ベティ様へのお願い
ちょっと短めです。
「…生憎、クズ男でもなければ悪女でもありませんよ、ベティ様」
僕はため息をつきながら、ベティ様に軽く手を振る。
全く、人をなんだと思ってるんだ。
「あら、そーお?あぁ、そういえば今日はご苦労様。私の方もわかる部分の解読は終わったわよ」
「え、流石ベティ様、お早いですね」
「まぁ一部分だけだったしね。後でルートレールからお聞きなさいな」
「承知致しました」
「はい、そうさせていただきます。今は少し急いでいますので」
「あら、どうしたの?」
「えーと、ベティ様、うちのリリーの母親は今どちらに?」
「リリーちゃんの?彼女がそうよ、ルリエル」
そう言ってベティ様が体をずらすと、後ろに1人の女性が控えていた。
暗めの茶髪を纏めていて、リリーと同じ緑の瞳は驚いたかのように見開いている。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。いつもお嬢さんにはお世話になっております」
「る、ルリエルと申します!こちらこそ、娘がいつもお世話に…!!」
なんだかんだご挨拶するのは初めてだった。
だからなのか、めちゃくちゃ緊張した様子のルリエルさん。
にしても、平民で王妃様付きの侍女頭やってるって凄いよねぇ。
…いや?本当に平民なのか?
まぁそこは一旦いいか。
「ベティ様、ルリエルさんをお借りしたいのですが」
「あら、ルリエルを?とりあえず今日この後は急ぎの用事とかないからいいけど…どうかしたの?」
「リリーが産気付いて、今頑張ってるんです。お母さんを側に付けて支えてほしくて…」
「リリーが?!予定日は来月だって…!!」
「まぁ、それは一大事ね。ルリエル、ユージェと早く向かいなさい。陛下や他の子には私から伝えておきますから」
「で、ですが王妃様…!!」
「…母親なら、側にいてあげた方がいいわ。貴女だって身に覚えがあるでしょう?」
「…っ!!そ、う…ですね…」
「それに初孫なんでしょう?是非父親よりも先に抱っこしちゃいなさい!これは命令よ!」
ベティ様がルリエルさんにウィンクする。
うーん、それはドリーが悔しがりそうだな、可哀想に。
「…ありがとうございます、王妃様。御前失礼させていただきます」
ルリエルさんが頭を下げて、ベティ様へ感謝を述べる。
そして僕を真っ直ぐに見てから、もう1度頭を下げた。
「ユージェリス様、お手数かとは思いますが、何卒リリーの元へとお連れいただけますでしょうか?」
「勿論、そのために僕はここに来たんだから。お手をどうぞ?ルリエルさん」
僕は笑顔で右手を差し出す。
ルリエルさんは少し安心したように微笑んで、僕に手を重ねてきてくれた。
「では、《ワープ》」
視界がボケる。
最後に聞こえたのは、ベティ様の呟きだった。
「…変なところでユージェって王子様気質発揮するわよね」
ちょっと、聞こえてますからね?!