変わらないはずだ。愛し子様への個人的な声かけは国の禁止事項になっているから、問題は私やマリエール、デビュー済みのロイヴィスだな。友人から顔見知り程度まで、ユージェリスへの顔つなぎを頼んでくるだろう。家族からの紹介でユージェリスと話す事は問題ないからな。とりあえずデビュー前で人前には出ないと断ればいい。デビュー後については、またその時に考えよう」
「「はい」」
「使用人達にも金を積んで顔つなぎを頼むバカもいるかもしれん。注意喚起を徹底しておくようにしてくれ、レリック」
「承知致しました」
そっか、紹介制なのか。
僕的にはみんなが選別してくれるから楽だけど、みんなに申し訳ないな。
…今度みんなになんかお菓子でも作ろう。
「全員、今日は緊急の用事がない限り、屋敷から出ないように。わかったな?」
「「「「はい」」」」
あ、でも…
「ベティ様への贈り物、どうしよう…」
「レリックに渡して、私に届けるようにすればいい。頼んだぞ、レリック」
「はい、承知致しました。ユージェリス様、作り終えましたらお呼び下さい」
「わかった、よろしくね」
こうして全員が朝食を食べ終わったところで、解散になった。
僕はリリーを連れて、厨房へ向かう。
厨房に入ると、片付けをしていたセイルと目が合った。
「ユージェリス様!朝食はいかがでしたか?!」
「美味しかったよ、ありがとう」
「こちらこそありがとうございます!」
…なんかセイルが変わり過ぎて違和感。
あのちょっと軽くて適当な感じの方がいいなぁ…
「…セイル、前みたいに話せばいいよ?別にそんなしっかり話さなくても…」
「いやでも、本当にユージェリス様を尊敬してて…色々見せてもらうわけだし、態度で示したいというか…」
「…まぁ、それならいいけど…また厨房の一角借りるよ。ベティ様…王妃様への贈り物を作るから」
「王妃様の?!承知しました、こっちへどうぞ!」
セイルに案内されて、昨日と同じ場所に行く。
手を洗ってから台の上を見ると、昨日よりも色々食材が揃っていた。
さて、何を作ろうか…
きっとベティ様は特に日本食を恋しがってる気がする。
日本食…でも醤油とか味噌とかないんだよねぇ…
煮物とか簡単でいいけど、ないし…
「…寿司、天ぷら、あぁ、かき揚げもいいかな。揚げ物で攻めてみるか、太るかもだけど。かき揚げ、塩唐揚げ、コロッケ、フライドポテト…一貫性がないな…」
「ユージェリス様、どうなさいました?」
「何が喜ばれるかなーって。軽いものがいいか、がっつりがいいか…ベティ様の好きなもの聞いておけばよかった」
「王妃様でしたら、確か『はんばぁぐ』というものが好きだと昔母が申しておりました。私の母は王妃様の侍女頭をしておりますので。でもそれが何かわからず、困ったと言っておりましたが…」
「へぇ、ベティ様の!ってか、ハンバーグか、王道だな」
「ユージェリス様はご存知ですの?」
「まぁね」
じゃあ、ハンバーグにしよう。
でもハンバーグだけだとあれだから、簡単なパン作って、挟んだやつにしよう。
ハンバーガーもどきだ。
ボウルに小麦粉と、砂糖と、牛乳と、オリーブオイルと、ちょっとだけ塩入れて…
「セイル、ベーキングパウダー…膨らし粉ってある?」
「そこの青い蓋の瓶に入ってるのがそうです」
「ありがとう」
危ない危ない、忘れるところだった。
前に作った時は入れ忘れて、なんかすごく残念な感じになったんだよなぁ…
ってか分量これで大丈夫かな、めっちゃ適当なんだけど。
…スキル補正に頑張ってもらおう。
「ぐーるぐーるぐーる…♪」
なんか歌っちゃうんだよねぇ、癖かな。
あ、まとまってきた。
今度はお手手で捏ねて、まとめて…んで、成型。
軽食って事で、小さめのを作ろう。
フライパンに並べて…
「《イグニッション》」
おとと、弱火弱火。
火が強いとすぐに焦げちゃうし、生焼けになっちゃう。
その間に、ハンバーグを作ろう。
玉ねぎみじん切りにして…炒めるのはめんどくさいから、今日は生のままでいいや。
いや、待てよ?
魔法でなんとか出来ないかな…
ってか、捏ねるところまで魔法で出来るんじゃね?
何かいい魔法…あった。
「《カット》かーらーの、もっかい《カット》!」
おぉ、成功した!
縦に切って、横に切って、いい感じにみじん切りだ!
「なるほど、そういう使い方が…!」
「ユージェリス様、凄いですぅ!」
セイルは感心しつつ、リリーはまたポンポン持って応援してた。
だからそれどこから持ってきたの。
「えっと…飴色玉ねぎは難しいな、黒焦げなら簡単だけど…火が通ってればいいか。《ヒート》」
ボウルに入っていた玉ねぎを加熱する。
やりすぎるとマズイから、加減しないと…
【手加減スキルを取得しました 】
…お?
もしかして、新しいスキルか!
というかこれ、ベティ様が言ってたやつじゃん!
やったね、魔物倒さなくてもゲットだぜ。
スキルのおかげか、簡単に火の通った玉ねぎになった。
「軽く《クール》で冷まして…他の材料も入れて…《ミックス》」
ひき肉と卵とパン粉と牛乳と、調味料各種。
ボウルの中でぐるぐると回っていた。
…こんなもんでいいかな?
あとは手で成型しよう。
ハンバーガーなら、ちょっと薄めの方がいいよね。
「魔法をあんな風に料理で使うなんて…初めて見た…」
「ユージェリス様は魔法を使うのがお上手ですねぇ」
え、やっぱり魔法使って作る事ないの?
便利だと思ったけど…
あれか、コントロールが難しいのかな?
あとは人それぞれ魔力量も違うわけだし…
どちらかと言えば、今の使い方も料理というよりかは理科の実験っぽかった。
【錬金スキルを取得しました】
【調薬スキルを取得しました】
ほら、なんか変なスキル手に入れちゃったし。
錬金と調薬…まぁ、良しとするか。
ハンバーグも焼いて、仕上げていく。
途中でパンも1度ひっくり返した。
焼き上がったパンを切って、ケチャップを塗る。
そこにレタスと、焼き上がったハンバーグを乗せて、スライスチーズ乗っけてトマトのスライス重ねたら…
「お・い・し・く・なーあれっ♪…出来上がり!」
うん、なんかそれっぽく出来たじゃないか!
リリーが持ってきてくれたケースに2つ入れて…
「《キープ》」
これで出来立ての状態が保たれる、らしい。
本当に魔法って便利だねぇ。
「リリー、レリック呼んできて…って、リリー?」
口からよだれ垂らして、ハンバーガーもどきをガン見するリリー。
あぁ、美少女が残念な事に…
「…味見に一口あげるから、レリック呼んできて」
「行っています!!」
被せ気味に叫んで、リリーが厨房を飛び出していく。
…ちょいちょい、リリーが壊れるよな。
主に食べ物関係だけど。
…ハンバーガーといえば、フライドポテトもいるな。
リリーが戻って来る前に作ろう。
『カット』でじゃがいも細切りにしたら、小麦粉と片栗粉と塩を混ぜた粉に塗して…油を『ヒート』で温めてから『イグニッション』。
カラッと揚げてぇ…引き上げたらお塩をパッパッと。
ほーら、○ック風に出来上がり☆
「…めちゃくちゃ手際がいい…」
「ん?どうかした?セイル」
「いや、なんか一瞬で終わった気が…なんでもないです、はい」
「そう?とりあえず『キープ』」
ベティ様、喜んでくれるかなぁ!
あぁ、直接反応が見たかったデス。